エステングラートの情報
読んだ資料から判明したのは、エステングラートを治める現ガヴェルテス伯爵の愚行を記した記録だった。
海産物の加工や装飾品の販売は、エステングラートの収益の大部分を占めている。
だが、最近のエステングラート領の収益は乱れていると資料に書いてあった。
しかも、ガヴェルテス伯爵はその最中にもかかわらず、高価な宝飾品や魔獣を買い、奴隷を買っては使い潰して散財しているという内容付でだ。
流石に経済基盤が損なわれる程ではないが、ある時期を境に、急激に収益が下がり始めているのだが、そのまま同じ程度に回復しているのが気になったので、他の資料と照らし合わせていく。
すると当主が交代して三年目迄は、明らかに上昇傾向にあったが、その後三年目以降から落ち始め、同じ高さまでその後に回復。そして、再下降と繰返しになっていた。
気になったのは、その期間が周期じみている様に思えたからだ。
「怪しいとすれば、この辺りか?」
その時期の前年に、エステングラート近郊のダンジョンにて、他の周辺貴族との大規模な合同掃討作戦が実施されているのだが、参加をしていた他の周辺貴族を含めた大半の者が同年内に大病を患い死亡、若しくは不慮の事故に遇って家督を次代に譲っていると、別の資料に記載されていた。そのタイミングが明らかに出来すぎていたのも引っかかる。
「カルロさん、多分見付からない可能性が高いんですけど、お願い出来ますか?」
「ルーク様、私は貴方の配下と成った身だ。名を呼び捨て、命令を下せば如何様にも動くつもりだ」
「余り歳上の人を呼び捨てにはしたくないんだけどなぁ」
「しかし、ベリト殿達は呼び捨てではないか」
「三騎士は魔族化させた関係で契約したみたいなものだから……分かった。カルロにはエステングラート近郊のダンジョンに、掃討作戦で参加をした貴族が元ガヴェルテス伯爵と現ガヴェルテス伯爵にどう繋がって居たのか、ダンジョン周辺に魔物氾濫か、促進系の魔術が刻印されてないかを調べてくれ。後は呪い関係で呪物がないかも頼む」
「御意」
まぁダンジョン周辺に魔術が仕込まれて居たとすれば、人為的な物として判断出来る材料になる。
問題は『有る』と仮定して、誰が仕込んだかだろう。
現ガヴェルテス伯爵の所持するスキルに、呪物を扱うような物は無く、魔獣を従えても居ない事は簡単に調べられた。
開拓を行う人員の確保も、無理難題を指示されて従う者は最早居ない有り様だと資料に記載されている。
━━しかし、証拠が無い。明らかに黒に近い灰色だ。
レイさんに報告するにしても、明らかにする証拠が無いのでは意味を為さない。
「後の問題はクラーケンだよなぁ……」
エステングラート領のクラーケン被害と書いてある通り、エステングラートの海域にクラーケンが出没しており、海域を通る商船等が沈没させられる被害が出ていた。
クラーケンの出没時期も回復と下降の周期と一致していれば、何らかの使役をしたのかと思えるのだが、これに関しては規則性が無い。
要するに、人為的なのか自然発生なのかわかっていない状態であり、エステングラートの問題ではあるが、今のところ関係性は不明だ。
実際に現地に行き確かめなければ判断が出来ない。
とはいえ、帝国の問題である以上、義理の父親となる可能性が高いレイさんが動かなくても良い用に手配してもバチは当たらないだろう。
……日緋色金の事も頼んでしまった以上、恩返しを込めて行動しておくのも悪くない筈だ。
許可を取ってから現地に向かう様にしておこうと考え、俺は掴んだ情報をレイさん宛に手紙を飛ばした。
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「フム、中々……おい、ハーガン」
「━━此所に」
「急ぎエステングラートに迎え、それでルークの手助けをしてやれ。エステングラートの問題を片付けてくれるらしい。神童と呼ばれているがまだ子供だ。随分と優秀な配下が居る様だが、お前の方が詳しいだろう?」
「はい、少なくとも裏については」
「よし、取り敢えずだが流れは決まった。この辺りで残念伯には退場してもらって、奴の娘は保護って所だな」
「他の妻子はどうなさいますか?」
「時と場合による。━━黒騎士ハーガン・クロム・ブラッドレイ。『ノートリアス』との繋がっている可能性が高いガヴェルティス伯の捕縛、若しくは処刑の許可を与える……よいな?」
「第三位黒騎士ハーガン、確かに拝命致しました。陛下と祖国の為、民の為に!」
ドーラン皇帝のレイと、影の様に黒い騎士鎧を纏う男は、話が纏まった瞬間には互いの仕事を始めていた。
「不明な金の動きが当たりなら、少なくともあと数家は首を跳ねる事に成りそうだな……」
「陛下の予感は、悪い方には殆ど当たりますからね」
「ハーガン、テメェなぁ。まだ恨んでんのかよ」
「いえ、従兄の陛下が余計なことを言ってくれたなぁとか、エステングラートに行ったら、嫁と産まれたばかりの子供とまた離れて暮らす事になるなぁとは思っていませんよ。えぇ……仕方ありません姫様との約束もありますから。いざの時は最低限の処理で済ませます」
ハーガンの手には、皇室関係者以外が持てない黒龍を模した印が刻み込まれた漆黒のショートソードが二振り握られていた。
「恐らくクラーケンは人為的な物だと思うが、断定出来る証拠が無い。可能ならその証拠を見付けれれば御の字だな」
「可能な限り手は尽くしますが、使役されているとすれば相手側に、かなり厄介な人物が居る事になるでしょうね」
「水棲魔獣を操るとなると、腕は確かだろうからな」
「エステングラートの潜入捜査、手当てを期待してますよ。陛下?」
「わかっている。一月、一月分の休みを与えて皇帝用の別荘を貸してやる。……それでどうだ?」
「……場所は?」
「アマツクニとの境にある温泉街だ。俺はルークに、この事を書くから頼んだぞ?」
「さぁ陛下、仕事を終えてきますから、準備お願いしますね?」
嬉々としてエステングラートにハーガンは向かって行った。
「本当に面白い奴だ。休みは適当な所で与えてやるとして、次はどうしてやろうか……くくっ!」
そう呟きながら、ルーク宛の手紙を書く姿を見た他の騎士や、従者達はこぞってこう云った。『陛下はまたハーガン様を玩具にしている』と━━━。




