ドラムシアスのダンジョン1
「深紅魔鉱石と言えば、うちの領内で採掘される物だ。……父の魔力とは少し違う様だが?」
「あぁ、それはですね……」
最初の愛剣【クリムゾンネイル】これに至る迄の過程で、幾つもの種類の剣を創造のスキルで仕立てていたのだが、この剣はその内の一振りだ。
ダンジョン産の魔剣に近い人工魔剣と言えば良いのだろうか。
剣自体に属性魔力を外から纏わせる他の魔剣とは違い、刀身の中から、各属性の魔力で作り出した刃を浮かび上がる様に細工し、一属性に特化した使い手を選ぶ剣。
元の鉱石は、ゴードさんが魔力を籠めてインゴット化した深紅魔鉱石に、ミスリルやアダマンタイトの鉱石を錬成で合わせた合板。
その合板を幾重にも折り重ねては引き伸ばし、薄していった合板を、剣の形に形成した物だ。
「ダンジョン産の魔剣よりもグレードが落ちるから、扱いやすいです。ただ、一属性しか纏って使えないので、火と風の魔刃は同時使用は出来ませんが、その剣なら熱量を操る事も容易に出来ます。コレなら洞窟内でも炎を纏わせなくても、その辺の魔物なら焼き切れます」
「……申し訳ないが、こんな高価なものは貰えない。恐らく、うちの領内にこれ程の剣を打てる者は居ないだろう。何処の職人の物か分からないが、良い腕をしている」
鍛冶工房で鍛えた訳では無いのだが、どうやら鍛冶師の作成した物か何かと勘違いしている様だ。
中々良い品だとは、内心自分でも思っていたが、この時の技術を足掛かりにして作成したクリムゾンネイルが、自分の手に一番しっくりときた為、死蔵品と成っていた品だから余り愛着はない。
「コレは自作の品ですから、元の素材にしても、誕生日にゴードさんから貰った深紅魔鉱石と、練習用に採取した鉱石ですから、特に高価な物じゃ無いです」
「えっ!? 自作だと言うのか?」
「はい、多少は執事長の手を借りましたけど」
「執事長……あぁ、ダリウスさんか! 確かに彼なら造形に詳しいし、この出来に成るのもおかしくは無いか……」
執事長の手伝いも確かにあったが、本当に些細な事だけで、柄や刃の長さや試し斬りをしてもらった程度なのだが、重心のズレや細かな修繕点を上げてくれたので、本当に助かっている。
「まぁ、使っていない剣だから、どうぞ使って下さい」
「それでは、有り難く使わせてもらうとしよう……ありがとう、ルーク君。所で、剣の名は?」
「特に決めてないですね。異空間収納の時は、ヒートソードで仮名してますけど。」
「そうか、分かった」
サラさんは剣を受け取り先頭に立つと、一息入れてから、召喚術式を展開していった。
数は3つ、うち2つは緋色の陣で構成された物、残りの1つは、深緑の陣だ。
「焔虎と火蜥蜴に、嵐鼬ですか……可愛いな」
焔虎は文字通り、火属性の虎型の大型Aランクの中級魔獣だ。
成長した焔虎は、強力な炎と強靭な体躯を用いての攻撃が主な戦闘スタイルとなるが、特出した点と言えば、その獰猛性だろう。
執拗なまでの攻撃を加える事も多く、一度暴れ出せば止める術は殆ど無いと言われる程気性が荒い。
但し、大きさはそこまで無いため、恐らくこの個体は子供の個体なのだろうと推測出来る。
もう一体の嵐鼬は、見た目はイタチなのだが、日本の妖怪として有名な、カマイタチの様な能力と電撃を放つ能力を持つ雷属性の小型Cランク下級の魔獣。
素早く走る事や、隠密行動が得意な魔獣でもあるので、偵察用の魔獣として扱う者もいるが、その可愛さからペットとして飼う者も多い。
火蜥蜴は、蜥蜴型のBランク下級の魔獣で、尻尾に炎を灯している魔獣だ。
洞窟内では尻尾が灯りとしての役に立つうえに、熱源探知を使える。魔術も下級の物なら少し扱える程度の知性を持つ魔獣なのだが、近接戦闘は苦手な為、殆どの人は魔術と防御力の高さから、中距離の魔術砲台の様な扱い方をしている。
「この子達は人に慣れている子達なので、護衛に関しては問題ない。護衛任務中に何かあれば、直ぐに対応出来る子達だ」
大型のAランクと中型のBランク下級の火属性魔獣と小型のCランク下級の魔獣。
近接と中距離が得意な魔獣チームだが、バランスは悪くないだろう。
「それでは、扉を開けます。管理しているとはいえ、中には魔獣や魔物が自然に湧き出る所がありますから、くれぐれも離れ無い様に。訓練場や学院内とは違い、怪我もしますし、下手をすれば死にますよ?」
オーレルカ先生はそう告げた後、最後の注意事項を説明していくが、他の生徒達も最初の一言が強力なワードだったのか真剣に話を聞いていた。
「最後に質問はありますか? 無ければ進みますよ」
「先生、トラップはありますか?」
「トラップは多分無いと思いますが、無闇矢鱈に触らない事ですね。学院長の従魔が管理しているとは言え、完全に掌握している訳では無いそうですので」
やはり完全に掌握している訳では無かったようだ。
もしダンジョンを完全に掌握しているのなら、各地にあるダンジョンが、魔物氾濫を起こす事が無いはずだからな。
方法は分からないが、流石、グリムガルト様は魔導王と称されるだけの事はある。
「それでは皆さん行きますよ。先頭は先生の後に、2列で並んで下さい、ルーク君を含めたサラさんに護衛される役は、そのまま一番後です。ダルガイアはせめて学院のコートを羽織りなさい。教員証を首に掛けて無かったら、本当にただの変態か馬鹿ですよ」
「そんな事言うなよ、どうせ防御に回ったら特性で破れるんだしよぉ」
「今の筋肉でも暑苦しいのに、あの姿は更に暑苦しくなりますからね。まぁボス部屋迄は、何事も無いでしょうから、コートは着てください。破れても申請すれば貴方はタダで支給されるんですから」
「分かったよ、でも俺のコートが破れたら帰りはこの姿だからな?」
ダルガイア先生はそう言った所で、コートを羽織り後方に歩いて行ったのだが、どう見ても変質者具合が更に上がった様にしか見えないんだよなぁ。
「いや、あの姿でコート羽織ったらヤベェ奴にしか見えねぇよなぁ?」
「ドラゴンの事に成るとアンタも似たような事に成っとるで?」
後ろでアーサーとオリビアの声が聞こえたが、他の生徒も少しだけ似た話しをしている声が聞こえた位だから、皆思うところがあったのだろう。
「それでは私達も移動を始めます。ルーク君は一番後にアーサー殿下と居てください。私の後に結界を張りながら移動しますので、一番堅い中心部にソフィア皇女殿下達が入ります」
サラさんはそう言った所で、腕輪に魔力を籠める。
すると、そこそこ高いドーム状の結界が展開されていた。
「この腕輪に指定した人物を中心に、結界が展開される仕組みですので、行きましょうか」
こうして、俺達の楽しいオリエンテーションが始まったのだった。
━━━━アーサーがとんでもないミスをするまで間だったが。




