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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-15 海洋都市と巨大烏賊
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狂化開放

「ハァハァ……ハァ」


 レイモンドの皮を脱ぎ棄てた変装者(デギズマン)は、不気味な笑みを浮かべながら、眼の前の扉を開いた。

 ガヴェルテスの隠し部屋の1つ、そこには様々な薬品や培養槽が置かれ、中には魔物や魔獣を含めた、様々な奇形児の姿も並べられている。


 その中でも、1番大きいサイズの培養槽に変装者は向かう。

 培養槽の中身は、濃い紫色の溶液で満たされており、その中には、ががっしりとした体格をした男性が漂っていた。


「クフフ……コレダァ……マスターのケッサク……【魔王】……」


 そう呟くと、変装者は培養槽の中の男性に向けて手をかざした。

 すると、その手から黒い炎の様なものが放たれ、男性の体を包み込んだ。

 そして次の瞬間には、男性の姿は無く、代わりに禍々しい気配を放つ人型の何かが存在していた。


「素晴らしい……コレが、【魔王】の力か、あぁ、理解(わか)るぞ、この力の扱い方が!!」


 変装者は高笑いをしながら、他の培養槽や棚に保存されていた魔獣等の素材へ手を向ける。

 すると、先程と同じ様に炎が放たれ、炎に包まれた品は跡形も無く消えていった。


「実に良い素材だ。コレならば、例え黒騎士ハーガンといえど負ける事は無い!!」


 そう言って、また別の魔獣の素材を消していく。

 だが、その瞬間、彼の背中から胸にかけて剣が突き刺さった。


「……なっ!?」


 何が起きたのか分からないといった表情で、背後を振り返る。

 そこには、先程まで戦っていた筈の男の姿があった。


「ばかな……何故、貴様が……」

「……」

 ハーガンは答えず、無言のまま剣を引き抜く。


 途端、男は糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。


「ぐふぅ……まさか……こんな事が……」

「お前には聞きたい事がある。少し付き合って貰おうか?」


 ハーガンの言葉を聞きながら、男は震える手で懐に手を入れ、何かを取り出す。

 それは、掌サイズの小さな赤い石だった。

 そして、それを見た瞬間、ハーガンの目が大きく見開かれる。


「貴様!!それを何処で手に入れた!!」


 ハーガンの怒声を受け、変装者は不敵に笑みを浮かべると石を握りつぶした。

 同時に、変装者の身体が発光し、瞬く間に膨張を始める。

 やがて、光が収まる頃には、男の姿は無く、代わりに体長3m程の巨大な角を持つ四足の魔獣が立っていた。


「グオォオオ!!」


 雄叫びを上げながら、魔獣はハーガンに向かって突進する。

 だが、ハーガンはその場を動かなかった。

 ただ静かに佇むハーガンに魔獣の巨体が激突するが、彼は微動だにせず受け止めて見せた。


「ガアァッ!!」


 魔獣は何度も体当たりを繰り返すが、ハーガンはその全てを正面から受けきって見せる。

 そして、遂に限界が訪れたのか、魔獣の動きが鈍り始めた。

しかし、それでもハーガンを押し倒せない事に業を煮やしたのか、魔獣は大きく口を開くと、そこから火炎放射を放った。

 至近距離からの攻撃だったが、ハーガンは冷静に魔力障壁を展開し、炎を防ぐ。


「危ねぇなぁ」


 思わずそんな感想を口にしながら、ハーガンは黒剣を振るう。

 次の瞬間、魔獣の頭部が吹き飛び、そのまま地面に倒れ伏す。

 絶命を確認してから、ハーガンは変装者の死体へと近づき、死体を調べ始める。

 どう見ても死んでいる筈なのだが、さっきの件もあり念の為確認しておく必要があった。


(間違いなく死んでるな)


