魔力・神力回路の修復
空間歪曲と消滅の御手を行使して、呪いとも呼べる遺物を消滅させることが出来た。取り敢えずコレで、フラクタルの人達が人に戻っても魔力不全を引き起こす事も無い筈だ。
今回の件で、空間歪曲をスキルとして手に入れたが、カミナの身体に墜神の因子が欠片ほどではあるが取り込まれた事に懸念はあるが、それも何とかする術を探さないといけないだろう。
「空間歪曲を使用して互いの端を纏めた上で、破壊神の権能の一部を用いて、一気に消滅をさせたのですな!?」
「逃げ場がなければ、溢れたり取りこぼす事も無いからね。っても、練り上げた神力を一部保存してたから出来た荒業だからさ、二度と使いたくはないかな……」
ルーカスの予想は半分当たりで、半分外れているのだが、流石に未来から来た俺の破壊神の力を一部使ったとは言わないほうが良いだろう。
封印術式の中に封印した破壊神の力。
俺が扱える範囲で引き出したが、正直、体が持たない。
同じ存在であるとは言え、全くの別物の質を持つ神力を扱ったからなのか、身体の魔力・神力を放出する際に扱う回路が随分と襤褸襤褸に成っていた。
(このまま神力を使ったら、恐らく制御出来ないか結構な痛みが出るだろうなぁ……)
魔力回路や神力回路を作成するに当たり、1番注意するべきなのは、成長に合わせて開放されていく放出量と、内包魔力、神力の差だ。
内包魔力なんかに関しては、ひたすら魔力を空に近付ければ、個人差にも寄るが、可能で大半の者が増えると考え良い。
放出量も訓練次第で調整ができるが、これに関して言えば、回路が正常であれば問題になることは無いに等しい。
問題は、魔力回路や神力回路が損傷した場合だ。
解決策はあるが、かなりの荒療治になる。見返りに回路自体はより強固な物になるし、上手く行けば身体の強化にも繋がる術ではある。
そんな物があるのなら、最初から使えば良いと思う輩は当然ながら過去にも居たのだが、成功例は殆ど無い。
理由としては、想像を絶する痛みを伴う事と、複雑な回路の作成に在る。
回路を修復する程度であればまだ良い、痛みはそれ程酷くはないからだ。
壊れているとは言え、元になる物が有るのであれば、それを基に作成していけば問題無いが、1から作り直すとなれば、身体に対する負担が増える。
その負担は、『“脳を直接金槌で殴られ続ける”のとどちらがマシか?』なんて書物に書いてある位だから、余程のものなのだろう。
一応だが、時の魔導書の力を借りる事も考えたが、神力回路と魔力回路が重なっている部分が在る為、恐らく喚ぶ事自体が無理な気がする。
現状確認をするために、ステータス確認をしてみたが、項目欄に記載されていたのは、【魔力・神力放出回路損傷】【ERROR】の2つで、他の表記は一切見れなく成っていた。
(現状分析をするに、体内魔力や循環に関しては問題にはなら無い。外に出す分と解析関係が駄目に成った可能性が高い。巨大烏賊討伐の依頼に対応するのなら……放出量を減らすか……若しくは回路を強制修復するかのどちらかだな……後は、それ以外に成るんだろうけど。……まぁ、未来の自分から言われた事を念頭に置くなら、このまま修復するよりは強化が望ましいだろうな……取敢えず、神力自体は纏えてるみたいだから、暫くは誤魔化せると思うけど)
「さて、では早速だが、ルークの回路を増強するとしようか?」
「「!?」」
こちらの悩みを見破ったのか、カミナの一言は俺とルーカスを驚かせるのには十二分なものだった。
「いや、カミナ、何を言っているのかわからないんだけど?」
「そうですとも、些か高密度の神力を使い過ぎた様では御座いますが、回路を増強するほどでは在りますまい?」
ルーカスにはバレて無いみたいだが、どうしてなのだろうか? 自分でも分からない違和感でもあったのだろうか?
「……膝枕をしていた間に身体を調べておいた。流石に力の流れが威力と比べて元の力のままだったから、違和感を感じてな。……全く、感謝してほしいものだ。どうせ隠し通しながら修復するつもりだったのだろう? 渚や沙耶が知ったら説教だけで済みそうに無いからな。誤魔化すのが下手過ぎるぞ?」
……全く持って良く分かっていらっしゃる。
もしバレた場合、あの二人なら暫くの間は監視付きと軟禁状態にして治療されそうな気はする。
「あの二人は心配しているのだろうが、少々強引な所が在るのは仕方の無いことだろう? それだけ心配される様な事をするんだからな? 後は、私が渚から怒られるのは流石に……困る」
「そりゃ……うん。なら早くしたほうが良いよな? 渚達にバレないかな?」
「そこはお前の匙加減だろう? 私もそこまで責任を取る事は出来んぞ?」
流石に回路を増強したら、俺から契約した方へ流れる魔力や神力の質とか違うだろうから、問い詰められるのは間違いないだろう。
特に今回は、討伐依頼のみを伝えているからこその遠出だ。
一応、討伐依頼対象が帝国領なので他の用事も込みで時間がかかる。故に、道中で修復するつもりだったが、此処で一気に行った方が良いのかも知れない。
「まぁ、修復は少し待て、先に報告をせねばな?」
『いや、その必要は無い。此方から全て見ていた故』
突然の声に少しばかり驚いたが、この声はシャガール様のものだ。何処から聞こえるのか分からないが、どうやら近くにいる様だ。
「神剣から声を出しているのか? まぁ、己の血を使ったら可能か……ならば、話は早いな? 先程の空間に誘う事は出来るな?」
『可能だ。然し、何故その様な事を聞く?』
「見てわかるだろう? ルークの回路を増強する序に、少しばかり必要な物を貰おうと思ってな?」
『……今回ばかりは此方から依頼した様な物だ。されど、条件は付けさせてもらう。ルークの回路を修復し終える迄の滞在だ。それで良いな?』
「そうさな、それで構わん」
カミナとシャガール様の会話が終わり、空間に再度亀裂が走る。その様子は、まるで鏡が罅割れる様な音を立てながら、崩れていく様にも見えた。
「回路の修復は本人が行うのか? それとも外部から行うのか?」
「本人主導で行うが、少しばかり勝手が違うだろうから、神薬を使わせて貰うつもりだ。此処にも在るだろう? それに、早く返すのなら、それが、1番手っ取り早い筈だが?」
「……レヴィアス」
「ね? 言った通りでしょう? はい、カミナ。コレで良いのでしょう? 一応人が使っても大丈夫な程度には薄めてあるから」
「そうか、助かる。ルーク、コレを残さず飲め」
カミナは、レヴィアス様から白い液体が入ったカップを受け取ると、そのまま差し出してきた。━━コレは一体何だと言うのだろうか?




