オーレルカの受難2
「先ず、勘違いしないで頂きたいのですが、『彼が新入生だから』と言う部分ですが、スキップの制度は、どの生徒にも当てはまるのは間違い無く、彼にも行う権利は当然あります。コレはよろしいですわネ?」
私とて新入生担当教師に成って1年目だが、それ位は知っている。
そもそも、ここに来る前の学院も王都魔術学院の系列だった。
教育方針に変わりないからそのまま新入生の担当教師になれたのだから。
他の先生方も、カーマイン先生の話に頷きながら耳を傾けていますね。……グリムガルト様以外は。
「話を戻しますが、ヴェストリが規則を破ったからと言って、彼にその権利が無くなるわけではありません。問題なのは、彼の能力や会得しているスキルです!!」
「同年代の奴らに比べたら、確かに彼は抜きん出ていると某は感じたが、そこまで警戒するものでは無かろうかと」
「まぁ、色んな意味で大した奴だとは思うが、まだ子供だゼ? カーマイン先生がどう考えているか、なんて俺には理解できねぇが、実力は本物だと太鼓判を押すゼ」
雲水先生とヴェストリ先生は、授業で彼の事を担当しているからこそ、問題無いと評価をしたようですね。
私としては、彼の能力が高い事に違和感がありますが、その程度では問題無いと考えていましたし。
「私もお二人に賛同します。逆にカーマイン先生が否とする理由をお聞かせ下さいませんか?」
「先生方は、魔導具の結果と実際の彼の情報に違和感を覚える事はありませんでしたか? 召喚術の授業は兎も角、戦闘技術に生産技能。それも、帝国の錬金術ギルドのグランドマスターが発行したカードを所持。まぁ、母親があのトリアナさんですから、この辺は受け継いだ才能と判断するとしても、年齢と能力を総合的に判断をするとおかしくないかしら? 恐らくだけど、何かしらの加護か本人が意図的に隠してる気がするのだけど? 正直な所、不気味ですワ」
「「「あー」」」
確かに彼の能力は、数値化した物よりも高い水準に達しているが、あの様な訓練をしているのであれば、不思議でもないでしょう。━━知りたくは無かったですが、あの入学試験の時にあの場に居た教師は嫌と言う程実感させられた訳ですから……。
「それに関しては、儂の方から話をしよう。とは言え、カーマイン先生は、入学試験で学院に居なかったから知らぬじゃろうが、ここに居る者は皆が彼の相方を知っておる。故に、その程度では大した事は無いと思っておるのだよ」
「何故ですか? 入学試験で何がありましたの?」
彼女の口調は、静かだが不満の声があった。
唇に薄っすらと跡が残る程度には噛み跡が浮かぶ。
「理の外に連なるモノ……そう呼ばれる者を知っておるかの?」
「神と同じ力の一部を有する者。神性が逆転した神の使い。地域によって様々な呼び名がある御伽噺でしょう。グリムガルト学院長?」
「儂は過去に一度、理の外に連なるモノと同じ様な魔力を感じた事がある。……いや、あったと云うべきか。【歪曲の屈折廻廊】皆に調べてもらったあの場に残る魔力残滓がそうじゃ。初めて此処の地下ダンジョンを掌握した時に、アレが無ければ儂も御伽噺と笑っていたやもしれぬ。誰か同じ魔力と噂話を知らぬ者はおるかのぉ?」
グリムガルト様の言葉に、その場にいた全員の表情が凍り付いた様に固まる。同時に、その様な危険な物が学院長によって隔離されていた事実を改めて認識したと云うべきか。
━━『決して踏み入れてはならぬ禁忌の場が、学院の地下ダンジョンにはある』
学院で噂話程度に囁かれるこの言葉には、モデルと成ったと思われる御伽噺に、物語が存在する。
「『遥か昔、墜神、悪神と呼ばれる存在に堕ちた女神が居た。彼の者、打倒され亡き後、地に墜ちた肉片は汎ゆる草木を死滅させ、飢えや疫病を蔓延させる。聖女の祈りも虚しく、肉片から放たれる瘴気は抑えられる事も無く溢れ出し、終ぞ、聖女すら呑み込んでいった。終わり逝く聖女の祈りに、漸く六龍は応じたが、神気すら蝕む瘴気に封じる事しかできず、各所へ封じる迄の間に瘴気で亡くなった死者は、皆総じて不死者へと転じて行った』聖女リデルの封印神話その冒頭です。グリムガルト学院長?」
咄嗟に思い出したのは、聖女が封印の儀式を行い歩く封印神話の御伽噺。
6箇所の封印の地を巡り、六龍に祈りを捧げ神に至る物語の冒頭。
「流石は国語と歴史担当教師じゃな。御伽噺もスラスラ出て来よるわぃ。その封じた場所こそが、六龍の契約地。白龍ハイペリオンがこの国と黒龍オルクスが帝国、碧龍ユグドラシェルが獣公国と紅龍アグニシュカ神龍皇国この4国を中心とした中央大陸じゃ」
「某が記憶するに、その御伽噺なら封印は6箇所の筈。残りの2つはどうでしたかな?」
「封印された欠片は4つ、残りの2つは瘴気のみが噴き出す穴だったと、帝国に保存されているリデル手記に記されていたそうだ」
「それはそれで、すごい発見とは思います。が、それが彼と何の関わりがあるのでしょうカ?」
話が逸れているのですが、本当に彼女がグリムガルト様の云う存在なのだとしたら、彼は何者なのでしょうね?
「封印されたモノは実在する。……いや、したが正解だな、この学院の地下に封じられていたモノを、彼は退けた。既にこの学院で魔術課程を学ぶ事すら必要の無いレベルなのじゃよ。故に、彼をDSクラスに編入しておるのじゃ、彼の望むスキルが得やすい様にな。そして、相方に魔人狼と呼ばれる理の外に連なる者の一人を連れている。まぁ、儂も長く生きてきたが、この歳で伝説の存在に出会えるとは思わなんだ」
「既に魔術の基礎学習内容を学ぶ必要性が無い? 有り得ません! 入学したてでその様な生徒が居るのでしたら、選択授業のスキップよりも、既存の飛び級制度を先に使用するべきでしょう?」
「それには理由がある。彼も納得してくれて居る話じゃが、彼の婚約者に儂の孫娘が居る。どうしても一緒に卒業して欲しいのじゃよ」
そうなんですよねぇ。彼が普通の天才なら、飛び級制度を使用するべきなんですが、当てはまらないのが悩みどころなんですよ。……胃が痛くなりますねぇ。
「そしてもう一つ、過ぎた力は身を滅ぼす事になります。彼が何のスキルを得ようとしているのか不明瞭過ぎるのを説明して頂きたいですワ!!」
「薬学と加工職人……確かに不思議な組み合わせですが、彼が学びたいとして希望したものですよ?」
「……並の錬金術を扱う者であれば、私とて不思議とは思いませんでした。この文献を見てください。コレは昔の実在した犯罪者のスキルの会得していた物を纏めた書です。今は発現していない物も載っていますが、最後の頁にとある男のスキル構成があります。私が懸念しているのは、彼が、その男と同じスキルを目指しているのではないかと言う事。若しくは禁忌の法を探しているのではないかと云う事です」
そこに記載されていた男のスキルと罪状に、我々の目は釘付けになる。
━━罪状【神に至ろうとした者】 該当危険者所持スキル【錬金術Lv MAX 錬成師Lv 8 特殊加工職人Lv MAX 神霊薬調合師Lv MAX】
今の彼が手にしたスキルが限界値を迎えた後に、得られるスキルがそこには掲載されていたのでした。