 呼吸も鼓動も無い事を確かめた後、ハーガンは変装者が手にしていた石の破片を回収する。

 これは、押収した書類に記載されていた物の一つだ。

 変装者を燃やして部屋を出た後、ハーガンは急いで死体から離れた。


「やはり、狭い部屋では存分にこの身体を扱いきれないか…」

「なっ!!」


 そこには、確かに燃やした変装者の姿があった。


「確かにとどめを刺したってのに、不死者でも無ければ、」


 ハーガンの言葉の途中で、変装者は再び襲い掛かる。


「くそっ、またかよ!」


 振り下ろされた腕をかわしながら、ハーガンは悪態をつく。

 変装者と戦闘を繰り広げている間にも、ハーガンの身体は狂化の影響で徐々に変化していった。

 今や、その目は赤黒く染まり、髪の色も同様に変色しており、全身からは黒い霧状のオーラが立ち上っている。


「何なんだよこいつ!不死身なのか!?」

「いいや違う。俺の肉体は既に滅びた。だが、魂は不滅なのだ!!」


 そう言うと同時に、変装者は口から火炎を放つ。

 それを紙一重でかわすと、ハーガンは変装者に肉薄して喉笛を斬りつける。

 しかし、その攻撃は変装者をしかし、その攻撃は変装者を切り裂いただけで致命傷には至らなかったようだ。

 反撃とばかりに、変装者は尻尾を振り回し、ハーガンを吹き飛ばす。

 咄嵯に防御したが間に合わず、ハーガンはそのまま壁に叩きつけられた。


「ぐぅう……」


 苦しげに顔を歪めながら立ち上がるハーガンを見て、変装者は嘲笑を浮かべる。


「フハハハッ!! 狂化を使ってその程度か?もっと俺を楽しませて見せろ!!」

「ちっ、うるせぇんだよ!!」


 ハーガンは両手に持った双剣を振るい、変装者を攻撃する。

 しかし、変装者も負けじと爪や尾で応戦し、激しい攻防が繰り広げられていく。

 やがて、二人の戦いは壁を突き破り、部屋の外にまで及んだ。


「はあぁあああっ!!」

「ガアァァ!!」


 互いに相手の隙を見つけようと、睨み合いが続く。

 しかし、先に動いたのは変装者の方だった。

 ハーガンが構えるよりも早く、変装者は鋭い牙で噛みつこうとしてくる。

 それをギリギリで回避すると、ハーガンは変装者の懐に入り込み、胴体胴体目掛けて剣を一閃させる。


「……浅いか」


 僅かに皮膚を裂いたが、それだけだった。

 変装者は怒りの声を上げると、ハーガンに掴みかかる。

 それを何とか捌きながら、ハーガンは距離を取った。

 しかし、変装者はその瞬間を見逃さない。

 素早く体躯を変化させ、ハーガンに向かって突進する。


「ぐっ!!」


 先程とは比べものにならない速さで繰り出された体当たりを避ける事が出来ず、ハーガンの身体が宙に舞う。

 そのまま地面に落下し、激しく咳き込む。

 その様子を見て、変装者は勝利を確信したのか、ニヤリ笑う。


「グワハハハッ!!もう終わりだな!!」


 勝ち誇る変装者に対し、ハーガンは苦笑を浮かべる。


「……そうだな」

「……何だと?」


 予想外の言葉に、変装者は怪しげな表情をする。


「貴様が終わりだ。狂化を使わないと言ったが、どうやら今の状況的じゃ、そうも言ってられない相手らしいからな……【狂化レベル3】」


 瞬間、ハーガンの姿が再び変貌していく。

 ━━目は更に赤く輝き、髪の色は黒から白へ。

 そして、全身を覆う黒いオーラはより濃く、強くなっていく。


「貴様が死ねないのならば、黒剣にその魂を消化させるまでだ!!」


 ハーガンは、ゆっくりと黒剣に魔力を注ぎ込む。

 その刃は、まるで生きているかのように脈動し、同時に凄まじい量の魔素を吸収し始めた。

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