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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-15 海洋都市と巨大烏賊
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クラーケン討伐戦準備

「中々、珍しい光景が広がっているみたいだが、何故俺が此処に居るんだ?」


 鎖が抜け終わり、言葉と共に薄い白靄が人の形を模した。

 間違い無く誰の声かと問われれば、自分自身だと答えられるが、俺は白靄の対面に未だ鎖で縛られたまま声も出せずに居るのだから、俺の言葉ではない。


「並行世界、違う世界のルークさんですね? 何故この世界に貴方が居るのかは、理解するのに時間が必要ですから、今は聞きません。意思もはっきりとして、力は随分と弱くなっていますが、それでも私よりも数段上の存在なら手の出しようが無いですね」

「そいつはどうもって謂うべきかな? 所で、何で此方の俺は拘束されてるんだ?」

「エウリシア神曰く、統一化をするらしくて、封印した力を俺が扱える様にするんだとさ」


 もう一人の自分に掻い摘んだ説明をすると、何やら頷いて考え事をしていたが、直ぐに此方を向き直して「成程な」と呟きながら納得をしていた。


「既に滅んでいる世界線の力が、何処まで影響を与えるか分からんが、俺の居た世界線の様になら無い為に力の足しになればと思って渡った事だし、いつ消えても構わない! って覚悟はしてある……何時でもやってくれ」

「流石と言うべきなのでしょうが、本来ならば元より居ない存在が発現しているこの状況こそ、イレギュラーなので、直ぐに取り掛かる事にします」


 エウリシア神は、統一化を行うべく術式を展開し始めた。

 術式は徐々に俺と分離した白靄を包み込み、幾重にも絡み合う神力の糸が、其々の身体と感覚を1つにする様に縫い合わせていく。


「そうだ! クラーケンの討伐後、領主の隠し部屋を調べろ。そこに、他の実験施設の場所と献体の被害者名簿がある。この時期なら未だ間に合う筈だから、見つけたら直ぐにレイさんとハーガンさんに報告するんだ」


 同化する際に、思い出した様にもう一人の自分から出た言葉。

 既に一度話している自分にとっては、余り驚く事でもないが、多少なりとも未だ起きていない出来事に関しての知識や記憶というのは、知り得るだけで武器にもなる。

 恐らく、そこで何かの失敗か、そこが原因で引き起こされる事件があったのだろう。

 統一化をして、記憶が引き継がれるかとも思ったが、そんな事も無く、自身の身体に流れる力の安定がより強力な物になった感覚がするだけだった。


「……これで統一化は終わりました。今のルークさんは、破壊神の使徒と破壊神の中間に成りましたが、能力としては神の領域に入っていますので、地上ではある種の制限を行う方が、人としての人生を過ごしやすくなるかと思います」

「そうみたいだね……」


 試しに神力を流し制御を行ってみたが、今迄の力よりも、よりスムーズに流れる。

 他の魔力や霊力も、同様に扱える様に成っていた。

 恐らく、今持っている力の全てを地上で扱えば、確実に監視や何かしらの警戒心を持たれるだろう。


「スキルを統一化も済んでいますから、破壊神のスキルの1つ、【収奪】も扱える筈です。これで、モーフの持つ異常な回復能力を奪う事ができます」


 収奪……奪うスキルなのは分かるが、発動条件や何かしらのデメリットが有るはずなのだが、よく分からない。

 文字からすると、収には収めるや捕えるといった意味があるし、奪にも奪う、取上げるといった意味がある。

 意味からすれば、取上げるよりも、奪うの方が、合っている気がするのだが、どうなのだろうか?


「そろそろ戻らないと不味いですね……それではルークさん、()()()()()()()()()()()()。カミナさん、入って下さい」

「どうやら終わったようだな?」


 そう告げたエウリシア神は、姿を消して代わりにカミナが現れた。


「ふぅむ? 何か妙な事に成っているようだが、そこまで悪いものでは無さそうだな?」

「あぁ、余り表には出せない力だけど、無駄な力が入らないから、前よりも魔力や神力の扱いがスムーズになったよ。序に、新しいスキルも手に入ったんだけど、試しても良いかな?」

「はて? 何をする気か分からんが、試したいのならしてみれば良い。ただし、ここから出た後でだがな」

「分かったよ。 所で……」


 カミナは、戻るための転移門を開いたが、何処か急いでいる様に見える。どうしたとうのだろうか?

 その理由を聞こうとした矢先、目の前に広がる光景に言葉が詰まった。

 強い潮の匂いと一面青く澄んだ空がある。出てきた場所は━━船の上。


「一体何があったんだ? 船に乗るのは未だ先のはずだろう?」

「あぁ、お前が向こうに行っている間に、少しばかり事があってな。どうやらクラーケン討伐が少々面倒な事になりそうだから、先に手を打つ事にしたのだ」

「面倒な事にって……それに、この船は補強してないやつだぞ……俺が貰い受ける船に間違い無いけど、何か強化されてるのか」


 レイさんから貰い受ける予定の襤褸船、装飾品も無ければ、大砲すら載っていないただの船だ。

 この船に搭載する武器を造るために、鍛冶ギルドから鉄屑を大量に仕入れたが、それも未だ完成はしていない。

 補強と作成をするにしても数時間はいるだろう。

 そんな心情を察してか、カミナが口を開いた。


「だから、今此処で作業すれば良いだろう? どうせお前の事だ、こっそり造るか見えないように隠すつもりだったのだろう? 幸いエステングラートからだいぶ離れたからな、想定される海域まで暫く時間がある」

「……何時間ぐらい?」

「早ければ……3時間、遅くても5時間位だろうな」

「うへぇ……ほとんど時間が無ぇな」


 カミナの言う通りに造ったとして、船体強化はそこまで時間が掛からないが、メイン兵装はギリギリのラインだろう。下手をすれば戦闘に入ってもおかしくはない。

 だが、何方にせよ作業をしなければ終わらないのも事実。

 理不尽極まりない状況だが、俺は船体の補強作業を始める事にした。

 強化自体はそう難しく無い。神力と魔力を均等に張り巡らせ、船体に薄い結界の膜を張るイメージで硬化させるだけなので、俺の気分次第で解除も出来る。


 補強が終われば、次は兵装作成になるのだが、クラーケンに対して用意した兵装は、【電磁射出式徹甲弾】という魔術と現代科学の合成産物とでも言える物だが、要は、絶対に目標を貫通させる為の兵装だ。


 クラーケンに対して、通常の物理では効果が薄いらしく、刃や弾が通らない為、先頭を鋭くし、柔らかい金属板や軽金属で作られたキャップを取り付けることで、空気抵抗の軽減と着弾時の衝撃による弾体の破壊を防ぎ、中の本命がクラーケンの表皮を貫通する様に加工した被帽付き徹甲弾。

 問題は、射出できる砲門が無い為、電磁砲と同じ方法で射出するのだが、それを造るのに時間が必要だと言う事だろう。

 そこから到着するまでの間、俺は手を休めることなく作業を続ける事にしていたが、完成したのは到着の数分前だった。

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