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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-16 ドーラン帝国鉱山開拓
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アビス•イデア

 鉱山を出てすぐの所にあった広場で、巨大蜘蛛の種族を解析していく。


「えーと、『アビス・イデア』か……」


 どうやら蜘蛛の種族名はアビス・イデアというらしい。

他の能力値はオールSSって半化物じみて入るが、特性も無く、扱えるスキルも毒液や糸を使った物で、魔術要素は闇の魔術が低レベルで扱える程度。


 しかし、何故この場所にこんな能力値の巨大蜘蛛がいるのか? そう思ったが、それよりも気になったのは、蜘蛛の目に緋緋色金と同じ魔力反応がある事だろう。


「やっぱ、これ緋緋色金って鉱石だろう? ルーク、どうなってんだ?」

「そうですね……」


 小声で、フォリアさんに聞こえないよう話し掛けてきたレイさんに、俺は少し考えを纏める為、顎に手を当てその予想を伝えた。


「もしかすると……この蜘蛛は『緋緋色金を食べて進化した魔獣』なのかもしれません」

「緋緋色金を食べた!?」


 その言葉にレイさんは、目を見開いて驚いていた。


「はい。正確には、この蜘蛛は『緋緋色金を直接食べた、若しくは間接的に接種した事で進化した魔獣』だと思います」

「そんな事が本当にあるのかよ?」

「わかりません。ただ、桂花の話を聞いた上で解析した結果、この蜘蛛には緋緋色金と同じ魔力反応がありますからね。それと、契約したわけでもないのに、人の話を解した事も、明らかに普通の魔獣じゃないですし……。まあ、あくまで予想なのですが……」


 俺の言葉を聞いたレイさんは、腕を組んで悩み始めた。

 そして、しばらくして口を開く。


「……そうだな。今ここで考えても答えは出ないだろう。とりあえず、ギルドに戻って報告しようぜ」

「そうですね」


 俺達は巨大蜘蛛を引き連れて、その場を後にする。

 その後、街に戻ると、既に日が落ちていたので、そのまま商業ギルドの1室で泊まる事にした。

 翌日になり、昨日の巨大蜘蛛について、商業ギルドへ報告する事にしたのだが……。


「マジかよ……」

「これはまた……」


 2人で部屋を出ると、そこにはギルドの職員達が集まっていて、巨大な蜘蛛を見て驚いているようだった。


「あ、あの〜……何かあったんですか?」


 俺が職員達に声を掛けると、1人の女性職員がこちらへと駆け寄ってくる。


「あ! お2人共、丁度良いところに!」

「どうかしましたか?」

「それがですね……」


 女性職員の話によると、昨夜のうちに巨大蜘蛛の噂が広がり、朝になった頃には街の外に出る事すら困難な状況になっていたようだ。


「なるほど、それで皆んな集まってたんですか……」

「そうなんですよ! それにしても、まさかこんな事になるなんて思ってなくて……」

 確かに、いくら衛兵が中に入れたとはいえ、いきなりあんな大きさの蜘蛛が現れたら、誰だって驚くだろう。

 だが、今はそれどころではない。


「すみません、ちょっといいですか?」


「はい?」


「実はですね……」


 俺は女性職員に事情を説明すると、彼女はすぐに奥の部屋へと向かった。

 しばらくすると、さっきの女性職員と一緒に、髭面の男が現れる。


「初めまして。私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしている、ヴィッツ・クロンダイクと言います」


 そう言って、彼は握手を求めてきた。


「冒険者のルークです」

「レイだ」

「商業ギルドのギルマスからは聞いていましたが、貴方方からも話を聞きたいのですがよろしいでしょうか?」


「ああ」


 レイさんは短く返事をして、俺を見た。

 俺は軽く頭を下げてから口を開く。


「では私から説明します」


 それから、俺達は巨大蜘蛛と遭遇した時の事を話し出した。


「―――という訳でして……」

「……ふむ」


 一通りの説明を終えると、彼は顎に手を当てて黙り込んでしまう。


「あの〜、やっぱりマズかったですかね?」


 俺がそう言うと、彼はハッとしたように顔を上げた。


「いやいや、そういう訳ではないんだ。ただ、少し気になる事があってね」


「気になる事?」


「ああ。そのアビス・イデアとかいう魔物の事なんだが、もし仮に君の話が本当だとしたら、かなり危険な魔物だと思うんだよ」


 彼の言葉に、隣にいたレイさんも同意するように小さく首肯く。


「それはつまり?」


「この世界には、失われた若しくは、伝説的な鉱物や植物というのが、いくつか存在する。今回の緋緋色金についても、半ば幻とされているような物だ」

「そうなんですか? でも、現にこうして……」


 そこまで言いかけた時、レイさんが片手を上げて、それを遮った。


「ちょっと待ってくれ」


 レイさんはそう言った後、俺の方を見る。


「ルーク、お前の緋緋色金の魔力反応っていうのは、緋緋色金そのものじゃなかったのか?」

「えっと、正確には緋緋色金とほぼ同じに変質した魔力って感じですね」

「……どういう意味だ?」

「昨日も言いましたけど、この蜘蛛は元々緋緋色金か、その影響を受けた餌を食べていたんじゃないでしょうか? そして、進化の過程で魔力を緋緋色金と同じ魔力性質に変化させたのかもしれません」

