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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-10 国賊排除と学院生活の始まり
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レイさんへのお願い

「漸く来たか、ガイル? ルーク君と一緒とは思わなかったが、まぁ良い」

「ガヴェルテス伯爵の件で纏めたものを用意致しました。霊獣は暴れた後、現在ルーク君の護衛騎士のゴームと呼ばれる者が止めに入り、その過程で懐かれた為そちらに委せています」

「献上品として買うのは構わぬが、それで他国に迷惑をかけては話にならん。ガヴェルテスの馬鹿伯爵には相応の罰を与え、修繕に関しても材料と費用は此方で対応する。これはその内容を書面化したものだ」

「では父にその旨を伝えます。今回の霊獣は洗脳状態で連れていた様で、拘束用の首輪も檻に入れて運ぶこともなかった様ですから、その段階で安全基準を無視したと見なし、中度の労働刑を執行した後釈放とします。帝国に引き渡しはどうしますか?」

「どう扱っても良いのなら、此方で鉱山開拓の人員として引き渡して貰っても構わない。国家反逆罪として縛り付けて扱うがな……ソドムのじい様にまた貸しを作っちまったぜ」


 転移門を抜け、執務室に通されたと思えば、驚くほど早く先程の一件が片付けられて行く。

 そして、更に驚くのがレイさんのマルチタスクぶりだった。ダムシアンの件を話しながら書面化しつつ、机に重ねられた全く違う複数の書類に対して分別作業をしているのだ。……とてつもない速度で。


「よし、こんなものだな……」

「相変わらず恐ろしい量の書類ですね? レイさん寝てますか?」

「三分の二は、つまらんおべっか連ねた物だがな。残りは要望書だ。……おべっか使った奴等の所から来てるのが大半だが、大体の嘘はこれで見抜ける」

「レイさん凄いですね。どうやって見分けてるんですか?」


 流石に机に重ねられたこの量から嘘を見抜くのは容易ではないだろうと思いたい。

 だが、興味深いのでつい聞いてみたくなった。

 するとレイさんはニッコリと笑みを浮かべ、卓上の中から二枚の用紙を渡してきた。


「そうだな……こいつはもう終わった案件だから見せても良いか、ほら良く見てみると分かるぜ」


 渡された紙は、貴族の書いたものと思われる今年の収穫量の報告書。

 もうひとつは、同じ貴族が治めている領地からの陳情。


 内容を読み進めていくと、貴族側の方は『問題なく例年通りの収穫量を御約束致します』と書いているのに対して、領地からの陳情は『今年の冷害で収穫量は自分達が生活出来るか分からない程しかなく、それに対して何時もと変わらない量取られているので、どうにかして欲しい』と云う内容と収穫量の報告書だった。


「さぁ、どっちが正しい事を言っているか分かるか? ルーク君」


 内容だけ見れば、どちらの表も報告書としての矛盾は生じていない。だが、レイさんはどちらかが嘘つきだと言っていた。


 領民の文面だけ見れば、貴族側が私腹を肥やして領民が苦しめられていると書いてあるような文章だが、どちらが間違いが全く分からない。


「すみません。分からないです」

「フッ……。そりゃそうか、じゃあヒントだ。そうだな……二つの紙を良く見てみろ」

「あぁ、成る程。これは分かりやすいか」

「だろう?」


 良く見ながら答えを探しにかかるが、どうやらガイルさんもわかったらしい。

 二つを見比べて、違う所として見つけれたのは、文字のインクが滲んでいるか筆記体が違う位だが、俺も文字を書くとたまに少しだけ滲みが出ることがあるし、文字だって他人の書いたものなのだから、違うに決まっている。


「もしかして、領民の紙の方が品質が良い?」

「……何故そう思う?」

「貴族の方は文字の滲みが少ないんですけど、少しだけ滲みが強い箇所があるんです。でも、領民の方は、わざと滲ませた書き方をしてる様に見える文字かなって思うのが幾つかあるんです。だから領民の方が嘘なのかなって思いました」

「まぁ、半分正解だ。実際の所、答えは両方が嘘をついてるんだよ。貴族の方は報告書の用紙として規定されている物だが、領民達の方は、商人達が用いている借用書に使う質の良い紙だ」


 何とか答えは出せたがまさか両方が嘘をついているとは思わなかった。


「……で、何故両方が嘘をついているかだが、実際に冷害は有ったし収穫自体減るのは判りきった事だ。食料が少なくなるのを見越して先に量を減らすと勧告し、この城の貯蔵庫から作物や薬品を必要な所に送り出した。ただ、貴族ってのは厄介な生き物でな、時として見栄を張る事を良しとする馬鹿が出てくる」


 確かに、出来ない事を出来ますと云うのは見栄だろう。それで確保出来れば、問題無いだろうけど、失敗したらとんでもない。俺なら言えない。


「まぁ、領主の搾取は例年通りの量を持って行くからと云えば領民は本来なら困る所だが、量を減らした後に、自然災害だからと国から援助が出る。そしたら増えた分も搾取の対象と見なされる可能性もある。すると、どうなると思う?」

「どうにかして懐に仕舞いたくなる者も出てくる……ですか?」

「そうだ。更に売る相手も限られるから、キャラバンや流転商人に売るしか無い訳だが、その前に物が無ければ話にならない。そこで帝国に陳情の形として支援を求めた。数量からして怪しいと思ったから、俺は罠を入れて送った訳だが、商人の荷物確認の際にバレたってワケだ。因みに、収穫量を比べると、微妙にだが領民の方が数量が多いんで、領主が若干の引き抜きをしていた証拠として使った物だ」


「領主の方や領民の人はどうなったんですか?」

「領主は男爵から爵位無し、領民は帝国に対して虚偽の報告を行ったとして、関係者のみを軽度の鉱山労働二週間程度にしておいた」

「へぇ、レイさんにしては優しいね?」

「そうか? フィンブル鉱山に二週間で優しいなら、もう少し長くすれば良かったか」

「……それは優しく無いですね。送られた領民死んでませんか?」

「これでも考えたんだぜ? ソフィアがもう少し穏やかにって言うからさぁ……さてと、それじゃルーク君の話を進めるか?」


 そう、俺はレイさんに頼み事をするために、此処に来ている。

 ━━緋緋色金の採掘許可を得るために。

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