ダムシアン宰相との面会
【獣公国ダムシアン オイリッヒ宮殿 執務室】
「こうして面と向かって話すのは初めてだな。私はダムシアン宰相を務めるコンラート・フォン・アマディウス。こっちは補佐兼妻のマリーベルだ」
「マリーベル・フォン・アマディウスです。よろしくお願いしますね」
「見ての通り堅物で愛想の無いヤツじゃが、悪いヤツではない。儂もリーフィアもこやつに何度叱られたか分からんわい。マリーベルは優秀な補佐官でな、コンラートの幼なじみでもあるんじゃよ」
屋敷から庭先に戻り、ルーチェ達は、ソドムさんが呼んだ執事に連れられ別室に、俺は宮殿名と向かう場所の説明を受けた後、宰相達と面会する事になった。
コンラートさんは、ルーチェと同じ猫人族の混合型亜人の男性。
上半身が猫のもので、左瞼に傷跡があるが見えていない訳ではなさそうだ。その瞳は俺の顔をしっかりと捉えていた。
マリーベルさんは、人型亜人の女性で、雪のように白い髪の毛がとても綺麗な人だ。
「私の姪とカルロを連れて来たと聞いて馳せ参じた。ソドム様やリーフィア様から貴殿の話は聞いていたが……」
「まぁ慌てるで無いコンラートよ」
「失礼致します。ソドム様、ドーハでございます」
「構わぬ開けよ」
後ろの扉がノックされ、扉が開かれるとリーフィアの執事をしている老いた犬族のドーハさんとカルロさん、ルーチェが居た。
「お久しぶりでございます。ソドム様、コンラート様……カルロでございます」
「久しいな、カルロよ。長きに渡る逃亡生活、御苦労であった。私の姉が逃げれたのも、お前無くしては出来なかった事だろう」
「有り難きお言葉でございます」
「……」
「その隣にいるのが、姪のルーチェだな?」
「これこれ、コンラートよ。そう怖い顔をするでない」
カルロさんは、元々ソドムさんの配下だからだろう、堂々と対応しているが、ルーチェは何も話す気が無いのか、時折こちらを見ては帰りたそうな顔をしていた。
「やはり姉さんに良く似ている。ルーチェ……よく生きていてくれた。ありがとう……ありがとう!!」
「えっと……あの……」
いきなりの事で、誰もが動けなかった。
余りにも早い速度で、コンラートさんはルーチェを抱きしめ泣いていた。ルーチェも何が起きたのか理解できていない様で、目が点になって固まっているのは無理もないだろう。
━━だが、流石は暗殺者。直ぐに落ち着いたと思えば、姿が消えた。
「ぬっ!?」
「何だ、この変態は!? アタシに気軽に触れるな!!」
「アナタ!! いきなり何するの!? うれしいのは分かるけど、それは駄目でしょ」
ぐっと腕を掴まれた感覚と同時に、マリーベルさんからの非難がコンラートさんを襲う。
「すまない……少々取り乱した」
「あはは……」
クールな御仁かと思ったが、どうやら熱い所もお持ちのようだ。
「━━ルーチェ、爪が食い込んで腕が痛い。コンラートさんも睨んでるから、そろそろ離して欲しいかなぁ」
「なら物陰に控える。変態相手に付き合う気はない」
「あらあら、コンラートのせいよ? ルーチェちゃん、こっちにいらっしゃいな?」
「こっから動かない。絶対に嫌!」
姿を隠しても俺の袖が無作為に動くうえに、声も聞こえるので、既に居場所はバレている。
それで良いのか暗殺者? とか言われそうだが。
「ともかく、これで漸く姉さんの娘を保護出来る。ルーチェ・フォン・アマディウス嬢か、悪くないな。カルロも影の長に就任するのだろう?」
「いえ……私は、ダムシアンに戻る事はありません」
「コンラート、この二人はルーク君の下で働く事になっておるのじゃ」
「ソドムさん、それは私からお話します」
それから俺は二人の事を隠すことなく説明していった。━━暗殺の件も含めて全てを。
「未遂とはいえ、四ヵ国からの開拓任命者を暗殺したとなれば、確かにその場で死罪人として裁かれても仕方無い。ダムシアンに戻れぬのも当然か……」
「ルーチェちゃんも、その年で犯罪奴隷かぁ。鉱山に行かなくて良かったけど、二人とも厳しいわねぇ」
「とはいえ、無罪放免ともいかん。が、こうして襲われたルーク君が赦した上で雇うと言われれば、儂らがそこに文句を言うわけにもいかんのでな……ちと常識外れな所はあるが、良識ある子じゃ、問題なかろう」
多少無茶な事はしているが、そこまで常識外れな行動をしているつもりはないのだが?
「魔術、戦闘技術どれをとっても同年代の子供より抜きん出ていますが、それもカミナと呼ばれる女性の教えであれば当然でしょう。あれほどの腕を持ちながら、未だSランクに昇格しないのも勿体無い話ですねぇ」
「まぁ、ルーク君の側近でもあるからのぅ、何時でも駆け付ける事が出来る様にしておるのじゃろうて」
カミナの性格から考えて、ただ単に試験を受けるのが面倒なだけだと思うのだが、言わない方が良さそうだ。
「さて、コンラートとの面会も済んだ事じゃし、そろそろレイの所に向かうんじゃろ?」
「そうですね、その前にソドムさん宛にジークリッドさんから預かりものがありますので、どうぞ」
預かった封書をソドムさんに渡すと、そのまま流し読みをし「後で増やすか……」とぼそり呟いていた。
少しだけカルロさんと話がしたいと言われたので、カルロさんを残しルーチェと共にドーランに向かうことになったのだが、「ルーク君、転移の準備が出来たから一緒に行くよ。こっちに来てくれ」とガイルさんが声をかけてきたので、それに甘える事にした。
移動をしながら転移の準備とは? と聞こうとした矢先、巨大な門が設置された部屋に通された。
「ここだよ。ダムシアンとドーランを結ぶ設置型の転移門だ。作れる人が殆ど居ないから数が少ないんだけどね。因みに、双方の許可を出さないと使えない様に細工されてるから、普段は使えないからね」
「へぇー、その細工技術は難しいんですか?」
「そうでもないよ、それなりに技術は要るけど、細工師のレベルが上がれば出来るよ……よし、起動出来た」
ガイルさんの作業が終わったらしいが、何が変わったのか? 変化の確認が出来ない。
「細工は技術があれば出来るけど、使われた魔術式は古代式の物だから、見た目の変化は殆ど無いんだ」
ガイルさんは転移門のそばに立つとそのまま足をゲートの方へ踏み出そうとしたのだが。
「おい、遊んでないで早く来い」
レイさんの声が、壁の向こうから聞こえ、顔だけが門から出て来ていた。




