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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-10 国賊排除と学院生活の始まり
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雲水先生の得物

「その歳で、切り替えが早いのは素晴らしい。隙も誘い込みを含めたものなら、上出来でしょう━━さあ、先ずは一太刀来なさい!」


 雲水先生の表情は、その一言を放った後、刀の軌道を読む様にしながらも、その場全体の流れを視ている様に感じられる程の圧が有った。


 中段の構え(水の構え)から、居合いの型に変え威圧を放つ。

 だが、待つのではなく攻める――身体強化を重ね、【空脚】のスキルで加速した突撃。


「刀を抜かずにどうするつもりですか? まさかそのまま体当たりとか言いませんよねぇ?」

「━━……シッ!!」


 突撃の速度を保ちつつ、駆け抜ける様に雲水先生の横を走り抜ける様に見せ掛ける。

 狙い刀を抜くのは一瞬。駆け抜ける瞬間に鎌の持ち手か刃先、手の甲のどちらか当てる事と結果として鎌を落とす事を目的にした一撃。


 鈍い金属音が鳴り、手応えは確かに有った。

 しかし駆け抜けた斬った時に、俺は間違いを犯していた。

 走り抜けた先から確認する。

 ……鎌は確かに落ちていた。━━左手に持つ()()()()


「某も長い事他人の技を見てきたが、居合いの型をその様な使い方で見たのは初めてだ」

「その割に、しっかり対応してるじゃ無いですか」

「一応、某の国のモノですからね。後もう少し反応が遅れていたら、鎌は飛んでたな」


 長柄の物だから、特に警戒しなかった油断が招いた結果だな。


「先生、口調が変わってますよ?」

「おっと、失礼。些か武芸者の血が疼きかけましたかね? その刀もかなりの業物と見受けました。背が伸びれば、今よりもまだ打ち込みが強くなるでしょうから、貴方にはその刀は適しているようです」

「まぁ、スキルはあくまでも『補助的な物』だと考えてますからね。日々の積み重ねは大事です」

「スキルに振り回される子供は良く見てきましたが、スキルを補助として見ている子供を見るのは、初めてですね」

「父様からの教えです。『魔術や剣術は基礎を出来ないまま扱えば、いつか取り返しのつかない事になる事も在るから、スキルレベルに頼るのではなく、自身も強くなる努力をしなさい』って」


 互いに武器を構えているが、まだ納める様子は無い。

 寧ろ、『ここからが本番』と云わんばかりの魔力が、周囲に渦巻き始めていた。


「成る程、良い父ということですか。であれば、次は某の一撃を受けて貰いましょう。ルーク君には、手加減を少しだけ緩めますよ」


 雲水先生は、魔力を武器全体に流して攻撃の準備を始めるが、鎌の攻撃がどういう軌道になるのか予測が出来ない。


「余所見はいけませんねぇ? 油断大敵ですよ」


 ふと声が聞こえたその瞬間、いつの間にか雲水先生の姿は消え、魔力も感じなく成っていた。

 いや、一応の魔力は漂っているが、一瞬しか感じられないというのが正解かもしれないが。


「意識の外側、相手の隙を潜り抜ける。故に姿を見れば、既に其処には何も無い。某は()()()()()()()()()()()()()()()


 言葉と共に鎖が刀に巻き付いた。


「さて、捕らえた後は刀を落とすだけですが……鎖の方が動きませんね?」

「先生も1つ勘違いをしてますね? あくまで刀は攻撃の手段ですよ」


 刀の刃先を地に差し、鎖の先に立つ雲水先生に駆け寄る。

 伸びきった鎖の先には、鎌の柄が握られているだけだ。俺は鏡花水月の鞘を持ち、雲水先生の喉元に突き付けた。


「これで決まりですかね?」

「鞘を使う者と、体術を使う者がいたが……ふむ、合格です。ただひとつだけ、鎖を巻き付いた刀を直ぐに手放したのは何故ですか?」

「刀はあくまで道具。拘るのは当然ですけど、それで死んだら意味無いですから」


 天照様から貰ったとはいえ、刀で守るならいざ知らず、刀を守るのは違うと思っている。


「其では総評ですが、貴方は他の生徒よりも、対人戦闘の質が少しだけ高いですね。今の鞘当ては直線過ぎでした」

「そうですね、魔術が使えるのなら色々出来たんですけどね?」


 今回の場合、攻撃魔術は禁止となっているから、身体強化やスキルを使い工夫してみた。

 もし、実戦で命を扱うならば鎖を掴んで【スタンボルト】を大出力で流す。若しくは、姿が消えた段階で、範囲内に【吹雪の大地(ブリザードアルバ)】を放つ程度で終わらせる。


「さぁ、次の生徒ですね。終わった生徒は、武器の手入れをしっかりとしてくださいね?」


 雲水先生の試験を終えたが、最後の姿を消したのは、スキルだろうか?

 ルーチェもスキルに姿を消すモノを持っているが、あれは魔力反応も消していた。


 雲水先生のは、魔力反応を一時的に消す物なのか、それとも【潜伏マスター】のスキルを習得しているのだろうか?


 潜伏マスター自体が複合スキルな為、どのスキルを使っているのか判りにくい特性を持っているので、習得しているのならと思い、次の試験で【鑑定】を使って見ることにした。


「ローレン君ですね? 武器は槍ですか……先ずは君からです。どうぞ」

「……」


 ローレン君は、無口というか余り話す事が少ない少年で、見た目はどちらかと云えば中性的ではあるが、間違いなく男子だ。

 一度話をしたことがあるが、他人と関わる事を余り好まない様で、強者こそが絶対的だと言っていた。


 彼もどうやら特異な産まれらしく、先祖返りの影響で、かなり魔力量が高い。

 彼の得物も、魔槍と呼ばれる物だった。


 実際の戦闘力はどうなのか分からないが、魔槍は中級の氷属性と表示された為、それなりのスキルは持ち合わせているのは予測がつく。

 既にローレン君の槍先には、かなりの魔力が重ねられていたが、雲水先生はただ鎖鎌を構えているだけだった。


「━━ッ!!」


 溜められた魔力が、放出されて槍の穂が形を変えた。素槍の穂は雪の結晶の様な形となり、突く以外の攻撃にも転用出来そうな得物だ。


 しかし、『━━その程度ですか? 貴方は魔槍を理解出来ていない様だ』雲水先生は小さな声でそう呟いた様に俺からは見えた。

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