帝国領錬金術・薬師ギルド
「……デカいな」
俺は今、帝国の錬金術・薬師ギルドの前に居た。
ウルムンド王国のギルドに比べ、建物がレンガで作られているのも有るのか、かなり古い印象を受けるが、見た目がそう見えるだけで、実際に複合解析で見てみると、全体に自動修復を組み込んた術式が張り巡らされていた。
流石に、このまま立っていても目的が果たせないので、中に入るが、中はまた違う装いで圧巻されそうになった。外の外見よりも、中の方が広過ぎるのだ。
「時空間魔術? 違う、そうじゃ無いな」
「……君は一体何をしているんだ?」
「あっ、ネブラスカさん」
「此処に居るって事は、エリーも一緒……では無いみたいね?」
「残念ながら、今回は俺の個人的な用事です……但し、余り他の人に聞かれたくないのと、その内容にエリーゼ以外に信頼出来る錬金術師をもう一人程欲しいのでここに来ました」
つい空間状況の把握をしようとしている所で、丁度お目当ての人物が螺旋階段から降りてきた所だった。
エリーゼを探している様だったが、残念ながら俺だけだ。だが、話のタネは恐らく喜ばれるのでは無いか思う。
「分かった。それなら付いて来なさい」
「ありがとう御座います」
「……何か頭の痛くなりそうな話にならなければ、良いのだけどね……」
「ごめんなさい。多分、喜ばしい発見ではあるけれど、確実に頭の痛くなる内容でもあるから、先に謝っておきます」
ネブラスカさんと共に螺旋階段を昇っていき、着いた部屋はとても広いが、様々な薬品や錬金術の道具が置かれている研究室の様な部屋だった。
「ここは私の研究室の1つだ。この部屋なら防音もしてあるから、話が外部に漏れる事は無い。一体話の内容は何だね」
「緋緋色金についてです」
「緋緋色金? あぁ、今では殆ど無い鉱物だね。質の悪い詐欺が闇市とかで行われていると報告を受けて入るが……」
「まだ未発見ですが、レイ皇帝陛下管理の鉱山にコレと同じ魔力反応を感知しました」
俺は、凝縮した緋緋色金の玉をネブラスカさんに渡し、受け取ったネブラスカさんは、解析を行っているのだろう。玉をあらゆる角度から調べ、魔力を込めたりしていたが、しばらくしてから目頭を押さえ動かなくなった。
「……君はこの塊をどこで手に入れたんだい?」
「違法奴隷の首輪に使われていた物を抽出して、そこから不純物を取り去っただけです」
「……皇帝陛下は知っているんだろうね? じゃ無きゃここに来ないか」
「はい、イフリートの2月目に皇帝陛下と共に件の鉱山へ行きます。その時に、エリーゼとネブラスカさんが居れば心強いですから」
「なる程、現地で緋緋色金の確認をする人が要る訳だな? しかも、ある程度の権力を持つ者がと言うのは理解出来る……しかも、この国の鉱山から採掘出来るとなれば、錬金術ギルドも事前に知っておく必要は確かにある」
「それじゃあ!」
「仕方無いか、助けが必要なら来ても良いと言ったし。引き受けましょう」
ネブラスカさんは呆れた様な顔ではあるが、一応許可が出た。これで鉱山内の人員確保は恐らく大丈夫だろう。後はもう一つ聞いておきたい事があった。
「ネブラスカさん、もう一つ聞いておきたいんですが、この辺で澄んだ水の湧き出てる場所か雪原ってありますか?」
「貴方も大概、話の切り替えが早いわね? この辺で澄んだ水源は3ヶ所位ね。雪原はこの時期だと多分無いわよ?」
「雪原は、まぁ次の時にって考えですから、精霊契約の指輪って言えば分かりますかね?」
「十二分にね……そういう事なら、適した場所は無い事は無いわ。人の手が入っていない場所の方が良いわよね?」
精霊契約の指輪を使うなら、当然ながらその精霊に適した場所が必要になる。帝国領の方は水質が良い場所がかなり在る為、俺の目当ての場所が見つかるだろうと思っていた。
「この近辺なら、距離は有るけれどジヴェルニー湖かしらね。まぁ、呼び出しは出来るけど下級位の精霊でしょう。ただ……貴方の事だから、中級辺りを呼びたいのでしょうね?」
「分かりますか?」
「何となくね、余り気は進まないけれど、なら北東に在る鉱山の地下に魔力を帯びた地底湖が在るわ。多分その地底湖なら、中級位の精霊を呼び出せるんじゃないかしら?」
「その山ってどの辺ですか? もしかして、この辺の山じゃないですか」
俺は慌てて地図を取り出し、鉱山のチェックを書き込んだ場所をネブラスカさんに確認してもらった。北東の方角には鉱山が何ヶ所かあるが、一般開放されている鉱山はそう多くは無い。
「あぁ、そこは……この時期だと冒険者が魔蟲討伐やらでよく行っている場所の1つだね。私が言っている場所の近くではあるが、その鉱山の丁度裏にあるこの山さ」
「……あぁ、ここですね? なら丁度良いか」
ネブラスカさんの指差した鉱山。
そこは、緋緋色金の反応が有った鉱山であり、俺達が探索に向かう場所でもあった。
偶然の一致ではあるが、余りウロウロしなくて良いのは助かる。
探索するのにも期限があるし、閉鎖中はミスリル等の鉱物資源を売買する事で得られる利益が減る為、出来れば早目に済ませたい内容でもあったからだ。
その事をネブラスカさんに話すと、少しばかり考え事をして、何かを手元の用紙に書き記していた。
「取り敢えず、他の中級位精霊と契約出来そうな場所と条件を幾つか書き出したから」
「ありがとう御座います! ……これ殆どダンジョンの近くですね?」
「そうね、でも殆どが精霊契約をする必要がある人が行く場所よ。まぁ、その場所の魔力量と環境が精霊の安定した出現条件になっているから、少なくともその条件に近い場所なら呼び出しは出来ると思うわ」
ネブラスカさんの書いてくれた内容は、精霊の位によって必要になる魔力濃度と環境や触媒等の情報だった。
かなり細かな詳細も載っているが、知らない情報が多く記載されていた為、とても理解しやすい。
「本来なら、条件と触媒さえ揃えば精霊の契約何て何処でも出来るわ。但し、精霊契約は元々エルフやドワーフといった自然と共に生きる種族が調和や親和性が高いから出来る術を、指輪を触媒にして人族が使えるようにしたってだけなの。だから、本当の精霊契約は、ただ精霊の力を借りるのでは無く、共に協力関係にあるものだって事は覚えておいてね?」
ネブラスカさんは、少し複雑な表情を浮かべながら、そう話してくれたのだった。