「なるほどな……」


 レイさんは納得したのか、それ以上は何も言わずに腕を組んだ。


「まあ、あくまで推測ですがね。それともう1つだけ、これは俺の勘なんですが……」


 俺はそこで言葉を切る。


「どうした?」


 レイさんが首を傾げながら、続きを促した。


「この蜘蛛は『自身以外の魔力コントロール』が出来るんじゃないかと思うんですよ」

「……ほう?」


「俺がこの蜘蛛に複合解析をした時に、僅かに魔力を吸収したんですよ。まあ、その時は俺の魔力を吸うだけだったんで、特に問題はなかったんですが、緋緋色金の性質に魔力の伝導率を上げる効果があるのなら、この蜘蛛も似たような事が出来るかもしれないと思いまして……」


「確かにそうだな……。それを確かめる為にも、一度、魔力を放出させてみる必要があるかもな」


 レイさんの言葉を聞いて、ヴィッツさんは腕を組み直してから口を開く。


「……わかりました。では、これからギルドの方に来てもらえますか?」

「わかりました」


 それから俺達は冒険者ギルドに向かい、ギルドマスターのヴィッツさんの執務室へと案内された。


「さて、まずはこの蜘蛛を調べさせて欲しいのですが、大丈夫ですか?」

「ああ、構わないぜ」

「ありがとうございます。それでは……」


 ヴィッツさんはそう言って、机の上に置いてあった魔道具を手に取る。

 そして、その魔道具を操作すると、蜘蛛に向かって赤い光が照射され始めた。


「これは一体何なんですか?」

「これは魔力量を測定する魔道具ですよ。これによって、蜘蛛がどれだけの魔力の器持っているのかを測るんです」

「へぇ〜」

「ちなみに、これを使えば本格的な魔導具には敵いませんが、魔獣の強さなんかもある程度測る事が出来るんですよ」

「なるほど」

「おっと、そろそろ結果が出たようですね」


 ヴィッツさんがそう言うと、先程まで光っていた赤色の部分が徐々に消えていき、やがて完全に消えた。


「結果は……10万5千ですか。なかなか高い数値ですね」


「そうなんですか?」


「はい。この蜘蛛はランクA相当の魔物なので、本来であればもう少し低い値が出るはずなんですが……」


 ヴィッツさんはそう言いながら、チラッとレイさんの方を見た。


「ああ、それは多分コイツのせいだろうな」

「どういう事ですか?」

「ルークの固有魔術(オリジナル)だよ。確か、複合解析だったか?」

「ええ、その通りです」

「それを使う事で、コイツのステータスが見えるようになったんだが、そこにこんな事が書いてあってな」


 レイさんはそう言って、何時の間にか写し取ったと思われる蜘蛛のステータスが書かれた紙を手渡す。


「えっ!? こ、こんな事があるなんて……」

「やっぱり驚くよな?」

「は、はい……」


 ヴィッツさんは困惑した表情で、蜘蛛を見つめた。


「あの〜、どうかしましたか?」

「あっ、いえ、何でもありません。それよりも、この蜘蛛をどうしましょうか? このままルークさんの従魔として登録しましょうか?それともそれ相応の対応が必要になりますが、素材を剥ぎ取って売るという手もあります」

「俺としては、出来れば従魔にしたいんだが……」


 レイさんがそう言うと、俺もそれに同意するようにコクりと首肯いた。


「そうですか。では、早速手続きを行いますね」

「頼む」


 それからしばらくして、俺達の蜘蛛は正式に俺達の従魔となった。

 名前はまだ決めていないが、レイさんが考えてくれるらしい。

 その後、俺達は宿に戻ったのだが……


「……」

「おい、クーニャ!! 何でお前がここにいるんだよ! 城の警護はどうした!?」

「陛下のお帰りが余りにも遅い為、グレミア妃殿下の命に従い、お迎えに参りました」


 静かに、淡々と言葉を口にしたクーニャさんの目には、光はなく、淀んだ瞳が俺達を見つめていた。


「……そうか」

「はい」

「それで? 他の奴らはどうした?」

「城にて待機しております」

「わかった。じゃあ、行くぞ」

「かしこまりました」

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」


 俺は慌ててレイさんを呼び止めた。


「レイさん……もしかしてですけど、グレミアさんに何も伝えて無いわけでは無いですよね?」


 レイさんの表情は、とても良い笑顔で恐らく見たことのある者は少いと思われる程だ。

 だが、何処かその笑顔には、達観した表情が垣間見えた。

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