Bランク昇級試験
「気合い十分って面だな?」
「えぇ、やらないといけない事が多いもので。後、焔と雪の試験。ありがとう御座いました。どうでしたか?」
「焔の嬢ちゃんは、恐らく魔闘士の適性が高いな。あの動体視力と靭やかさは天性の才能だろう。技術が身に付けば、まだまだ強く成る。雪の嬢ちゃんは魔術師としては異端だな。あの別属性の魔術を複数展開するのはお前が教えたのか? 騎乗した狐の魔術も見た事ねぇ。まるでお前を二分割した様に感じたわ」
何処か呆れた様な声で、ドレアムさんは評価してくれたが、俺としては満足な評価だ。
若返った為なのか、以前戦った時よりもドレアムさんは強かった。
だが、カミナと稽古している二人には、やはり届かなかった様ではあるが、それでも一般的な基準からすれば、間違いなく強い部類だ。
「んで、お前の番だが、ワイバーンの殺さず無力化ってのは、流石に簡単だろう?」
「まぁ、ですね」
「そこでなんだが、特別試験やってみねぇか?」
「特別試験ですか?」
「あぁ、正直な所、カミナとルークは冒険者ライセンスのランクがおかしいんだよ。なんつーか、実力と評価が合ってねぇ。カミナに関しては昇級に呼び出してはいるが、絶対に受けなくちゃいけねぇっていう訳じゃねぇからな、恐らく意図的に留まってる感じだ。ルーク、お前に関しては、年齢的な物が有ったから受けさせれなかったが、そんな時に特例が国から来た。受けさせろってな」
確かにそのとおりだ。
まぁ、成人していないのに緊急性の高い依頼を任せるわけには行かないし、失敗した際の違約金を払う事を考えれば、16歳以下に高ランクを与える事は出来ないだろう。
実際に子供でもCランクに位置出来るのは、依頼内容がギルド側で制限出来るからって言うのが主な所だし、納品系統の仕事や裏方の内容で、実力を付ける期間だと考えている冒険者は多いらしい。
今日の登録に関しては、一般見学も出来る様にしてあるから、座席には十数名の冒険者が座っていたが、何処からか、妙な視線が付き纏うのも感じていた。
恐らく大半は、焔と雪の容姿に惹かれて来た者だろうが、俺が感じた視線の主はその中には居ない様だ。
「で、話が少し変わるんだが、お前等のカードに刻まれた討伐履歴が、上層部にバレた!」
「……はい?」
「冒険者のライセンスカードには特殊な加工が施してあるんだが、その中に討伐履歴ってのが存在してんだ。で、手を出しただけじゃ記載されねぇんだ。大半はとどめを刺すか、魔石や核を手にした事でその魔力から記載される。後は、理解るな?」
「最後に更新したのが、黒曜とヴォーパルの時だから。……あっ!!」
モルテとトリスは学院を通しての書類で登録してあるから、直接登録したのはこの時だ。
「そうだ。茨花女王を含むランク外の討伐履歴が複数データに残ってたんだよ。複数の討伐隊編成の必要がある魔物の名前が……本当に何をやってんだ? 正直な所、夢であって欲しいくらいだ」
「無名の地の中で起きた戦闘ですからねぇ。カミナと三騎士と焔に雪のおかげですね」
対処自体はカミナが教えてくれたお陰だが、魔核を生きたまま確保していたのは俺だったから、それが原因で討伐履歴に載った可能性が高いな。竜蟲に関しては仕方無い。
「……そこに関しては、もう何も言わねぇ。で、話は戻るが上層部ってのは、各国のギルドマスターやら人事を担当しているんだが、その上層部のトップ。所謂グランドマスターが見付けちまったんだよ、お前の異常な討伐記録を」
「……まぁ、早かれ遅かれバレる時はバレるものでしょう? その為の記録でしょうから」
「俺もそう思ったけど、本当ならもう少し後で報告するつもりだったんだよ。昇級試験後とかに」
「で? どうせそのグランドマスターさんが来てるって落ちでしょう? ドレアムさん、後ろの影から物凄い見てる人ですよね?」
さっきから、ずっと観察される様に視線が付き纏うのを感じていたのだが、どうやらそういう事らしい。
「坊や、アナタ本当に子供なのかしら? まるで中身と見た目が噛み合っていないわね? これでも気配を気取られない程度には消していたのだけれどねぇ。……マノンと呼んで」
居場所を当てられたからか、物陰から現れたのは、二十代ぐらいの全身を青いローブで覆い隠した女性だった。
但し、唯一理解できるのは、この場に居る焔や雪よりも強い人だと言う事だろう。
「お褒めに預かり、恐悦至極。ただ、俺の先生が異常な者でしてね、おかげで常に自身に向く不快な視線は感じる様に訓練していましたから」
「それは素晴らしい方ですね、是非お話をしてみたい所ですが、その前に確認しても宜しくて?」
「マノンさん、何でしょうか? 答えられる範囲でしたら構いませんが」
「アナタ、本当に人間かしら?」
「何故、そんな事を?」
「それは、ワタシが普通の人じゃ無いからですわ!」
マノンさんがそう言うと、肢体がメキメキと音を響かせ蠢く。
ローブが捲れ上がり、その下に隠された細い腰や腕には、赤い竜鱗の様な物が生え揃い、背中には魔鳥の様な形の漆黒に近い色をした二対の翼が生えていた。
「悪魔?」
「えぇ、悪魔と人のハーフです。見た目は醜いでしょう? アナタは、その馬鹿げた魔力からして、魔王の再来なのかしら? 取り敢えず小手調べねっ!!」
(魔王はフォロンさんであって、俺じゃないんだけどもツッコんだら駄目だろうなぁ……)
周囲の冒険者達は、マノンさんの姿が変わると逃げる者や、堂々としている者、気絶している者と居るが、ドレアムさんは笑っていた。
「悪魔とは、人に仇成す存在である。ってのは古臭い考え方だ。かの者達は契約に忠実なだけであり、言葉を違えれば結果が変わる様に、正確に伝える事で互いの事を理解し付き合う課程が必須なだけだ。一方的な契約では無く、互いに協力する契約を結ぶ事こそが重要だ!! なんて教義に従うつもり無いですよ? それに、俺は魔王じゃ無いですから!!」
「何ッ!?」
「人も獣人もエルフもドワーフも、どんな種族の人にも絶対的な悪は無いです。見た目が違うから起こる擦れ違いもあるだろうけど、要はその人次第です。心一つで善にも悪にも成れるのが、人なんだと思いますよっ!!」
マノンさんの攻撃は、上空からの魔術を用いた広範囲爆撃だったが、躱す迄もない。
魔力は無尽蔵に使える今の俺に、怖い物は無い。
力場を作り、空脚のスキルと合わせて跳び回る。
「その様な甘言、聞き飽きたわ!!」
「でしょうね。此処に居る人の中で、貴女の事を理解している人なんて、ほんの一部だけでしょう。だから、俺は貴女の事を醜いとは思いませんし、美しいとも言えません!! だから、早い所、その偽りの姿を解いて下さい━━『閃光爆発』『ディスペル』」
なんのつもりか知らないが、早めに終わらせる方が、彼女の為だろう。
俺は、無力化様の魔術を繰り出し、マノンさんを墜落させた。




