寄付の手続き完了
「それではコレで全ての手続きを終わります。今回の一件に関しましては、恐らく陛下から別の謝礼が贈られる可能性が高いので、喚び出される可能性があると思いますが、断る事の無いようお願いしますね? アマルガム子爵」
「宜しくお願い致します。エリア特務監査管殿」
「……止めておきましょう。今は、冒険者ギルドの副ギルドマスターとして話をしているという事にしたほうが、互いに良いと思いますから……ね?」
どうやら、エリアさんの正体を知ってしまったのは、余りよろしく無かったらしい。
だが、あくまで不可抗力であり、調べようと思ってはいなかった。
爵位を含めて呼んだのは、それに対する釘刺しだと言う事とだろう。
そして、こちらの話が終わったのを見計らって、ハーガンさんが、席から立ち上がった。
「あ~、取り敢えず、この話は纏ったみたいだね? ルーク君はどうするんだい? この後コテージに帰るなら、序にコテージの入口付近の鏡を外して、面倒だとは思うが、貴族服に着替えておいて貰えると助かるんだが……どうかな?」
「この後ですか? 滅多に来ない場所なので、お土産を探しに行こうかと思ったんですけど、その様子だとレイさんの所に向かうって事ですね?」
「すまんな、まぁ、そういう事だ。今年は鉱山の1つを一時的に閉山して新たな鉱床を見つけるらしいね。そこでの人員に、影狼を指名依頼で雇うそうだ。そっちが作業している間に、陛下直々の手紙が来たからね」
折角の遠出だからお土産を買おう思い、皆の好みから買う物の目星をつけていたが、レイさんに呼出されたのならば後回しにするしかないだろう。
一応、店の場所を調べてはいるから、レイさんの話が全て終わったら見に行く事にすれば、然程問題はない。
鉱山の話なら、序に精霊契約の場所に行く事も伝えておけば面倒事も減るだろうしね。
それに、話の流れから察すると、あのコテージに転移門が在るのは、ハーガンさんの話し方からすると間違い無い。
「分かりました。貴族服の用意はできますけど、鏡は外した後は何処かに掛ける場所はありますか?」
「あぁ、別に外したままで大丈夫だよ。そもそもあのコテージ自体が魔導具だからね、内部に保存の魔術が掛けてあるから、多少粗雑に扱っても問題無いよ」
「あれが魔導具!?」
━━これには流石に驚いた。
屋敷内にある備品は、何かしらの魔導具が使われていたから、気にも留めていなかった。
というよりも、自分で作った風呂館位だろうと思っていたのだが、どうやら先人の中には同じ様に考えていた人がいたらしい。
それは兎も角、イフリートの2月に向かう予定の話だが、今の所問題はない筈だ。
同行するのに冒険者として付いて行くのは、別におかしな話でもないし、エリーゼとネブラスカさんが同行する事も既に連絡済み。一体何の話だろうか?
「財務官殿、後処理はこっちの伯爵代理に任せて、俺達は陛下の元へ行きますが、宜しいですか?」
「仕方無い、陛下の招集であるのならば、この後の事は些事に過ぎない。一応の確認はするが、明日の伯爵邸捜索は行うのだろう?」
「えぇ、そこは間違い無く。何やらキナ臭い動きが有りそうですからね、こっちの人員を増やして、今回の一件に関与した貴族を洗い出ししますよ。蛇の目を使ってる位だ、証拠品は多そうですし?」
ハーガンさんの顔には笑みが浮かんでいたが、目は全く笑って居なかった。
寧ろ、直にでも喉笛を噛み千切らんとする狂犬の様にも見えたのは、気の所為ではないだろう。
「それじゃ、ルーク君は先にコテージに戻ったら、準備をして鏡の先に進んでおいてくれ、転移門が通えば恐らく陛下が声を掛けるだろうから」
「あれ? ハーガンさんは行かないんですか?」
「いや、行くんだけどね、離れるなら現場の騎士達に指示を出してから離れなきゃ行けなくてね。後の事は任せても大丈夫な様に、俺が動かなきゃ行けないんだわ。現場と陛下の板挟みってやつだね」
ハハッと元気無く笑うハーガンさんの目は、先程までのモノとは違い、死んだ魚のような目をしていた。
いくら公爵とはいえ、第三位黒騎士であり、騎士団長もしているとなれば、中間管理職としての苦労が絶えないのだろう。
「分かりました。レイさんには遅れる事は伝えておきます」
「あぁ、すまないね。片付けたら直ぐに向かうよ。それじゃ、よろしくね」
ハーガンさんは、そう言うと伯爵邸に向かい走り出していたが、直ぐにその姿は消えていた。
何時の間にか屋根の上を移動しており、あっと言う間に小さくなってしまう。
俺はそれを見届けた後、側にいたカミナに1つ頼み事をする事にした。
「カミナ、お願いがあるんだけどさ、良いかな?」
「何だ?」
「ハーガンさんの護衛頼める? あそこ嫌な気配がするんだよね」
「やはりか、何と無くそうじゃ無いかとは思っていたが、あの程度なら心配要らんだろう?」
「ん〜、念の為って事で、お願い!! 今度良い肉と酒を渚に頼んどくからさ」
「……ブラッシングとマッサージ」
「それも天然素材の高給オイルと、カミナ専用の櫛を作ってする!」
「……分かった。危険に成ったら手助けするだけだからな?」
そう言い残し、カミナはハーガンさんと同じ方向へ跳躍を行い追い掛けて行った。
どうにも伯爵邸から流れてくる魔力が、少し淀んでいるというか、俺が嫌だと感じるタイプの物だったから、ハーガンさんや黒騎士の人達が危険な事に巻き込まれなければ良いと思いカミナにお願いをした。
一応、カミナの力があれば対応は可能だろうから、俺はコテージに向かい、レイさんとの話合いに向けての準備をする事にしたのだが、この時の判断が間違っていなかったと知るのは、もう少し後の事。




