証拠書類の確保
船の上から偵察を使い調べても全く痕跡が無く、魔力を餌にしたが反応も無い。
ガヴェルテスの名義で取り寄せられた品は、キメラの作成にも使える素材ばかりで、同時に餌にもなる。
そして、証拠としては弱いが疑われる様な資料が残されているという事は、此処が襲われてもおかしくはないだろう。
「オットマンさん、この帳簿のページをお預かりしても良いですか?」
「あぁ、構わねぇ。元からそのつもりではいたからな」
「ありがとうございます!」
感謝を伝えるとオットマンさんは、直ぐにページを取り外し紐で纏めてくれた。
異空間収納にしまい、一応周囲に偵察を使い伺うが、敵対反応はまだ無い様だ。
「オットマンさん、もしかしたら、此処に押し入る可能性があるかもしれません。一応逃げた方が良いと思います」
「あぁ? 此処に押し入るって、領主がか?」
「はい、それか、そういった事の“専門職”がですね」
暗殺者が此処に来る可能性は無くはないが、どちらかといえば盗賊や強盗なんかは、差し向けられてもおかしくはない。
「まぁ、それは大丈夫だろう。必要なら力で追い返すだけだ。港で作業していても元は船乗りだ、腕っぷしならそこらの冒険者にも負けねぇぜ?」
オットマンさん達はニカッと笑って、腕の筋肉を見せつける様に力を入れていた。
まぁ、船乗りも港での仕事も力仕事だという事なのだと言いたいのだろうな。
「取り敢えず、ハーガンさんに伝えて此処の警備を頼む事にすれば良いだろう。カミナ、船の準備を頼む。オットマンさん、直ぐに知らせるので黒騎士の方々が警備に来てくれると思います」
「おぉ、ソイツは助かるってもんだな。さぁ、野郎共! 出港準備だ!!」
「「「オオッ!!」」」
俺がハーガンさん宛の手紙を書き、ゼファーに届けさせる間に、オットマンさんとその部下の人達がカミナの手伝いをしてくれたおかげで、想定していた時間よりも、かなり早く終わった。
そして、オットマンさんは、何やら少し困り気味な顔をしながら、此方に歩を進めて口を開いた。
「向こうに戻るんなら、オレの倅と数人乗せちゃくれねぇか? 何なら向こう側まで操舵させても良い」
「オヤジ⁉ 本気ですか!!」
「そうだな、私も魔力で動かすのは些か面倒だから、ルークがかまわんなら問題無い。先程も流石は元船乗りという所だな。操船技術は確かなものだった……私には出来んな」
「カミナが言うなら別に構いませんけど、何故?」
一応だけど、ハーガンさんに頼んで黒騎士の護衛が此方に来る手筈は整えた。守りに徹するならば十二分に対応出来ると思うのだが……。
「何、オレ達は元船乗りだったが、怪我や歳で引退したんが大半だ。倅は記録や纏めが巧くてな、操舵も出来る迄になったが、事情があってその手の仕事には就けなくてなぁ……丁度流行病で家内が亡くなって、オレが代わりにやってた帳簿仕事をやりたいってんで任せてたんだ。だから、一番オレ達の中で狙われやすいし、良く考えれば自分は守れても倅まで守るのは、些か厳しくてな……」
確かに、帳簿の字も纏められた積載資料も、とても見やすく分かりやすかった。
操舵は出来ても、仕事に就けない理由が分からない所だが、特に危険なわけでも無さそうだし、腕もカミナが褒めるくらいなら問題は無いだろう。
「子供さんの件、此方で守れば良いと考えれば良いですね? ならば、追加依頼としてお受け致します。代金は……アレ良いな。うん、コレを代金代わりに貰いますね」
「ん⁉ そんなんで良いんか⁉ オレ達からしたらゴミだから処分せにゃならん物だぞ?」
「えぇ、冒険者やってますけど、もう1つの顔は錬金術師ですから、俺からしたらお宝ですよ」
俺は、倉庫の外隅に積まれた様々な色の山を、異空間収納ヘと流し込み船に向かった。
「……あぁ!! 有り難ぇ、オレ達には金にもならん物でも、人によっては宝ってのは確かにその通りだ。……ルーク様、オレに残された最後の宝をお願いします。些か元気が良すぎて、呆れる事があるかとは思いますが……」
「オットマン、そろそろ出る。縄を頼む」
「依頼は引き受けました。貴方の宝は責任を持って護衛しますから、安心して下さい。向こうに到着し次第ハーガンさんのコテージに送って、証拠の書類を基に告訴状の作成をして貰いますから」
ハーガンさんに安心して貰う為、向こうに到着した後の事を伝え、船に乗り込んだ。
操舵輪の周りには、何人か男性がいて顔が良く見えなかったが、操舵輪を持って動作確認をして居るカミナより若干背の高い人、彼がオットマンさんの息子さんなのだろう。
確かにオットマンさん達に比べると身体全体の肉の付き方が弱い。何処か女性にも見える後ろ姿だが、
後ろ髪は軽くウェーブの付いた茶髪だが、軽く肩にかかる程度で、中々様になっている。
「出港準備良し!! 目的地、エステングラートの商業港。風向き、角度良し!! ソラ、操舵頼んだぞ!」
一緒に乗り込んだ船員がかけた声と共に、外した縄も収納し終えた所で、船は前に進み始めた。
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【出港後 工業港】
「オヤジ、ソラを任せて良かったんですかい?」
「問題無ぇ事は間違い無いだろうが、テメェ等で守り抜く事が出来るか? 黒騎士様が来るとはいえ、到着に間に合うかどうかだろう? なら、あのヤバイ匂いの姐さんと、その主に託す方が安心して死ねる!! そうだろう、ロジャー?」
「それは……違いねぇ」
オットマンとロジャーは、互いに拳を突き合わせると、頭のバンダナを締め直して倉庫の裏口から外に出た。
「随分とおっかねぇヤツが来たもんだな?」
「おやおや、残った人から察するに、何方かがオットマンさんですねぇ? ワタシもそこまで暇では無いのでねぇ、早くコチラが必要なものを提出して頂けないですか?」
そこには、言葉とは真逆まるで蔑むような視線をオットマン達へと向ける一人の男が立っていた。
辺りには、無数の切傷を伴った同胞達の姿。
「いきなり来てから、何を言ってやがる」
「オ、オヤジ……逃げ、て」
「五月蝿い下っ端共ですねぇ、今度は首を落としますか? 魔獣の餌、実験素材にしても良いですが?」
「すまねぇが、ソイツを離してはくれねぇか? 他の同胞も、傷が浅えみてぇだが、潮風は染みるから中で治療させてぇ」
「でしたら、帳簿と積載量の紙……の記載者と引き換えですねぇ」
「……ハッ!!」
男は帳簿と積載量の資料では無く、その記載者の身柄を求めてきた。
だが、オットマンは軽く鼻で嘲笑い、男に一瞥すると魔力を纏い始め男に対して構える。
「うちの倅をデートに誘いたきゃ、オレの一撃を受けてからにするんだなッ!!」
━━オットマン対刺客の戦いが始まろうとしていた。




