知らぬ間に何があったのか
「さて、どこから話そうか……」
コテージに戻り、話合いの支度を済ませた俺達は、情報の摺合せを行っていたのだが、何時の間にか帰ってきたハーガンさんは神妙な顔をしながら口を開いた。
「取り敢えず聞いておきたいのは、何故俺は知らない間に出航した船に乗っていたのかって所からお願いできますか?」
「分かった。まぁ、簡単に言えば、暴走の危険があったクラーケン若しくはキメラと思われる対象を早々に捕獲か討伐してもらう為ってのがあった。実際にキメラだったのには見て驚いたけどね。それと、ガヴェルテスとノートリアスの意識を俺達から逸らすってのがあった。そのお陰で随分と有益な情報が手に入ったよ。やはり、魔物氾濫は意図的なものだった」
そう言ってハーガンさんが取り出したのは、何かの術式を描いた紙だった。
直ぐに術式を分解して情報を解読していくと、紛れもない【魔物氾濫】の文字が刻まれた術式。
しかも丁寧な事に、【暴走】の文字も組み込まれた物だ。
他の紙にも【分離】【結合】等組み込まれた術式があったが、見つかった場所に壊れた合成魔獣の培養器があったらしく、恐らくキメラの制作段階で使われたものだろうとの事だった。
「そういえば、ガヴェルテス伯爵には会った事無いんですけど、何時の間にか問題解決してるみたいな話ですよね? カミナが作戦が成功したとか言ってましたし」
「まぁ、半分成功した。半分は失敗だけどね。その辺は一緒に来てもらったルーカスの方が詳しいだろうね」
「ガヴェルテス伯爵は、何者かにより始末されていました。ノートリアスとやらの手の者だとは思いますが、他所の組織の可能性も否定出来無い程に被害者が多いので、どうにも判断がつかないんですが……ただ、怪しい人物の出入りが多い中で、一番多いのが不気味な格好の男らしく、ソイツがアタリではないかと言った所ですな」
ルーカスを都市の中で何かあった際の回復役として残して居たのだが、どうやらハーガンさんと共に伯爵家に行っていたらしい。
「後はまぁ、大した事じゃないけど、ルーク君に頼み事があるんだ」
「頼み事ですか? なら俺も1つあるんで、それでも良ければ」
「あぁ、今回は帝国の問題解決の一端を担ってもらったんだ、可能なことであれば苦労を惜しまないよ」
ハーガンさんの頼み事が何かは知らないが、俺の頼み事は、別世界の俺が言っていた領主の隠し部屋だ。
「今の時期なら間に合う」ともう一人の自分が言ったのなら何かある筈だ。
「ガヴェルテス伯爵家に怪しい場所……隠し部屋が無いか確認したい。って言ったらどうしますか?」
「ガヴェルテス伯爵家の隠し部屋か……有り得なくは無いな、基本的に隠し部屋は貴族の屋敷に1つはある。大半は宝物庫や自身のプライベートルームとして使う者が多いが、当然、そういった事の隠し場所にもなる。まぁ、仮に在ったとして、そこから何か持って行っても、僕が把握してれば良いから構わないよ。他に何かあるかい?」
「いえ、要るものがあれば、ハーガンさんに許可を貰えば良いのでしたらありませんね。ハーガンさんの頼み事はなんですか?」
俺の提案に、ハーガンさんは少し首を傾げながら許可を出してくれた。
一体何があるのかは知らないが、許可を貰えれば持って行っても構わないと言われたのだから、欲を張るのは良く無いだろう。
ギブ&テイクといえばそれまでだが、親戚関係に成る可能性が高いのだから、あまりハーガンさんの負担を増やすのも良く無い。
俺はそんな事を考えながら、頼み事を聞くことにした。
「ガヴェルテスの所にある封禁された箱を開けるだけだよ。別に開かなくても、頼み事は聞くから気にしないで、術師を呼び寄せて開けば時間がかかるかも知れないけど、難しくはないからね。詳しくはカルロから聞いてくれ、箱を見つけたのは彼だからね」
ハーガンさんの頼み事を聞いて、俺は、少しばかり興味が湧いた。
その場でカルロに話を聞いたが、何でも鍵を差し込むと弾かれたらしい。
つまり、俺がカルロに持たせた鍵が使えなかったという事だ。
今回の1件に糾弾する為の資料や、証拠を集める際に、魔術を用いた扉や箱を開く魔導具を用意したにも関わらず、中身を持って帰れなかったという事は、特殊な方法で管理していたという事だ。
その方法が魔術なのか、それとも技術的な物なのか分からないが、物を作る側として非常に気になる。
「分かりました。その箱、いつ行きますか?」
「そうだな……今は部下達が部屋の捜査をしているから、早くても明日の方が色々と都合が良いね。隠し部屋も屋敷の構造から割り出せるだろうし、朝から行こうか。今日は自由にしてて良いよ」
「分かりました。では明日の朝よろしくおねがいします。カミナ、行こう!」
ハーガンさんの言葉を聞いて、ガヴェルテス家には明日の朝に向かう事となった。
部屋を出て時計を確認すると、今の時間は昼を少し過ぎた頃、俺達は屋台で買ったプチクラーケンを異空間収納から取り出して食べることにした。
プチクラーケン焼きと屋台には書いていた為、最初はイカの姿焼を想像していたのだが、俺の想像していたイカ焼きとは姿が違っていた。
串に刺された一口サイズのバター焼の姿である。
バターは帝国の領内で作られた物を使用しているが、どうやら無塩バターらしいのだが、プチクラーケン自体に少し塩味があるからか、中々美味い。
カミナも何時の間にか酒を手に呑みながら、クラーケンをつまみにしていた。
カルロや他の従魔達は、それぞれ好きな物を買っていたので、恐らくその時に買っていたのだろう。
「そろそろ良いか……」
自分の分を食べ終え、少しゆっくりしていると、カミナは徐ろに口を開いた。
「どうかしたのか?」
「ルーク、いや、刀夜。お前、何か隠しているだろう? 私の事か、お前の事どちらだ? 両方か?」
「……そうだな、カミナには伝えとかないとだな」
俺は、カミナに取り込まれたベルフォートの因子の事やもう一つの世界線の事を話す事にした。




