あぁ、煩いのは困る
【カミナSide】
「ふむ、この辺で良いか?」
本来ならば、狼の姿で走る方が早いのだが、ルークの居ない時にその姿で走り回るのはトラブルに成りかねないと考えた結果、カミナは、天界を経由しての移動を取った。
(ルークに小言を言われたが、まぁ良かろう)
カンテボに到着して、依頼書を衛兵に見せ中に入るまでは、対していつもと変わらない。今回の依頼は、この街の総意で出された物だからか、対応は何時もより早かった程度だろう。
そのまま冒険者ギルドに向い歩こうとした所で、ふと足を止める。
(なんぞ? 奇妙な視線がするが……4人か?)
どうにも気持ち悪い視線が纏わり付く。
だが、嫌らしい物と云うよりは、何かを確かめている様な、値踏みされている様な視線だったが、気にしても無駄な事だと思いカミナは、ギルドの戸を開けた。
「影狼のカミナだ。以来の再確認と打ち合わせに来た」
「はいッ⁉ 依頼書とギルドカードの提示をお願いします……ありがとうございました。此方へどうぞ」
受付けの男は何かに驚いた様子だったが、どうだろうか?
男の案内で2階の応接室へと入ると、二人の男女が地図を広げながら話しをしていた。
「この畑は荒らされた形跡が無いな?」
「この辺は崖の上に成っているからだと思いますが、鳥避けの対策と柵に鍵をしていますからね」
「フム、となると被害にあった畑の周辺を探すのが良いか?」
「ギルマス、お話の途中失礼します。影狼のカミナさんをご案内しました」
「わかった。下って受付業務に戻りなさい……初めまして、カミナさんですね? 私はカンテボのギルドマスターをしてます。リズフェリア・ライフェンです」
「アンタがカミナか? 俺はこの街で魔物や魔獣の巣を探索と記載しているペイディ・ドムンドだ」
「影狼のカミナだ。今回は王都の冒険者ギルドから指名依頼との事で来たが?」
「はい、今回の依頼は、畑に現れるゴブリンと新たに出来たと思われる巣の破壊。それと、前回来た冒険者の取り零したゴブリンの巣を調査して頂きたく」
内容は依頼書に書いてある通りだが、其れにしては説明内容が薄い。
「内容は以上か? 随分と説明が薄いが、何処まで把握しているのか聞いても?」
「実は、巣穴が拡がって居る様で、どうにも先の死に穴の奥に通じる道が在るらしいのです」
「取り零した巣穴が拡がって居るのか?」
「いや、俺の見立てじゃ別の穴が原因だと思う。畑に現れるゴブリンと前回来た冒険者の潰した死に穴のゴブリンが同じ種類じゃねぇらしくてな?」
「フム、どう違うのか聞いても?」
「あぁ、畑に現れるゴブリンは、どうにも人に害を及ぼす事が無ぇ種類みてぇで、人が近づくと逃走するらしい。で、死に穴のゴブリンは、通常の襲いかかるタイプで、中にソルジャーやメイジも居た」
(進化種がいる巣穴か……新米が判断を間違わなければ、一攫千金のチャンスだったろうにな)
「ソルジャー達だけか? ロードやキングは?」
「残念ながら、そこまでは……ただ、かなり現れる数が存在しているのではないかと考えられます」
「ふぅむ。大規模討伐の依頼は別に良いが、調査を私一人で行うのはどうなのだ?」
「そこは他の冒険者にも要請をしているのですが……何分、その……ランクの低い者が多く」
「なら、戦闘中に洞窟は私だけなのだな? 周りを気にしなくて良いのは助かるな」
「いや、一応だが一人居る。オイ!」
ペイディと名乗った男が叫ぶと、扉が開くが姿が無く、扉の陰に隠れた獣人族特有の獣耳がユラユラと揺れて居た。
「ど……どうも」
「ふむ? 兎人族か」
ひょこっと扉から顔を出したのは、小柄な兎人族の女性だった。
「マーレイ、こっち来て挨拶せんか!!」
「ごめんなさい!! えっと、マーレイ・ドムントですぅ」
「ん? ドムント?」
「……俺の娘だ。で、今回の同行者でもある」
(同行者なぞ邪魔でしかないのだが、何を考えている?)
ビクビクしながらも名乗った娘はかなりの軽装で、紙とペンを挿した鞄を肩から下げていた。
「コイツは洞窟のマッピングを担当していたから、連れて行くと良い。途中まで案内させたら帰して構わん」
「新しい巣穴の道が、だいぶ複雑でして魔力探知が可能な方でも迷うレベルなんだそうです」
「この娘が途中までは案内をすると?」
「俺の娘ながら、記憶力が良くてな、一度記憶したら完璧に憶える事が出来るんだ。ただ、地図に書き起こす能力が無ぇから、実質、道案内にしか使えねぇんだがな……」
ペイディの口調からして、完全記憶の持ち主なのだろうが、戦闘の邪魔でしか無い。同行者として連れ歩くには些か無理が在るだろう。
「大丈夫です。私もギルドの職員ですから! カミナ様の邪魔にならない様にしますから!」
「むぅ、しかしなぁ。正直な所、弱いだろう?」
「逃げ足だけなら問題無い筈です!」
(あまり此処で長話をしていても解決しないし、今日は日帰りだとルークにも伝えたからなぁ……)「仕方無い、後ろから決して離れるなよ?」
「はい!!」
「では現場に向かう」
「お願いします」
正直な所、一人で勝手に討伐を行う方が効率が良いが、同行者を護りながら戦う事は、冒険者として多々ある事
なので、どちらにせよ問題は無かった。
「あのぉ、カミナさんって、ご結婚されてるんですかぁ?」
「……」
「私、今回のお仕事は、かなりの大変になるかも知れないから、できるだけ多くの勉強にもなると思うんです〜」
「……」
「カミナさんって、お話しするの苦手な方だったりしますか?」
(……何なんだこの煩いのは)「あぁ」
マーレイがかなり煩いのは、予想外だったという事だろう。
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【カンテボ 冒険者ギルド】
「ペイディさん良かったんですか?」
「あぁん? 何がだよ?」
「マーレイちゃんを行かせた事です」
「良かねぇよ! 本当なら冒険者ギルドの職員なんて辞めて、嫁ん所で薬師に成ってくれた方が、要らん心配もしなくて助かるんだ! ったく、なんでこんな危なっかしい仕事に就いたんだか」
「存外、親バカですねぇ?」
「五月蠅い」
「あらぁ? ゴブリンの巣穴を壊滅させて、安全な状況に出来る冒険者で、なおかつ女性なんて、探すの相当苦労しましたけどねぇ?」
「んな事より、ゴブリン共の対策を考える方が先だろうが!!」
リズフェリアとペイディの話は打ち切られ、ギルド職員によるゴブリンが街へと侵入している経路の洗い出しが始まったのだった。




