最凶の由来
「ナゼ、オデ、の、ショウタイが、ワガッダ?」
「ハッ、カダベルは確かに待機所に向かったけどな、新人が避難する待機所はそれぞれ俺が、指示を出した時に決まった場所に行く手筈に成ってるんだ。そして、俺はカダベルに避難指示を出した。つまり、レイモンドがカダベルと本当に会ったのなら、俺の所に来る事はあり得ねぇんだ」
ハーガンは答えると同時に、右肩を下げ攻撃の構えに移る。
変装者はレイモンドの身体を大きくし、更に筋肉質な身体に変化させると、切断された頭部を元の位置に戻し結合させた。
(首を斬っても駄目か……何か仕掛けがあると見たが、一体何が原因だ?)
「そりゃ、良い事を聞いた。なら、その身体を奪ってからはオレの仲間を作り放題ってワケだ!」
「勝手に人の身体を奪った後の話なんかしてんじゃねぇ!! 生半可な攻撃じゃ狩れねぇなら、コイツはどうだ?」
「何をする気だよ、ンッ、腕が外れちまった?」
「斬っても戻るなら、戻らせなければ問題ねぇよな? ハアァァァ!!」
戦闘スキルに昇華させた転移を使い、ハーガンは眼の前に居る元部下の手脚を切断していく。
やはり、死体となっているからか、その血は黒く粘着く様な物になっていたが、出る量は殆ど無かった。
それどころか、変装者はニヤニヤと口元に笑みを浮かべ、まるで嘲笑う様にハーガンを見つめている。
「おいおい、部下の手脚を簡単に切り落とすなんて、流石はヴァールハイトの団長様だ。慈悲が無い」
「テメェは、俺を怒らせた。レイモンド達への落とし前をつけさせてやる」
「斬られた所で痛くもない。この通り落ちた物を使わなくとも、戻せますからねぇ? イヒヒッ!」
「どうやら、レイモンドの遺体は持ち帰れそうにもねぇか、許せなレイモンド」
許しを請う言葉を口にしたハーガンの目元は、徐々に黒く変色していき、瞳の虹彩、瞳孔すら塗り潰されていくように変化していく。
「おやおや、ソレが噂の【狂化】ですか?」
「テメェ相手に狂化は必要ねぇ。コレはただ、戦闘モードに入っただけだ」
二振りの剣を振り、その刃に魔力が急速に圧縮されていく。
そして、刃先に纏わせたのは、左右共に違う二色の焰。右に黒い焰、左に白い焰がそれぞれ揺らめく。
「始末する前に聞いておくが、テメェはノートリアスの関係者だな?」
「俺を始末か、まぁ、良いでしょう。俺はデギズマン、マスターの従者ゆえ、ノートリアスに与するかと言われれば、どちらでもない。マスターが標的だと判断すれば、狩りの対象であり、素材でしかない。それだけだ……他に聞いておく事は?」
「聞いといて何だが、随分とお喋りな野郎だな? 取り敢えず、始末される気はないなら、さっさとかかってこい」
ハーガンの挑発応じ、斬りかかるデギズマンの腕を既の所で躱す。
しかし、その腕から放たれる威力は並みのそれではなく、身に着けた鎧に風圧で幾重もの傷を刻みつける。
それでも、ハーガンは鎧や剣以外で傷を負う事無く睨みつけた。
だが、よく見ればその手に握られる双剣は何時の間にか変色しており、とても不気味な形に姿を変えた状態となっていた。
ハーガンが帝国最凶と呼ばれる理由。
それは、ハーガンの持つ特性【狂化】と、握られた双剣にある。
白い焔を宿した剣は、死者やそれに属する者を屠る聖光の刃を持ち、扱うものを癒やし続ける効果を持つ聖剣。
黒い焰を宿した剣は、けして塞がる事の無い傷を与え、相手の血を吸い自らの糧としながら刃を鋭くさせ、扱う者をも蝕み傷付ける呪剣。
そして、狂化の特性は読んで字の如し。
段階的に狂い始め、最後には己一人になるまで戦い続ける……ある種の呪いだ。
救いが在るとすれば、どの段階まで開放するかを選べる事ぐらいだろう。それも、意識を保っていればの話だが……。
そして、ハーガンが狂化の特性を発動させたのは、とある年に起きた大規模な魔物氾濫だった。
その時、新兵として戦場に立ったハーガンが、魔物との戦いの最中、狂人と成り果て、自身の持つ斬れば斬る程に鋭さを増し、傷を受けても癒やし続けられ倒れることを知らない状態を手にしながら。
血に塗れ、銀の鎧が赤黒く揺れ動き、味方を含めた屍の山に佇む姿は、『“怪物”として語り継がれるに相応しい物だった』と、救援に向かった友好国の戦果報告にすら記されていた程だ。
その時に何があったのかを知る者は少ないが、当時の帝国が記した報告書の帰還欄に、記載された生存者は、20名、内訳に重傷者18名、軽傷1名、無傷1名という物だった。
そんな男に、デギズマンが行う行動は余りにも稚拙な物だった。
「おやおや、手も足も出ない様で……」
「……フンッ」
一瞬の隙を見て、伸び切った腕を踏み付け床に減り込ませたハーガンは、黒剣を振るう。
「グガァアァアァァ!!」
「……」
デギズマンは、叫びながらも斬られた腕の再生を行おうとするが、最早それは叶わない願いだった。
無言でハーガンは黒剣を振るう。
飛び散る血は鮮やかな物では無かったが、辺り一面に血の華を咲かせた。
「━━呪いと祝福は表裏一体。敵には黒の刃の呪いを、味方には白の刃が祝福を与える。されど、狂人には深き呪いが降り注ぐ」
何処か呪文めいた言葉は、ハーガンの口から発せられたが、デギズマンはそれに構わず動く腕を使い刺突を繰り広げ、逃げ口の確保に思考を切り替えていた。
しかし、今度は躱す事も無く、黒剣と白剣で受け流すと同時に距離を詰められるという状態に陥っていく。
「仕方無い、マスターが残したモノを使わせていただくとしよう」
ハーガンに攻められ、壁際まで追い込まれたデギズマンだったが、その顔には、何処か余裕すら感じられた。
次の瞬間、デギズマンがその場から消える様に姿を消した。
「逃がすか!!」
ハーガンは叫びながら、デギズマンを追いかけたが、結果はデギズマンを捕まえる事は出来なかった。
そして、デギズマンが消えた後、足元には襤褸襤褸の人の形をしたレイモンドの皮が残されていた。
ハーガンは、丁寧に他の皮と同じ様に回収すると、自身の狂化レベルを一段引き上げるのだった。




