オーレルカの受難1
私は、オーレルカ。このドラムシアス学院の教師をしています。
本日は、緊急召集として学院長室に呼ばれ、其処には、一振りの魔剣が持ち込まれていました。
そして、召集内容は『ルーク・フォン・アマルガムの選択科目のスキップと作成した魔剣について』と言う事です。
(胃が痛い! 胃薬は飲みましたが、全く、彼には自重と言うものが無いのですかねぇ?)
「コレがルーク君の打った魔剣か」
「あぁ、テストって名目で打たせたから、教えた鍛冶の技能と刻印でのみ造らせた。だが、恐らくアイツは殆どの工程を【錬金術】の【錬成】か、俺の知らねぇ技法を混ぜ合わせて造った魔剣を所持してるみたいだな。若しくは既に特殊な【錬成師】なのかもしれねぇ」
「錬成師ならば、然程珍しくは無い。珍しくは無いが、加護持ちならば、話は別よのぅ?」
「あぁ、唯でさえ物質の変性、加工を得意としている錬成師に、創造神の加護を持ってりゃ、一人で武器商人……いや、戦争だって出来ちまう。歴史上何故か錬成師に、創造神の加護持ちは一人も居なかったからな」
話を行う学院長のグリムガルト様を筆頭に、私とヴェストリ先生、雲水先生のルークと関わりの有る教師3名と、もう一人そこに異質な女性が居ました。
「何はともあれ、立派な魔剣を打てる鍛冶師でもある訳ですネ? どう思われますか雲水センセ?」
「そうですね……カーマイン先生の言う様に、魔剣鍛冶師と言えるでしょう。それよりも某、試し斬りをしてみたいのですが?」
「魔剣……しかも2つの違う属性を有した一振り、試し斬りを見てみたいのはワシもじゃ。その前に、ルーク君のスキップについて話し合わなければならないじゃろう? カーマイン先生も、その為に来てもらったのじゃからのう?」
「そういえば、そうでしたわネ? 初めての方もいらっしゃるから、自己紹介しましょうか? 確か、オーレルカ先生でしたネ?」
見た目はかなり若い……いや、幼いとでも云うべきか。25~30歳位の職員が多い中、どう見ても10歳児程度の身長で有り、薄紫の髪をシニヨンヘアにしている。一見ドラムシアスの学院生と見間違うかと思われる程ですが、カーマインの貴族名には心当たりがありました。
「カーマイン伯爵夫人に、ご挨拶申し上げます。私はオーレルカ・ザイールと申します」
「あらあら、随分と丁寧な挨拶ネ。ここは貴族社会を学ぶ場では有るけれど、そこまで畏まらなくても良いのに。……ヴィラ・フォン・カーマイン。本来ならば、上級生の特別講義で呼ばれるものだから、学院には余り居ないの。呼ばれるのも、年に1、2回程度ですもの。主に学院の魔導図書館の魔導書修理と一応、経理を担当している職員の一人だから。貴方と同じ教師なのだから、気軽にカーマイン先生って呼んでネ」
(どうやら、スキップの許可を行う経理として呼ばれたようですね)
カーマイン先生の貴族名には、二つ名が有るのだが、どれもカーマイン伯爵に対する物で有り、【狂気の愛妻家】【朱贄の伯爵】と呼ばれている。
理由は様々あるが、代表的な物は、と言われて思い浮かぶのはこれだろう。
曰く、妻の魔術薬品の実験台、被験者で有る。
曰く、本来のカーマイン家の本当の主は婦人である。
曰く、婦人の為なら、単騎で竜の巣穴に潜り卵を取って来る狂人。
と言った物から。
曰く、王家に反逆の意思を持つ者20名を、一人残さず捕縛し、生皮を剥ぐ拷問を行なった。
曰く、カーマイン家の固有魔術において、敵対した者や魔物氾濫を鎮静化させた土地が、対象の血で埋め尽くされていた。
なんて話がある程だ。
(つまり、粗相をすれば伯爵が出て来る可能性もある為、気を抜けないお相手ですね)
「それじゃあ、話は戻すケドぉ〜。スキップの許可は出しません! と言うよりも出せません。かしら?」
「「「!?」」」
「何故じゃ? 条件には一定の基準値以上の成果を示した者には、次の課程を受講する権利を与えるとしてあった筈じゃが?」
学院長の言う通り、この学院には次の工程に進める程の能力さえあれば、スキップしても良いとしてある。
今回の場合、加工職人の課程をスキップし、魔金属加工職人と魔結晶加工職人に上がる事が出来るのだが、どうしてなのだろうか?
「能力自体は問題無ありません。問題なのは、本来の区分を超えて異質に【刻印】のスキルを習得させた事と、彼が新入生である事ですワ」
「……チッ、知ってやがったか」
「???」
「【刻印】のスキルは、元々魔剣を作成する他に、魔導具を作成する人が得る【彫金】のスキル。若しくは、その上位互換である【彫印】の派生形となりますが、今回の場合、鍛冶の課程で得られる【鍛冶】スキルを基盤に、半ば異質な方法で【刻印】スキルを習得させたのですワ!! そうでしょ、ヴェストリ?」
「まぁな、ドワーフ連中なら知ってる魔剣作成の技法内に幾つか在る本来なら、……まぁ、門外不出ってヤツだ」
カーマイン先生の声が、少しだけ怒声を孕んで居るのは分かりましたが、彼女はどうしてその技法が在ると知っているのでしょうか?
学院の教育課程において、生徒に対する必要以上の優遇は御法度。
それも、門外不出の技法を教えたとあっては、確かにスキップは無理でしょう。
ですが、ドヴェルグの称号を保持していた職人が、技法を教えた事に私は驚愕しました。
ヴェストリ先生は、盲目の職人として知られているが、快活な性格とは真逆な指導で、一度作業を始めたら、終わる迄は離れられない授業スタイルに、賛否が別れる事でも有名だからです。
しかし、それも彼の真面目さから来るものであり、一定の基準値を安定して引き出す為の一環に過ぎない。
今回、そんな彼が違反して迄異質な方法で【刻印】のスキルを教えたのが意外でした。
「お主ががそこまでする程の逸材だったと?」
「逸材どころじゃねぇ!! 学院で教える範囲での全ての技法を教えてみれば、水を吸うスポンジが如くってもんだった。あんな奴、今まで見た事ねぇ!! しかも、そこから自分なりの工夫を入れてくるもんだからな、だから、ついつい楽しくなっちまって、余分な事まで教えちまった」
「ふぅむ。まぁ、お主が刻印のスキルを教えると言っていた手前、内容を確認せなんだ側にも非はあるか。後は、彼が新入生だからと言っていたな?」
そこには、私も疑問を抱いていたが、制度上では新入生であるかどうかは、関係無い筈なのですが、……どう言う事でしょうか?




