レイさんとのお出かけ
「鉱山の話だが、思ったよりも魔蟲の繁殖が多い、封鎖しながらの開拓は、想定した時間よりも倍の時間がかかる事が判明した。そこで、ルーク子爵に相談がある」
「どういった内容でしょうか?」
ドーラン城の転移門を抜けた先、用意されていた椅子に座った俺に、レイさんは皇帝として話を始めた。
「まずは現状の報告からする。現場では現在、魔物の襲撃で深刻な被害が出ている」
レイさんの報告によると、魔物の被害が拡大しているそうだ。
ここ数日の間にも、ケイブマンティスや、ロックワーム、ゴブリンといった低〜中級の魔物達が、鉱山の内部に異常繁殖し、鉱夫達を含め、近づく者を襲い始めたらしい。元々この鉱山は、帝国内でも屈指の産出量を誇る魔鉄鉱床だそうで、その採掘量は国内で一二を争う程だ……。
「本来であれば、こんな事はあり得ないのだ。鉱山内部に生息する魔物は、定期的に駆除を行い、繁殖しないように管理しているのだがな」
レイさんの説明では、通常は鉱山内部で発生する魔物達は、定期的に冒険者達が討伐依頼を受けて、鉱山の外には出てこないようにされている。しかしも、騎士団の訓練にも使われている為、毎年繁殖数は変わらないそうだ。
しかし、今回は何故か大量の魔物が発生してしまったらしく、現在、帝国内の冒険者と騎士団だけでは対応出来ない為、俺の力を借りたいとの事だった。
「……わかりました。すぐに向かいます!」
俺は即答して立ち上がると、部屋を出て行こうとした。すると、レイさんに引き止められる。
「まあ待て!話は最後まで聞くものだ。これはルーク君にとってもいい話だ」
レイさんはニヤリと笑うと、続けて説明してくれた。
「実は、今から2日後に、ソフィアが欲しいと言っていた物が鉱山の手前の街に届く予定でな、それを受け取るついでに、少々予定よりは早いが、一緒に鉱山に行って欲しい。勿論、報酬は弾むぞ?」
俺はその言葉を聞いて、動きを止めて振り返ると、レイさんの顔をじっと見つめた。そして、レイさんの言葉の意味を考える。
ソフィアが欲しがっていたもの?それは何だろう……? レイさんの様子を見ると、何か秘密にしておきたい物のようだが、それが何かわからない以上、安易に受ける訳にもいかないよなぁ……。
俺が考え込んでいると、レイさんは困り顔を浮かべていた。
「どうした? やはり駄目か?」
「いえ、ただ、何を受け取るのかが分からないと、些か怖いなと思いまして、割れ物とかでしたら……」
俺がそう言うと、レイさんは少しホッとした表情を見せた後、笑顔になった。
「ああ、それに関しては大丈夫だ。そうそう壊れるものではないから安心してくれ」
んー、よくわからんけど、とりあえず受けてみようかな? もし危ないものなら、その時はその時に対処すればいいだけだしね。それに、俺としてもレイさんとの約束もあるから、早めに解決したい案件だし……。
「分かりました。それで、いつ行けばよろしいでしょうか?」
「おお! 行ってくれるか!?ありがとう!助かるよ」
レイさんは嬉しそうな表情を見せると、早速詳細について話し出した。
今回行く場所は、鉱山地帯にある街の一つ『ベルヴィル』という街だそうだ。鉱山地帯の中でも有数の大きさの街で、鉱物資源を利用した工業が盛んなんだとか。
今回の依頼は、そこに届いた荷物を受け取りに行く事。そして、その受け取りが終わった後、そのまま鉱山に向かう事になっている。
俺は、荷物の内容については聞かなかった。だって、聞いたら怖くなりそうだし……。
でも、レイさんが言うには、本当に大したものじゃないらしいんだけどね。
ちなみに、荷物の中身については、絶対に開けないでくれと言われた。いや、そんな事を言われなくても、ソフィアの物だから開けませんよ!って感じだけどね……。
出発は明後日の早朝、つまり今日中に準備をしておかないとな。
俺はそう思いながら、レイさんの部屋を後にするのであった。
翌日、朝早くに目を覚ますと、急いで身支度を整えた。
鉱山地帯までは、ドーランから普通に向えば、ここから馬を使っても半日近くかかる距離がある為、余裕を持って行動する必要があるからだ。
昨夜のうちに用意していた鞄を手に取ると、俺は部屋を出た。
結局、レイさんとの話が終わるまでに、ハーガンさんが戻ってくることは無かったが
今は気にしない事にしよう。
廊下に出ると、既に皆起きて活動を始めているようで、商人達の姿が見えた。
俺はそのまま食堂に向かい朝食を済ませると、厩舎へと向かった。
そこには既に、ドーラン城から来たと思わしき使用人が数人待機しており、俺が近付くと頭を下げてきた。
「ルーク様ですね。私はドーラン城の使いの者です。本日から数日間、お世話させて頂くことになります。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
俺が挨拶を終えると、彼らは馬車の準備を始めてくれた。そして数分も経たないうちに、準備が完了する。
「よぉ、それじゃ、今日はよろしくな」
俺が馬車に乗り込もうとすると、中から声をかけられた。
「おはようございます。レイさん」
「おう! 今日は面倒くさい書類仕事とも暫しの別れだ。ソフィアの為に、終わらせた俺ってやっぱ最高のパパじゃね?」
「そうですね。娘想いの良い父親ですよ」
俺が笑いかけると、レイさんは照れ臭そうに頭を掻いていた。
「まあ、そういう事で、しっかり頼むぜ」
「はい、わかりました。ところで、今日はソフィアはどこにいるんですか? 昨日から姿が見えませんでしたが……」
「あー、あいつなら今頃は、自室で爆睡してるんじゃねぇか? 最近は新しい従者の教育だとか、学院の課題だとかで寝不足だったみたいだからな」
「そうなんですか。あまり無理はしないように言っておいて下さいね」
「ああ、わかった。伝えておくよ」
俺はレイさんと軽い会話を交わすと、馬車に乗り込み、目的地へと向かう。
道中は特に問題なく進み、予定よりも少し早い時間で目的地に到着した。
そこは、ドーランから馬車で2日程の場所にあり、北側の鉱山地帯の入り口となる街『ベルヴィル』だ。この街は、主に魔鉄の採掘で栄えており、街の中心には巨大な煙突を備えた工場が建ち並んでいる。
そして、街の周辺には大きな倉庫が立ち並び、大量の鉱石が保管されている。
また、その倉庫で働く人達が住む住居も多くあるようだ。
この辺りは、街の中心地からは離れているものの、それでも人の往来は多く、活気に満ち溢れていた。
俺達は、まずは街の中心部にある商業ギルドへと向かうと、そこで荷物を受け取った。受け取ったのは、小さな木箱が二つと、紙袋に入った大量のお菓子。
「レイさん、これは一体何ですか?」
俺はレイさんに尋ねると、彼は笑顔を浮かべていた。




