黒曜達の登録
「全く喧しい事この上ない。時の魔神の力を持ってすれば、時を戻すなど他愛もないと知れ!!」
ノルンは瞬く様な桃色の光とともに現れ、さも当然の事だと一喝しながら、俺の頭の上に座る。
三人の視線は当然ながら、ノルンの方へ向くのだが、その表情は信じられないモノを見たように驚いていた。
「この小さいのが魔神だって!?」
「意味が分からないでしょ? でも本物だよ。カミナさんと同じ位に怖かった」
「私も見ていましたけど、余りにも強すぎる魔力が狭い場所に集中したので、話すことも動く事も出来ませんでした」
どうやら時が止まった様に動かなかった二人は、ノルンの魔力に圧倒されていた様だ。
「ふん、汝等に話したところで、理解出来るとは思えぬが、この不完全な姿とはいえ、命を助けられた故に契約をしたに過ぎぬ。そも、契約をしても扱える魔術に適性がなければ、無駄な事にしかならん。この小僧には時空間魔術の適性が有ったからこそ、契約を結んだのだ」
「はぁぁ、……この件は他の冒険者連中には秘匿しておく方が良さそうだな」
「魔神の契約者なんて、神話の中でしかないと思ってました」
俺が同じ立場なら同じ様に思うが、実際に俺自身、契約を結んだのも偶然が重なっただけだしなぁ。
「取り敢えず、ルーク。今日は何か用事で来たんだろ? 魔神の件は何とかしておくから、用事を済ませて帰れ。俺の年齢が若返りをしたのも、恐らく呪いの魔導具が暴走した結果だろうしな」
どうやら、ドレアムさん自体どう収拾をつけたものかと考えてる様だ。
「今日は契約した従魔の登録に来ました。 後は、特例でBランクの試験が受けれる様になったので、それも合わせて」
「試験の事は聞いてる。ワイバーンは確保してあるがまだ届いて無いから、整ったら連絡をする。従魔登録するヤツのサイズはどんぐらいだ? 建物に入れないサイズは訓練場で見るからな」
「じゃあ訓練場で喚びます」
黒曜は大きさを変えれば問題ない、ヴォーパルはサイズ的に無理だろう。
以前行った訓練場で喚び出せば、多少狭いだろうが問題ない筈だと思いたい。
「デカイやつか? また何を呼び出すやら?」
「まぁ、ちょっと特殊なんですけどね」
語るよりも見てもらう方が分かりやすいので、俺達は訓練場に向かう。
訓練場に到着すると、ルルナさんが結界と他の魔導具を起動し始め、ドレアムさんも測定器の用意を行いハンドサインで、準備が整ったと合図を出している。
「防音結界と不可視の結界は起動してますから、ルーク君は契約した子を喚び出してください」
「小さいのと大きいのどちらが先の方が良いですか?」
「あー、取り敢えず小さいのから喚んでくれ」
「わかりました。『招来 黒曜』」
黒曜を喚ぶための魔力を召喚陣に通し、名を告げる。
鵺となった黒曜は、札での召喚よりベリト達と同じ様に、触媒の一部を装飾品に混ぜて創った物を使う方法に変えた。
一回喚ぶのに血を出すのも大変だし、札も作るのが面倒になってきたのもあるんだけどね。
「また見たことねぇ魔獣だな。狼にしては大きいが、竜鱗と翼に荊の鬣。キメラか」
「己の名は黒曜、マスターであるルーク様の忠実な僕」
「知能も高い……基礎の魔獣は飛竜種か魔狼種? 混ぜたと思われる残りの魔獣は判別できませんね」
「どれも違う。今の身体はブラックドッグの特殊個体、そこに竜骨とその魔力で作られた魔結晶を重ね合わせ、荊花女王の魔核と他の魔物や魔獣の素材、ミスリル等のマスターから授かった魔鉱石を骨や爪等に複合している」
黒曜は見た目からすれば、大型狼に竜の翼と鱗が生えた姿だが、現状の能力的には下級竜程度なら軽く屠る事が出来る。
「これはSS上位からSSS下位は最低でもありますね。余り見ないタイプのキメラですが」
「ならSSS付けとけ、どうせキメラに関しては錬金術やってりゃ誰もが一度は通るらしいからな。ルークが作成したと言われても違和感は、全くねぇ。問題が有るとすれば次だ……ルーク次のデカイのを喚び出せ!」
「━━『招来 ヴォーパル』」
魔術陣より姿を現すは、白銀の刃を角と尾の先に持つ灰色の翼竜。
緋色の瞳は、揺らめく炎の如く輝き、辺りを見回す。
「……斯様な場所に喚び出してどうしろと言うのだ?」
「ヴォーパル達の従魔登録をしに来たんだ。登録が終わったら元の場所に送るよ」
「なれば、早々に行え。この身体に成って力の制御が漸く出来始めた故な、この力は主に礼をせねばな」
「……冗談が過ぎるぜ。見たことねぇ魔獣が2体だと?」
「キメラと正体不明の翼竜。しかも、両方が人語を話してますねぇ……ギルマス、私、午後休で良いですか? 書類処理したくないんですけど」
ルルナさんが仕事を放棄しようとしているが、ドレアムさんは首根っこを掴んで動けない様だ。
ニアさんは、隅の方に移動して座り込んでいる。
「ルーク、この魔竜はどうした? 卵か?」
「契約をしましたよ」
「わかった。お前が俺達を過労死させようって事が良くわかった」
「人聞きの悪い事言わないでくださいませんか!?」
「うるせぇ。お前が連れてきたのは、毎度どこかがおかしいんだよ。書類処理するこっちの身にもなれってんだ!!」
まぁ、同じ立場なら俺でもそう思うかもしれない。
何せヴォーパルの能力値は、他の中級の素材を使ったとは言え、魔核に関しては荊花女王の魔核を(SSの方ではあるが)使用したのもあって異様な数値だった。
「全体の能力値オールSSてぇのはのは、流石は竜種と言えるな。ただ、これでまだ若い竜とは思わなかった」
ドレアムさんが渡してくれたヴォーパルのステータス用紙を確認したが、ヴォーパルもかなり若返りしていた様だ。
「ありがとうヴォーパル、元の場所に送るね」
「礼の品物を楽しみにしておけ、主よ」
約束通り、ヴォーパルを元の場所に送る瞬間、彼はニヤリと口角を上げ消えて行った。
「はぁ~。ルーク、ヴォーパルの能力表だ。持っていけ」
「あの、ドレアムさん。黒曜の分は無いんですか?」
受け取ったヴォーパルの能力表は、何とも頼もしい内容ではあったが、黒曜の能力表は出ていなかった。
【名前】ヴォーパル 【種族】魔竜ジャバウォック 従魔 幼竜
【体力】2,000,000/2,000,000
【魔力】1,900,000/1,900,000
【筋力】SS
【知力】SS
【器用】SS
【対魔力】SS
【スキル】
【オール・マジック】【ソードマスター】【毒無効】【石化の魔眼】【神速】【眷属化】
「基本的に、魔獣キマイラと魔法生物のキメラは別物だが、お前のはキメラだろう? その場合はルルナの解析と創ったヤツの能力でランクだけになる。何せ魔法生物は魔物や魔獣の素材で造られた別物だからな、登録だけはしてあるから安心して良いぞ。黒曜に首輪はしておけよ」
取り敢えず、最低限の準備が整った。
少しばかり気になる事はあるが、今更トラブル体質なのは変わらないだろうしな、何とかなるだろうと思うことにしよう。
俺は自分の屋敷へ転移で戻り、翌日に備えた。




