学院のダンジョン
「初めての授業から暫く経ちましたが、皆さん授業や学院生活には慣れましたか?」
教室に広がるオーレルカ先生の質問に、この場に居る生徒は、緊張感と異質な物が視界に映るからなのか、誰一人答えない。
「おや、緊張感があるのは良いですが、余り緊張しすぎても良くありません。これから向かう迷宮は、学院が管理している物ですからね、少しリラックスしましょう。そして、貴方達の引率者は公正な結果、私とダルガイア先生の二人と成りました。引率する生徒はサラ・フォン・リッツバーグさんですね、彼女はダンジョンの入口で合流予定になっています」
「という訳だ!! 皆、俺達についてこい!」
「その前に、各自装備確認をしてから並んでください」
オーレルカ先生は、魔術師らしいローブに細剣を身に着けていた。見た目に問題は無く、寧ろスマートな大人の雰囲気が漂っていた。
問題は、ダルガイア先生だろう。
やはり、はち切れんばかりの筋肉を、余す所なく見せつけるあの衣装は何なのだろうか?
ボディービルダーの様に、ブーメランパンツとしか言いようの無いパンツ一枚だけの姿。
股関が盛り上がる様に見えるのは、恐らくカップが入っているのだろうと思われるが、その異様過ぎる光景に俺も流石に言葉が出ない。
……それは兎も角、他の男子生徒は何も見ていないフリをして現実から逃げている。女子に関しては嫌悪感を顕わに示す物も居たが、それも仕方無い事だろう。
オーレルカ先生もダルガイア先生の方は向かず話をしている程だ。
「今日のダンジョンに関して、先ず言っておく事が2点あります。1つ目は、教員が2名以上同行しているからと言ってもオリエンテーションの一環ですので、生徒主導で行う物です。2つ目はサラさんの後ろを歩くからと言って油断しないで下さい。通常エリアで魔物は出て来ませんが、試験広場として使われるボス部屋は魔物を配置していますから――わかりましたね? 何か質問があれば、今の内にどうぞ?」
「「「はい先生!」」」
オーレルカ先生の言葉を待って居たと言わんばかりに、手を上げるクラスメイト達。
オーレルカ先生か話していた通りなら、この先にはサラさん――ゴードさんの娘さんで、カイン兄様の義姉に当たる人が待っている。
今まで面と向かって会ったことが無い筈だから、何と呼べは良いだろうか?
(そもそも、飛び級制度で附属の方に行った人が引率っておかしくないか?)
「因みにですが、今回の引率は少し特殊な事情があります。このクラスには、王族や皇族の生徒が居ますから、その護衛任務を想定したものとして、附属の方から来ています。一応、彼女の訓練の一環としての意味もありますし、その様に扱われますので、皆さんも、その都度指示があれば従うようにしてくださいね」
オーレルカ先生の言葉に、何となく納得出来てしまったが、俺としては、別の意味で緊張している。
「まぁ!! 護衛なら立派な騎士が此処に居ますのに」
「個人的な事を言ってしまえばぁ、私達のチームでダンジョン攻略出来そうですわぁ」
「でも、リー姉様もソフィアちゃんも戦い方が極端だよね? リー姉様は、魔剣士タイプだけど、剣術と回復系や単体攻撃魔術の同時使用が苦手だし、ソフィアちゃんは魔術師タイプだけど、発動魔術の大半が闇か回復魔術メインでしょ?……わたしは魔術発動が遅いし、実戦だと光か聖魔術の支援だし……となると、バランス悪いよね?」
そんな最中に、婚約者の王族組3人の話し声が聞こえてきた。
……何やら物騒な事を、言ってるみたいだな?
「盾役は、私が引き受けて躱せば問題ありませんわ!」
「確かに、それだと単体なら大丈夫だけどぉ、複数だと火力不足よねぇ? だから、ルーク君がいればバランスが取れるでしょう?」
「オイオイッ! 俺も居る事を忘れてねぇか? まぁ攻撃役だけどよぉ」
「ツッコム所が違うやろ、阿呆ぅ。あんた等も何で護衛から外れる気満々なん? ウチも行くで」
「いや、そもそも、王族や皇族の方が前線に飛び出す前提で話すのが、おかしいと思うのは私だけなのだろうか?」
ここに来た目的よりも、護衛から抜け出る事に話が変わってきている。頼むからあくまで君たちは護衛される側なんだから、大人しくして置いてくれ。
「それでは行きましょうか、皆さんもしっかり勉強になる所が多いので、学べる所は学びましょうね?」
「ブッ⁉」
歩きだしたオーレルカ先生に、ダルガイア先生についていくが、その一瞬で気が散ってしまった。
「ダルガイア先生って、後ろTバックだったのね……私達が大人に成ったら見てみる?」
「エリーゼ、余りからかわないでくれ……。ただでさえこの先に親戚になる人が居るのに、頭をこれ以上使いたく無い」
「でも、『見ない』とは、言わないのね?」
「……ノーコメントで」
そりゃあ、俺だって男だからね。
年頃になれば、見たい。
とはいえ、大々的に云うものでもないので、話を切った。
教室から移動を行い、訓練場の前を通り抜けた先にある大きな門の前に並ぶと、オーレルカ先生は魔力を放出し始め、直ぐに門の中に魔術陣が展開され景色が変わっていった。
登録された魔力に反応するタイプの魔導具なのだろうか?
「この先にダンジョンの入口があります。皆さん行きますよ」
「隊列を乱すなよ! ルークから護衛役の組は最後に入れ!!」
「「「はーい」」」
どうやら、俺はアーサー達と行動する事が決定されている様だ。
「貴方は今回護衛される側です……と言うよりも、暴走させない様に監視役ですね。王族の方々は、自由過ぎですから、貴方が抑えて下さい」
オーレルカ先生は、後ろの組を見ながら、俺にそう告げた。
ストッパーになれと言われれば仕方無い。
一応だけど武器の携帯が許されている授業だからね、可能な限り護衛でもストッパーでも行いましょう。
覚悟を決めたオレは、魔術陣に足を踏み入れたのだった。




