緋緋色金の反応
「よし、着いたぞ。ここがルークの感知した採掘予定地だ」
そこは掘削作業用に半円形の横穴がいくつか掘られていていた。
「さて、到着した様だが、ここからどうするんだ? レイ殿?」
「ルークと俺は哨戒しながら地層調査、ネブラスカ嬢はエリーゼ嬢と採掘班の採掘品の鑑定って所か」
「了解しました。それでは私はこちらで作業をしていますので、何かあればお呼び下さい」
「分かった。それじゃあ行くぞ、ルーク」
「はい。それじゃあクレール二人を頼んだよ、また後でね」
「うん!」
俺達はレイさんの案内に従い、地層の調査を始めた。
「さて、先ずはここからだが、どこ辺を調査するんだ?」
「そうですね……まずはこの辺りを調べましょう」
「そうだな。んじゃあ、手分けして調べるか、っても俺は鑑定が低レベルだから、掘る事以外は役に立たないけどな」
「分かりました……っていうよりも、皇帝直々に掘削作業を行うって、どうなんですかね?」
「そこは言わねぇお約束ってヤツだろう? それに最近は書類仕事ばかりで、まぁ、お陰でグレミアと過ごす時間は出来てるけどな」
それから俺とレイさんは二時間程かけて地質調査を行った。
緋緋色金の反応はあったが見つからず、次の横穴に移動しようとしたその時だった。
――ズゥンッ!
突如として地面が大きく揺れた。
「なっ!? 何だ、地震か?」
「いえ、違います! 地中から魔力を感じます!」
「なに? おい、ルーク! あれを見ろ!!」
俺達の目の前には巨大なゴーレムが出現していた。
その体は赤銅色の金属で覆われ、全長は3メートル程ある。
両手にはそれぞれ斧を持ち、腰からは剣を携えているようだ。
頭部には角のような物が二本あり、体の大きさも相まって非常に威圧感がある。
そして、胸部の中心には魔石が埋め込まれており、そこから膨大な魔力が放出されている。
緋緋色金の反応はゴーレムから発せられているようだ。
恐らく、俺が感知した緋緋色金の正体は、このゴーレムなのだろう。
俺達が呆気に取られていると、ゴーレムは突然動き出し、俺達に向かって襲ってきた! 咄嵯の判断で俺はレイさんを抱え飛び退いたが、背後にあった岩はゴーレムの攻撃により粉々に砕け散った。
「油断すんな!! もう一体居るぞ!!」
攻撃の余波で土煙が立ち込める中、レイさんが声を上げる。
その表情は険しく、明らかに焦っているようだった。
そして、その視線の先には先ほどまで無かった筈の、新たなゴーレムの姿があった。その姿は白銀色をしており、大きさは5メートルほど。
その手には槍を持って構えていた。
胸の部分には赤のゴーレム同様、魔石が嵌め込まれていたが、他の個体よりも大きく、まるで心臓のように脈打っている。
そして、その瞳は赤く輝いていた。
恐らく、あのゴーレム達は何者かが置いた守護者なのだろうと予想できた。
しかし、今はそんな事を考えていても仕方がない。
安全を確保する為にも、ここは一度逃げるしかないだろう。
そう考えた俺はレイさんに声をかけようとしたのだが、それよりも早くレイさんが口を開いた。
それも、とても嬉しそうな声で……
それはもう楽しげな様子で……
俺は嫌な予感を覚えつつも尋ねずにはいられなかった。
もしかすると、聞き間違いかもしれないと願いを込めて……
もし、そうでないのなら、きっととんでもない事になるであろう事を覚悟して……
そして、意を決して問いかける。
もしかすると、聞き間違えかもしれないという僅かな望みをかけて……
だが、そんな希望はあっさり打ち破られる事となる。
レイさんの口から飛び出してきた言葉によって……
レイさんは満面の笑みを浮かべながらこう言ったのだ。
「―――戦うぞ!! 」
そして、その言葉を待っていたかのように、2体のゴーレムが動き出す。
白銀のゴーレムは俺達に向かって走りだし、もう1体はゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくる。
俺は内心溜息をつくと、仕方なく迎撃する事にした。
正直、あまり戦いたくはないのだが、レイさんがやる気になっている以上、付き合うしかないだろう。
それに、ここで逃げれば、後々面倒な事になりかねない。
ならば、今のうちに倒してしまうのが一番だろうと考えたからだ。
「ルーク、こっちに来る奴は任せる!」
「分かりました!」
「俺は奥のやつをやる。行くぞ!!」
そう言うなり、レイさんは駆け出した。
それを見た俺も、レイさんの後を追うように走りだす。
俺達が近付いて来るのを確認したのか、白銀ゴーレムの動きが急に速くなった。
どうやら、速度上昇系のスキルを使ったようだ。
そして、その勢いのまま、手に持った槍を振り下ろしてくる。
俺はそれをバックステップで回避した地面に叩きつけられた槍はそのまま地面を大きく陥没させ、周囲に砂埃を巻き上げた。
威力自体はそこまで高いわけではないようだが、それでも直撃すればタダでは済まないだろう。
そう判断した俺は、すぐさま反撃に移る事にした。
だが、次の瞬間、視界の隅でレイさんの姿が消える。
恐らく、跳躍系統のスキルを使用したのだろう。
レイさんは空を舞うような動きで白銀ゴーレムの背後に回り込み、そのまま空中から蹴りを放った。
だが、レイさんの攻撃は、白銀ゴーレムにダメージを与えるものでは無く、赤いゴーレムに対する攻撃の起りに過ぎない。
レイさんは、蹴った力を推力に利用して、即座にその場を離脱する。
そして、入れ替わるようにして俺が白銀ゴーレムの前に立つ。
レイさんの攻撃を見て分かったが、あの白銀ゴーレムは防御力と速度に特化しているようだ。
白銀と言うだけあって、全身が金属で覆われており、打撃系の攻撃はあまり効果がないだろう。
しかも、弱点でもあるコアが剥き出しな赤いゴーレムと違い、嵌め込まれた場所が、若干薄い膜に覆われている。
つまり、生半可な力で殴っても弾かれてしまう可能性がある。
ならば、方法は一つだけだ。
俺は大きく深呼吸をして集中力を高める。
そして、拳を握ると同時に魔力を流し込む。
――バキンッ!
硬質な音が響き渡る。
俺が放った一撃は見事に命中した。
『工夫すれば、ゴーレムのコアを抜けるんじゃねぇか』と以前ヴォークスのゲルバスさんに言われた事があった。
それを実行に移した訳なのだが、上手くいったようだ。
俺のアポートを受けたゴーレムの胸部の魔石から大量の魔素が噴出される。
同時にゴーレムは崩れ落ち、完全に活動を停止した。
「レイさん! そっちは終わりまし……た?」
レイさんの方へ視線を向けた俺は思わず固まってしまった。
何故なら、レイさんは俺の目の前で腰を落とし、両手でしっかりと白銀ゴーレムが持っていた物と同じデザインの槍を握っていたからだ。




