冒険者ギルドのグランドマスター
一度気持ちを落ち着けたいものの、目の前にいる人達が、何処まで試す気でいるのか分からない以上、流石に簡単には落ち着けない。
(とりあえず、話を、逸らす事にしよう)
「所で、マノンさんの事ですケド……」
「あぁ、あの娘の姿なら心配要らないわ。アナタと同じ位の歳に見えるでしょうけど、ワタクシよりも歳上だから」
「えっ!?」
「マノン嬢は高位の悪魔と人のハーフでな、年齢だけなら200年は生きている。とはいえ、長い事封印されていたらしくてな。……確か発見したのはネベルだったな」
「えぇ、俺チャンがソロで盗掘者を捕まえていた時に、奴等のアジトで、えらくキレーな宝石を見つけましてねぇ。でも嫌に魔力が強かったんのと、危なそうな気配もビンビン感じちゃって、コレは拙いなァと思ったから魔力を封じ込めるのに近づいたら……出てきたんすよねぇ」
「そうそう、最初に見た時に、ネベルが誘拐事件を起こしたって皆して言ってたよね。この見た目で、あの姿のマノンを背負って帰って来たらさ」
「まぁ、本人は悪魔族嫌いになってるけど、強い者を見ると、悪魔の血が騒ぎ出すからねぇ……とはいえ、本人が公言してるから、他の冒険者達も、滅多に喧嘩をけしかけ無いのは良い事なのかしら?」
気を失ったマノンさんの容態を確認をしようかと思った所で、即座に答えが返ってきたのは有り難いが、なんとも言えない内容だった。
話が落ち着いた所で、問題は特殊試験で何をするのかだ。
内容次第では、学院の授業を休まなくてはいけない事に成るかも知れないから、出来れば簡単な内容だと良いんだけど。
「そうさなぁ。マノンの目から見て居ったけど、お前さん……ワシと同じじゃな? 転落者では無さそうだが? ……ふぅむ、ちと違うか? 魂の質は似ておる様じゃからなぁ? まぁ良い。【式神】と言う術を扱う小僧が居ると聞いておったが、期待していたよりも幼いのぉ」
「おっ、サンモトお爺ちゃん! おはよー。目は大丈夫? まぁ問題無いとは思うけどさ」
「おぉ、サンモトの爺様。目が覚めた様で」
いきなり話に混ざって来たので何者かと思ったが、グリッドさん達の知り合い……と言うよりも、この人が冒険者ギルドのグランドマスターなのだろう。
だが、何故この老人は式神の事を知っているのだろうか? そして、不思議な感じがするのは何故だろうか?
「サンモトさん? 貴方はアマツクニの方ですか? それと転落者? ワシと同じとは、どう言う事でしょうか?」
「まぁ、慌てるな。ワシの名を聞けば、同郷の者なら納得もしようて」
サンモトと呼ばれたご老人は、そう言うとニヤリと口元を開く。
「━━山本五郎左衛門」
「また爺さんが訳のわからん古代語を話してるな?」
「サンモトのお爺様は違う所から落ちてきたらしいですからネェ」
他の人には、聞き取れなかった様だが、俺の耳には、日本語で確かにそう聞こえた。
恐らくそれが伝わったのだろう。
此方を見る目が、明らかに違うのだから。
しかし、妙な所もある。山本五郎左衛門といえば、妖怪の眷属達を引き連れる頭領であり、魔王に属する者として、前世の世界で記されていた。
だが、俺の知る山本五郎左衛門といえば、四十代位の大男だった筈だ。
それに対して、目の前に居るのは大柄ではあるが初老の男性だった。
一説では、変幻自在であるともされる描写もある為、納得出来なくも無いが、同時に謎の多い者とも聞く。
ただ、1つ言える事があるとするならば、この老人は俺と同じ世界か、平行世界から来たと考えた方が良さそうだ。
(全く、凄いネームが飛び出してきたもんだ。それよりも問題なのは、やはりと言うべきか日本語や英語に関しては、既にこの世界にまともな形で残ってないって事と、聞き取れなかった人がいる事を考えると、ティアさん達の様に、利人さん達を知る者以外理解できる者は、そう多く無いみたいだ。あと気に成るのは落ちてきたと言う山本さんの一言だけど……)
もし、俺の予想が当たっているのなら、もしかしたらだが、まだ行った事の無い【名も無き村】の人達の問題が解決できるかも知れない。
「(来た時代が違ぇのか? まぁ、土御門の陰陽師以外の【陰陽術】を使う奴は久方振りだ。しかも霊力もねぇこの世界でなら、直ぐに理解るってもんよ。お前さん、転生した者であろう? ワシがこの世界に来たのは事故みてぇなモンだ。だが、さっき迄、お前さんの術をまともに見てねぇから何とも言えんかったがな。そして、ワシの方も、コチラの魔力で何処までワシの術を扱えるのかが不明な上、命が尽きる前に魔力に適応したからか、妖としての、山本五郎左衛門は死んじまったよ。)」
「(貴方も経緯は違うが、既にコチラの世界の者と言う事ですか?)」
「(この世界には、神力と魔力の2つしか存在してねぇからなァ。魔素の塊を喰らうて馴染ませてやったわ! ワシとて、元の世界で魔王と同格と成った者。それ位は出来ると思ったんだがな、性質が変化し命を繋げた事でアチラ側に戻れぬ身と成り果てた。ワシとしては未練も無いし、それで此方でのんびりさせて貰っている訳だ)」
山本さんの話を聞くと、どうにも沙耶と同じ様に身体を変質させる術を使用した様だが、未だに信じられない。
「サンモトのお爺ちゃんは、ギルドのグランドマスターだけど、普段はダンジョン関係の仕事をして、他にSSランク人材育成プログラムって言うのをしてるんだよ」
「あぁ、ワシは勇敢な者が好きじゃからなぁ。見込みのある者には、力を貸して居る。それ以外は、魔物氾濫の予測と、新規ダンジョンの確認が主な仕事じゃよ。まぁ、SSランクなんぞ3人しか出しておらぬがな」
「つまり、特殊試験の試験官と言う事ですか?」
「えぇ、Sランクの冒険者になる為の試験も、サンモト様が行っていますわ」
山本さんの実力は、思っていたよりも強いのは間違いなさそうだ。
「いやいや、今回の昇級試験はこれ以上戦わねぇよ? 流石にワシも目と耳が痛くてのぉ。歳は重ねたく無いもんじゃ。此奴の実力は知れたからの、Aランク登録で良い。異議が有るなら、戦って良いぞ? 間違い無く格下扱いされるじゃろうて。知識も考え方も此奴なら心配要らんわい。なんぞ有れば、ワシが責任を取る!!」
山本さんの宣言が訓練場に響き渡り、Aランクの冒険者としては異例の最年少記録が成立したのだった。




