お説教と言う名のお話
「……まあな」
「まあなじゃないでしょう!? 何してるんですか!?」
「だって、仕方ねぇじゃんかよぉ……」
「いや、そんな子供みたいな事を言われても……」
目を逸らしながら、レイさんはクーニャさんの方を見るが、クーニャさんの目は、相変わらずヘルメットに隠されて見えない。
「でも、ほら? 早く帰れそうな時はさ、連絡の必要ねぇって言ってたから、2、3日位なら問題無ぇし、しなくても良いかなと思って……」
「普通ならそうなのかも知れませんが、今回の件は流石に連絡くらいは入れてあげて下さい。きっと心配されてますよ?」
「うぅ……。そうだな、今度からは気をつけるわ」
「はぁ……」
それから、俺達は城に辿り着くまで、どう謝るのかを考えては、ため息をついていた。
「さてと、そんじゃあ帰るとするかね」
「はい。ところで、レイさん」
「ん? なんだ?」
「蜘蛛の名前決まりました?そろそろ教えてくれないと、不便なんですが……」
「ああ、それならもう決まってるぜ!」
「そうなんですか?」
「おう! こいつの名前はな……」
そう言って、レイさんは蜘蛛に向かって話しかける。
「これからよろしく頼むぜ、ラティーファ」
『……』
(ラティーファか。うん、反応を見るからに悪くないんじゃないかな?)
そう思いながら、俺は自分の後ろに付き従う蜘蛛を見た。すると、名前が気に入ったのか、レイさんが呼べば呼んだだけ蜘蛛は嬉しそうに体を左右に揺らしていた。
こうして、俺達に新しい仲間が増えたのであった。
「おっと、忘れるところだった」
そう言いながら、レイさんは懐に手を入れる。
そして、そこから取り出したのは小さな袋だった。
「これやるよ」
「これは?」
「中を見てみろ」
言われた通りに開けてみると、そこには様々な色の宝石が入っていた。
赤・青・緑・黄……など、色とりどりで見ているだけで心が安らいでいく。
しかも、それぞれ微妙に形が違うようだ。
「凄いですね……」
「そうだろう? 実は、これ全部魔法石だ」
「えっ!? 見た感じかなり高い品質で、この大きさですよ?」
渡された魔法石は、スキルを使わなくても理解る程、質が高いものだ。こんなもの一体どうやって手に入れたのだろうか?
「これをどこで……」
「まあまあ、それはいいじゃねえか。報酬を払うって言っただろう? あの木箱とは別だから、受け取っとけ。それよりも、今は早く帰ろうぜ?」
「は、はい」
結局、レイさんが何処でこの魔法石を入手したのかは分からずじまいだった。
「はぁ〜疲れた〜」
レイさんはそう言いながら、ソファーに倒れ込んだ。
俺も同じようにして、座り込む。
ちなみに、レイさんは城に入る前に城内でいつも着ている服に戻っていた。
「お帰りなさいませ」
「おう、ただいま」
俺達が部屋に戻ると、グレミアさんが変わらないか細い声で出迎えてくれた。
「貴方様、ルーク君。本当にご無事で何よりです」
「グレミアさんこそ、お変わりないようで安心しました」
「ふふっ、ありがとうございます。それと、私はレイに話がありますので、連れていきますね」
「わかりました」
グレミアさんはレイさんの腕を掴み、ズルズルと引き摺っていく。
レイさんは抵抗する事なく、されるがままになっていた。
「……頑張ってください」
俺は小声で呟き、グレミアさんを見送った。
……そう言えば、ラティーファの名の意味を聞くのを忘れてたな。まあ、後で聞けば良いか。
それからしばらく経ち、レイさんがグレミアさんに連れられて戻ってきた。
グレミアさんは、レイさんの手を離すと俺に向き直った。
「改めて、おかえりなさい。ルーク君」
「はい、ただいま戻りました。あの……グレミアさん」
「どうされましたか?」
「実はお願いがあるんですけど……」
「なんでしょうか? 私に出来ることであれば、何でも仰って下さい」
「実は、ラティーファという名前についてなんですが……どういう意味が込められているんでしょうか?」
「ああ、ラティーファの意味は、一般的には女の子につける名前で、『美しい少女』という意味になりますね」
「なるほど……」
やっぱり女の子の名前だったんだな。
でも、何故美しい少女なんだ?
