フラクタルの試練
気がつけば1年経ちました。
文才のない身ではございますが、ブックマークや評価をしてくださいました皆様ありがとうございます。
遅筆な為、中々投稿出来ない日も有りますが、今後とも楽しんで頂けましたら幸いです。
森を抜けると、眼前に現れたのは、正に1つの都市と呼んでも過言ではない綺麗な街並みだった。
【闇護りの集落 フラクタル】当代の闇護りであるメアが管理する集落だ。
メアから聞いていた話では、元はアーカムさんの知識と、迫害された人達が協力して完成させた集落らしく、所々に歴史を感じる装飾が施されていた。
雰囲気としては、王都の商業地区をもう少し大きくし、人が住みやすい環境を整えた様な場所に感じる。
「フラクタルにようこそ、御待ちしておりました。私はグロウと申します。代々闇護りのサポートをしております、はい。旦那様と奥様が屋敷でルーク様が来るのを楽しみにしておられます。此方にどうぞ」
突如現れたグロウと名乗る人物は、転移陣を発生させる。
どうやらアーカムさんやメアのサポートをしているらしいが、胡散臭いピエロの様な仮面と服装は怪し過ぎる!!
促されるまま進むのはどうかと思っていると、転移先から1羽の蝙蝠が飛び出してきた。
『ルーク、メアは居ないのか? 娘は何処に居る!!』
蝙蝠の口から出た言葉は、正しくアーカムさんの声だった。
「メアさんは私の屋敷で待機しています。此方に着いた段階で、一度許可を得てから迎えに行こうかと……」
『よし、一時的に許可をするから……早くメアに、メアに会わせてくれぇ!!』
今となっては、俺の婚約者(許可待ち)となったメアだが、自ら転移の霧に飛び込んだ筈なのに、俺が誘拐犯の様に言われている風に聞こえるのは何故だろうか?
『貴方、仮にも吸血鬼の王を名乗るのでしたら、みっともない姿を晒すのは止しなさいな……初めまして、ルーク君。私はメアの母親のマリーナ・シュヴァリエ。また後で会いましょうね?』
言うだけ言って蝙蝠は転移陣に消えていく。
残されたのはグロウさんと俺とカミナの三人だけだった。
「メアお嬢様のお姿が御座いませんでした理由はなんとなく察しました。 はい、旦那様があの様な状態ですからねぇ。メアお嬢様のお迎えをお頼みしても宜しいでしょうか? 現在、往復が可能な状態にあるようですので」
「みたいですね? それでは一度失礼して、再度ここに転移をしますけど、大丈夫ですか?」
「構いません。 それでは私も一度、失礼致します」
グロウさんも転移陣で何処かに移動をする様だ。
俺は俺で、メアの迎えを行うために転移を行う。
カミナは獣人形態で、何やら探している様だが、フラクタルに着いたら自由行動をする事は知っていたから問題ない。
「メア、着いたよ」
「……久しぶりの集落、変わりはない……みたい?」
周囲の確認をしているが、その漆黒のドレスに身を包む姿は、初めて見た時と同じデザインのものだった。どうやら、メア曰く「闇護りの名に合わせて、皆が作ってくれたドレス」らしい。
「「おぉ、姫様。姫様じゃ!!」」
グロウさんと別れた入り口の広場に戻った途端、メアの姿を見た老齢の魔術師や老婆達が集まりだした。
「よくぞ、お戻りになられました。姫様が結界の外へ出ていったと聞いたときには、一同肝が冷えましたぞ」
「おやおや、メア様のお隣に居るのは……あぁ、えぇ人が見つかったんじゃねぇ。御目出度いのぉ。天命を迎える前にメア様のえぇ人が見れたわぇ」
「んっ……ありがとう。好きな人、出来ました」
メアを孫の様に可愛がっている光景は、とてもメアが好かれている事の証明でもあった。
しかし、同時に疑問に思うことがある。
何処にも子供の姿が見当たらないのだ。
「メアお嬢様の回りには、同世代の者は居ません。ここでは殆どの者が、子を成す事が出来ても、その子供が魔素の濃さが原因で、身体に異常をきたす者が多いのです」
「それでは今居る方々は?」
「あの者達は、異常を持ちながらも歳を重ねて生きてきた者達です。そして、本来ならば救われるべき者達でもあります」
そう語るグロウさんの表情は、仮面のままで見えないのだが、声が震えている。
仮面の下にどの様な顔を隠しているのかは、わからない。
ただ、俺に出来る事があるのなら、迷わず行おうと思える光景だった。
「さぁ、メア様のご帰還ですが、アーカム様達も御待ちなのです。皆様、これくらいで御願いしますね」
「「「おぉ」」」
グロウさんの言葉を聞いた人達が、ゆっくりとではあるが二列に別れていく。
俺とメアは、グロウさんの転移陣を通り抜け、アーカムさん達の待つ屋敷にたどり着いた。
「さて、久しいな? ルーク」
「お久しぶりですアーカムさん。そちらのお綺麗な方が、メアさんのお母様ですね? 私はルーク・フォン・アマルガムと申します」
「あらあら、まぁまぁ」
「そうだ。 私の妻、マリーだ」
初めて会ったメアの母親、マリーナさんの容姿は、とても若い。
大人モードのメアを、もう少し幼くした様な見た目をしていたので、とても初めて会った気がしないが……。
「あらあら、メアも随分と素敵な指輪をしているのね?」
「……あっ」
「……事後報告となり申し訳ありません。メアさんのバディーとなりました。つきましては、メアさんを婚約者の一人として……」
「あぁ、その件は大丈夫よ。ね、アナタ?」
「……ソウダネ、シカタナイカラネ」
マリーナさんの微笑み対して、アーカムさんの目は死んでいた。
どうやら、マリーナさんの方がアーカムさんより強いのだろう。
異世界でも女性が強いのはどこも変わらないようだ。
「……アー、フラクタルでの試練の話をしようか?」
「簡単なモノではないんでしょう?」
「あぁ、ルークに与える試練は、この魔素を永久的に安定させる事だ。勿論、原因が解っていない訳ではない。今日は、とある方が来ていらっしゃるので、紹介させて頂きます」
アーカムさんの語尾が徐々に弱くなっていくのだが、俺は笑えなかった。
明らかに異質な魔力と神力を背中に感じると同時に、その場から身を翻し離れる。
「ふむ、この程度なら察知が出来るか?」
俺が立っていた場所に、一人のスーツ姿の男性が居た。
紫色の鋭い眼光が、俺を射ぬく様に突き刺さる。
「我の名はシャガール。六龍が一柱成り、オルクスの魔力を継承せし者よ、汝の力を見せよ」
魔力の籠められた声は、俺達の動きを押さえつける程の圧力があった。




