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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-14 無名の村の総大将
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お願いと提案

「……大体の事は分かりました。確かにこの村には成仏出来ない者達が大勢います。然し、本当にその様な事が可能なのでしょうか?」

「十兵衛さんが疑うのも無理はありませんが、実際、五郎左衛門が私の式に成っているのですからそう難しい事ではないですよ。まぁ、些か問題があるとすれば、閻魔大王の流れを汲む神が分からないくらいですが、何とかしますよ」


 俺が持ちかけたお願いの1つは、とある呪法でこの場で行い彷徨う霊魂を蘇生させるという物だ。

 この村にはかなりの霊魂が存在しているが、魔物化……この場合レイスやスケルトン等に成らない所を見るに、肉体は既に存在しないのだろうが、長い間このまま居た為に、転生の輪に乗ることも出来ない魂であるのは間違い無いだろう。


 元々、転生は死んだ後に転生の輪に乗って次の生に変わる事を指すが、この世界に招かれざる客として現れた者の魂はどうなるのか気になっていたのだ。

 エウリシア神から貰った知識には、決まった手順で転生や転移した魂は魔力や魔素を取り込める様に、渡る際に手が加えられるとあるが、今、目の前に居る十兵衛さんを含めて、この村にはその手順を踏んだ者が居ない。


 霊体となった子供の姿を見かけても、やはり魔力の循環が見られないとなれば、自ずと結果は想像がつく。

 手が加えられた際に、この世界の魂の循環に乗るための”何か“があるのだ。


 だが、イレギュラーでこちらに来た者は、その手が加えられていない状態だから、こうして彷徨う事に成っているのだろう。となれば、話は簡単だ。


「それでは、村の人に説明を行い、墓から形見と遺骨を持ってきて貰う様にして下さい。私は玉藻様の所に行って準備をしますので……カミナ、頼んだよ」

「分かっている。ルークは本当にお人好し過ぎるのではないか?」

「玉藻様の御屋敷は、この通りの一番端に御座います。門兵にこの手紙を渡せば中へ入れてくれましょう。何卒玉藻様を宜しくお願いします……」


 2つ目のお願い、それは玉藻様の屋敷に入り玉藻様に会うというものだ。そして、カミナにはあるお願いを頼んだ。この頼みが成功しないとある意味この後大変な苦行に成るのだが、そこはカミナの事、何とかしてくれるだろうと思い屋敷の方へ向かうことにした。


「いつまで着いて来るんだ?」


 暫く道なりに歩いて行くと、屋敷で感じられた殺気を放っていた視線の者と興味本位で覗いていた者の視線が着いてきていた。

 声を掛けるも返答はなく、気配だけはそこにある。


「どんな考えなのか知らないけど、俺は敵じゃない」

「「……」」

「君らも誰か生き返らせたいのなら、山本家での話を聞いた事を実行してはどうかな? 悪い事には成らない筈だ」

「もし、式神にするならテメェを殺すからな!!」


 恐らく殺気の持ち主だろう男の声は、そう言い残しもう一つの視線と共に消えた。

 流石に式神として扱うつもりは微塵もないが、陰陽師の術を利用する事に違いはない為、そう捉えられても仕方ないことだろう。無駄に話をしなくて良かったが、玉藻様はの屋敷までまだ時間がかかりそうだった。


 通りを抜け一番端の屋敷を見つけると、鬼の門兵が二人立っていた。なんとも懐かしく思えるが十兵衛さんの手紙を取り出し門へ向かった。


「……何用か? 人の童よ」

「玉藻様に用事があって来ました。山本家からの手紙です」

「……暫し待たれよ」


 左の門兵が手紙を確認し中に入っていくと、そのまま姿が消え、もう一人の門兵と二人だけになってしまった。

 特にすることもなく、石段に腰掛け待っているとフワフワとした何かが漂っていたが、暫く目の前を漂うだけで特に害はない。

 暫くフワフワを見ていたが、消えたと同時に門が開いた。


「━━この世界の現人神様、どうぞお入り下さいませ」


 透き通った鈴の様な女性の声が耳元を抜けた。

 門兵の方を見ても特に問題無い様だし、どうやら会うことは出来そうだ。門兵に会釈をして中に入ると、山本家と大差ない屋敷が目の前に現れた。


 屋敷の戸そこに、一匹の狐が姿を表す。

 色は白色で雪と似ているが、大きさ的には雪のほうが少しだけ大きいと感じる位か。

 白狐は戸を開けるとスルスル入って尻尾を振っていた。どうやら着いてこいと言っている様だ。


 白狐はこちらを振り返りながら、迷うこと無く1つの部屋の前に移動し座る。

 目的地は此処のようだが、かなり生体反応が薄い。中の人は大丈夫なのだろうか?


「━━床に臥せた状態で申し訳無い。それでも宜しければお入り下さい」

「失礼する。現人神と呼んだという事は、話の内容はご存知か?」


 今度は男の人の声だが、かなり衰弱しているのだろうか? か細い声が襖の奥から聞こえた。

 襖を開け中に入ると、そこに居たのは身体の半分が薄れ、今にも消えそうな痩せこけた男性だった。


「私の宝玉を使いたいのでしょうか? 正確には宝玉の台座にある勾玉……十種神宝(とくさのかんだら)死返玉(まかるかへしのたま)生玉(いくたま)の力を」


十種神宝(とくさのかんだら)饒速日尊(にぎはやのみこと)が神武東征の際に、天照大神(あまてらすおおみかみ)から授かったとされる宝物だ。

 その中に勾玉が4種類有るのだが、そのうちの2つが死返玉と生玉である。

 前世にあった宝具や神の依代がこの世界に有る以上、何処かに同じようなものがあるとは思っていたが、どうやら2つ此処に存在するらしい。


「……勾玉の力はお借りしたいですが、先ずは貴方の力を取り戻すのが先ですね」

「私に何をするおつもりで? 既に天命を待つ身、式神として役立つ力も残されてはいませんよ」

「あぁ、その点でしたらご心配無く。後で山本家に同行してもらいますけど、その際に揉め事がないようにして頂ければ」

「……変わった御方だ」

「よく言われます。……では、『ひーふーみー よーいーむーなーやー こーとーもーちーろーらーねー しーきーるー ゆーゐーつーわーぬー そーをーたーはーくーめーかー うーおーえー にーさーりーへーてー のーまーすーあーせーゑーほーれーーけーー』」


 玉藻様の額に刀印を当て、ひふみ祝詞を唱える。

 随分と無茶をしていたのだろう。残された僅かな霊力は最低限の生命維持しか行えない程に弱々しいものだった。

 本来なら日に3回唱えるべきだが、あくまで俺の集中力を高める為の儀式的なものだから、特に問題はない。

 祝詞に込めるのは、治癒と復調などこの村に漂う願いと、俺の霊力の2つだ。


「……おぉ、霊力が満ちていく……」


 玉藻様の薄れている身体に精気が戻る。同時に顔の色も痩せた肉体も随分と見違える程に変化していく。


「取敢えずはこんなものか? 何処か違和感は無いですか?」

「いえ、こんなに身体が軽いのはいつ以来だろうか」

「……一応、霊力を分け与える形で今の状態を維持してますから、強い力は使わないでください。暫くすれば歩ける様になると思いますので、山本家に行きましょう五郎左衛門が待ってます」


━━こちらの用事は終わった。後は、カミナにしたお願いがどうなるかだろう。

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