「何か気になることでもありましたか?」
「いえ、そういう訳では。ただ、俺の従魔につけた名前にどんな意味が在るのか知りたかっただけなので」
「そうですか。しかし、どうしてそのような事を?」
「実はレイさんが……」
俺はグレミアさんに事情を説明した。すると、彼女は納得したように何度も首を縦に振っていた。
「成る程……。確かに陛下なら、やりかねない事ですね」
「クーニャも、そう思います?」
「ええ。おそらく、陛下の事だから『可愛い』とか、『綺麗』という意味合いを持たせたかったんでしょう。雌蜘蛛みたいですし」
……えっ? そうなの? そう言えば、取り敢えず必要な事だけ確認したかったから、性別までは見てなかったなぁ。
「な、なら……ラティーファって名前には他に意味があるんですか?」
「『繊細な』という意味です」
……確かに坑道内での動きには、繊細さを感じたよ。
でも、そう考えると納得も出来る。
蜘蛛に繊細さを求めるのはどうかと思うけど。
そうして、俺はレイさんにジト目を向けていた。すると、レイさんは俺から視線を逸らし口笛を吹き始めた。
「まあ、そう怒るなって。それより、グレミア。妻であるお前には、ソフィアのプレゼントを取りに行くって事だけ言ったが、長居した分、要らん心配をさせちまったな。さっきのせっきょ……話の時に渡せなかったプレゼントを渡したいんだけどよ」
「……えっ? あっ、はい! ありがとうございます! 何かしら……んッ!?」
レイさんはそう言うと、懐に手を入れた。そして、そこから取り出したのは小さな袋だった。
その中身を見た瞬間、グレミアさんの顔色が真っ赤になる。
一体、何が入っているのだろうか?
「陛下、一応確認いたしますが、馬鹿ですか?」
「おい、クーニャ。いきなり何を言っているんだ?」
「この薬品は間違い無く、アレですよね?」
「そりゃあ、そうだ。あの街の1番良いヤツだよ」
「子供が居るのに何て物をグレミア様に渡してるんですか!!」
どうやら、クーニャさんの反応から察するに媚薬か妊娠を促す物らしい。
グレミアさんは顔を赤く染めたまま、固まっている。
「だって、仕方ねえだろう? 俺達夫婦なんだぜ? それにソフィアだって妹か弟が欲しいと言ってたからよ、ジークの所にも王太子殿下が生まれたから、丁度良かったって思ってたんだよ。それにグレミアが欲しいっていうから……」
「そ、それは……その……」
「ほら、遠慮せずに受け取ってくれ。な?」
「うぅ……」
グレミアさんは恥ずかしそうにしながらも、レイさんから小瓶を受け取った。
「ルーク君、少しの間席を外すわね」
グレミアさんはそう言い残すと、部屋から出ていった。
その後、レイさんに詰め寄るクーニャさんの姿があった。
ちなみに、俺は2人のやり取りを見て見ぬ振りをした。
あれ以上、巻き込まれたく無かったからだ。
ただ、アレは無いだろうと内心でツッコミを入れはしたが……。
翌日、俺とレイさんは目当ての鉱山に出掛けていた。
レイさんの案内の元、山道を登っていくと洞窟が見えてきた。
「ここが、目的の場所だ」
「思っていたよりも、小さいですね」
「まぁな。でも、これくらいの大きさの方が色々と都合が良いんだぜ?」
「確かに、そうかもしれませんね」
入り口は、前回行った坑道よりも小さくなっているが、大人三人が手を広げても通れる位の大きさだった。




