新たな仲間
『━━という訳です』
エウリシア神からの話は、ある意味とんでもない提案だった。
どこで知ったのかは不明だが、俺の中に封じた別の世界線の俺の力、その一部を覚醒させてウサギの力を吸収させるというものだ。
だが、この世界の破壊神として覚醒していない俺が別世界の力を覚醒させても大丈夫なのだろうか?
「話は理解できたけど、神珠を使った儀式もしてないのに、破壊神の力をこれ以上行使して大丈夫なのか?」
『そこは問題無いです。手順が違いますが神に至るもう1つの方法が在りますから、そちらを利用する形で解放していきます』
「一体どういう方法で? 直接神様の力を与えられるとかじゃないんでしょう?」
神が己の一部を人に渡す、貸し与えるのは神話上良くある話だが、破壊神は空席の為それは難しい筈だ。
可能だとすれば、俺の中に封じられた破壊神だが、一体どうするつもりなのか、全く想像出来ないのが怖い所だな。
『神域で破壊神と貴方の存在を、曖昧な状態に変質させて、必要なスキルを引っ張り出すだけなので、そちらの地上世界で半日程の時間は貰いますが、クラーケンの出現には十二分に間に合うので、心配はいりませんよ』
「俺と破壊神の存在を曖昧な状態にする? イマイチ理解が及ばないんだけど?」
『そうですね……神はアストラル体やエーテル体と言って、本来は実体を持ちません。人の想い連ねた姿が見る者に影響を及ぼすのですが、要は精神体と肉体に分かれているわけなのです。今の貴方は破壊神の力を封じた半神なので、こちら寄りの受肉者なのですが、一度その隔たりを無くして双方の存在を統一化します。その際に、向こうの貴方から必要なスキルを引っ張り出すだけなので、特に危険な事もありませんよ。必要でしたら、契約後に此方へ呼びますので』
エウリシア神は、俺にそう告げると会話を切り上げたのか、声は聞こえなくなった。
取り敢えずは話が終わったと考えて、契約を続ける事にしたが、名前をどうしようか考える必要があるんだよなぁ……。
「どんな名前が良いかな? 希望はあるかい?」
「モキュ?」
会話が通じているのは間違いないようだが、答えが分からなければ意味はない。どのみち俺が考えてしまわないと契約になら無い。
「通常の一角ウサギだと、正式名はホーンド・ヘアだから名前を入れ替えたりで良いけど、それじゃあつまらんしなぁ……。ハクト、シロウサギ、イズモ……日本名だとジャイアントアンゴラウサギの見た目だからかピンと来ないな? 後はアルミラージか」
こういった時に、女子が居ないのが悔やまれる。
俺もカミナも基本的にネーミングセンスなんてもんが皆無に近いし、基本的に見た目か種族名から引っ張る形でしか名付けをしてないから、良い感じの名前が出てこない。
「名前が決まらんなら、あれが良いんじゃ無いか? 白いフワフワした見た目なのだから、綿あめで」
「いやいや、綿あめってペットに名付けるんじゃないんだからさぁ……それなら未だモーフとかの方が……えっ?」
名付けの名前を出していたが、急激に術式の方へ神力が引っ張られ、何時の間にか契約終了に成っていた。
「キュー? モキュ! モーキュ!!」
相変わらず意味はわからないが、どうやら上げていた名前に気に入った物があったらしい。
改めて複合解析してみると、先程とは打って変わってある程度ステータスが表記されているみたいだ。
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【名前】モーフ【種族】不明 従魔
【体力】200,000/200,000
【魔力】200,000/200,000
【筋力】C
【知力】SS
【器用】B
【対魔力】SS
【スキル】
【光•聖術式】【回復術式強化】【魔力•神力回復速度上昇】
【特性】
【状態異常無効化】
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神獣だと言われていただけあって、中々の能力ではあるが、サポート役としての能力が高い。
名前がモーフなのには少し笑いかけたが、本人が気に入ったなら問題ないのだろう。
『契約も無事済んだみたいなので、此方に喚び出しますから、そのままでいてくださいね』
契約直後、エウリシア神の声が再び聞こえてきたが、同時に身体から力が抜ける感覚と、何処かへ引っ張られる感覚が身体を支配していた。
そして、眼の前の光景が歪み、強い神力の流れに引き込まれる様にして、身体が歪みの方へ移動し始める。
「これは面白い体験だけど、カミナ達は呼ばれてないのか?」
「案ずるな、私は自由に行き来している。向こうに着いたら直ぐに会えるぞ」
カミナの言葉を聞いたと同時に、歪みの中へ突入したが、一瞬の光に目が眩む。
少し暗くなった所で目を開けて見れば、そこは明らかに地上では無い事は容易に想像できた。
「━━ようこそ、主審の間へ」
正面に浮かぶ球体の映像画面と、ノルンが扱うのと似た形の砂時計が、空に浮かぶ光景がそこにあった。
「些か大変でしたが、この領域に来てもらえたのは非常に有り難い事です。早速ですが、破壊神の力を一時的に分離させますね」
そう言うと、既に術式を組み込んだ後だったのか、足元から幾重にも折り重なった神力で作られた鎖が手足に絡みつき、俺の自由を奪っていく。
そのうち1つの鎖が、鳩尾に深く潜り込み同時に何とも言えない不快感が身体全体を駆け巡る。
「すまんが、とても気持ち悪いんだが、何とかならいのか?」
「それは無理ですね。今は貴方に封じた破壊神の情報を解析してますから、無理に統一しても不具合が起きたら困るのは、この世界全てですので我慢してください」
発せられた言葉は、未だかつて聞いた事の無い程に無感情なもので、まるで別人の様にも見えた。
流石に命の危険は無いと思うが、どうなるかの予想もつかない状況に、若干の焦りと不安を覚えるのも仕方無い事だと思いたいけど、拘束されてりゃ何も出来無い。
「よし、それでは分離を行います」
どうやら解析が終わったらしく、破壊神の俺と分離する
準備が整った様だ。
実際に封印したのは俺だが、元の状態に戻るかどうかは、エウリシア神の力が大きいと思う。
意を決して頷くと、エウリシア神は鳩尾の鎖を引き抜いた。
ズルズルと鎖が外に出ては消えていくのだが、少しづつ何かが体内から外へ出てくる感覚を感じる。
一瞬想像してしまったのは、寄生虫が身体を破って外へ這いずる映像だったが、そこで考えるのを止めた。




