テスト結果の発表
テストの結果が発表される当日、ドラムシアス学院の中央広場には、巨大な張り紙と人集りで溢れ返っていた。
「おぉ、ルーク。見てみろよ、全学年のテスト合計点が順位を含めて張り出されているんだとよ」
「おはよう、アーサーはどうだったんだ?」
「名前書いてなかったのが俺のだって先生が気付いたから注意で済んで、取り敢えずは大丈夫だった。次は無いって言われたけどな！」
「おぉ、良かったじゃん」
（アーサーは追試や課題の追加が無かったようで何よりだ）
流石にあそこまで落ち込んでいる姿を見たら、自分のミスだとしても少しだけ同情心を持ちたくもなる。
アーサーが追試者に張り出されていなかっただけ、いくらか気分も楽になるってものだろう。
「んじゃ、自分のを探しに行ってくるわ!」
「ん? だったら、左の一番端の所に名前あったぞ」
「行ってみるか……って……結構並んでんな」
「まぁ、お前を含めて、6人が全員やたら有名人だからなぁ」
「は?」
「だから、あの列は各学年の成績優秀者? まぁ、トップの張り出しだからな。因みにお前の名前も、あそこに有ったエリーゼと同順位でな」
まぁ、当然と言えば当然な結果だ。何せ転生している分理解力はそのままだが、そう難しい内容も無いし何より、元々勉強が嫌いじゃない。
扱える知識が多ければ多い程に様々な事に対応しやすくなるのは当然だから。
そういった点では、エリーゼや俺は知識の探求自体を好む性格だから、全く苦にならない。
逆に言えば、苦になる程嫌な事は全力で回避する努力を怠らないとも言えるが……。
「あっ! ルーク君みっけ! アーサーくんも、おはよう」
「おや? エルザおはよう。こんな所でどうしたんだ?」
「今ね、ソフィアちゃんとリーフィアちゃんが、点数の発表を見てて、急いで行ってくるって何処かに行った所なの」
「へぇ? なら教室に一緒に行く?」
「ん〜、取り敢えず待ってるよ。もう少しして戻って来なかったら教室に上がるね」
「分かった。なら順位を確認して教室に行くよ」
エントランスホールに座っていたエルザが、俺とアーサーを見つけて声を掛けてきたが、どうやらソフィア達と一緒だったらしい。
張り出されている名前を見て何処かへ行ったらしいが、一体どこに向かったのだろうか?
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【ソフィア・リーフィア視点 屋上】
「さて、それでは打合せを始めましょうかぁ〜?」
「賛成ですわ」
「……はい。お願い致しますソフィア皇女殿下」
「ん〜、今の私は、皇女のつもりは無いので、お昼の時と同じ様にその敬称は外して欲しいですね～? サリエラさん、リーベルトさんもですよぉ?」
「分かりました……ソフィア様」
「畏まりました。お嬢様」
ソフィアとリーフィアは、屋上にてサリエラとその執事リーベルトを呼び出していた。
「私達のルーク様が、イフリートの1月終わりにエステングラートに行くことが決まりました。お父様から貴女達に対して、言伝が在りますがとても簡単なものです」
「はい」
「全ての元凶たるガヴェルテス伯の更迭処分、並びにサリエラ嬢の保護が決定しました。執行官にハーガンおじ様が行きますので、そう時間は掛からないとの事です」
「ソフィアお嬢様! ハーガン様が来られるのですか?」
「えぇ、ルーク様のサポート役としてですけれど。私の方から既にアギロに動いてもらう様に言ってますから大丈夫でしょう」
「……ありがとう御座います」
【第三位黒騎士ハーガン】と言えば、子供を含めた帝国の貴族で知らない者は居ない。
皇帝陛下の玩具と揶揄されるが、それはその貴族が善良であるが故、口に出来る許された言葉だ。
第三位黒騎士の本質は、不要なものの処理であり、それは人も例外では無い。
「そこで、この中で唯一の大人であるリーベルトさんにお父様からの言葉を手紙で預かってますの、よろしいかしらぁ?」
「はい、お願い致します」
「では、読みますね……『エステングラート伯爵に仕える執事長リーベルト・シュナイダー、汝の告発は然と受け取った! サリエラ嬢の件は問題無いが、使用人達の件は看過できない。サリエラ嬢のみ無事ならとは自己犠牲が過ぎる為、今回の件はお前達使用人全てに当て嵌めて行う! 死ぬ覚悟が有るのなら、サリエラ嬢の成長を側で支えよ!!』だそうですよぉ～」
ソフィアは手紙を読み終えると、そのまま燃やし二人の方を改めて見つめる。
リーベルトは、手紙の内容を理解しようとして固まっているようだが、その目尻には涙が零れ落ちる寸前だった。
「ここからは、皇女ソフィアとしての言葉で話します。サリエラ、そして、リーベルト両名には、ルーク様の配下として役職に就いてもらう様に、皇帝陛下へ話を通しています。この件は拒否出来ますが、その場合、当主が更迭されたので、帝国領の貴族として生きる事はかないません」
「……左様でございますか。有難きお話でございます。皇帝陛下、皇女殿下に最大の感謝を」
「えっ? リーベルト?」
何かを理解したリーベルトと、何が起きているのか分からないサリエラだったが、祖父の代から常に正しい選択をしてきたリーベルトが傅くのに合わせて、サリエラも傅いた。
「さて、ここからは姫様に代わり此方から内容を詰めましょうか」
「お願いするわ」
「はい、お任せ下さいませ姫様。私は、オルレンシア・フォン・サナトス、姫様の近衛騎士兼メイドをしています。因みにサナトス家の者ですが、気になさらないで下さい。サリエラ嬢にも分かりやすく説明を行いますと、貴方方にはルーク様の開拓並びに統治する街に対しての人員として雇い入れるという事です」
オルレンシアの説明はとても短い内容だったが、リーベルトもサリエラも、最早その流れに乗るしか無かった。
様々な説明もありつつ話を詰めたが、結果として理解出来たのは、『開拓地での仕事内容』『学院卒業までの金銭面』の点だけだった。
1つ、リーベルトは、ルーク子爵を新しい主とし、その助けを行う事。
2つ、サリエラは、皇女ソフィアの補佐として恥じない勉学を修める事。
こうして、ルークの知らない間に、執事とソフィアに新たな補佐が加わったのだが、それをルークが知るのは、少しだけ後の事だった。
