バルバドス伯爵とセレーナ伯爵
「訓練用の広場に、あれは竜馬用の馬小屋ね」
「中々良く整備されている。魔術を放つのにも適している広さだな……それでは後程」
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深紅のドレスを着ているのは、セレーナ伯爵。その隣にいる深碧のドレスを着ているのはベルヴェーラ子爵だ。
バルバドス伯爵が、セレーナ伯爵に歩み寄ると何か話している様だが、ここからでは聞き取れそうもない。
直ぐに別れた二人は、父様達の所に向かっている様で、こっちに来る気配は無かった。
そんな中、久しぶりの魔力を感じたと同時に、扉をノックする音が聞こえた。
「ルーク、居るかい?」
「カイン兄様、ルシアン兄さんもどうぞ」
扉を開くと、二人の兄達がそこにいた。
カイン兄様は少し髪を伸ばし、ルシアン兄さんは、少し筋肉が付いた様な気がするが、その笑顔に変わりがないのが嬉しく思える。
「久しぶりだね、ルークも元気そうで良かった」
「相変わらず、無茶苦茶してないだろうな? ルーク?」
「兄様達は心配し過ぎです。大丈夫だよ」
「そうか、……所でルーク、後ろのご令嬢達は……父様の言っていた?」
「はい、婚約者達です」
「って事は、あの時の? マジか?」
二人の顔は驚きの表情だったが、カイン兄様は気付いた様だ。人数が多い事に。
「初めまして、私達はルーク君の婚約者と成りました。ソフィア・ロードス・ドーランです以後お見知り置きくださいませ」
「リーフィア・ヴァン・ダムシアンですわ」
「エルザ・ウルムンド・レシアスです」
「エリーゼ・ル・ステンノと申します」
「……メア、メア・シュヴァリエ……です」
三人は、婚約者と成る前に兄様達とは会っているが、婚約者と成った後は会っていなかったから、まぁ仕方無いだろなと思っていたが、案の定固まっていた。
「婚約者が五人って、しかも王族……婿入りと言う事に?」
「いえ、どちらかといえば嫁入りですわ」
カイン兄様が漸く紡いだ言葉に、リーフィアが答えていたが、突如ルシアン兄さんが廊下の隅に体育座りを行い、床に〝の〟の字を書いていた。
「る、ルークに……ルークにも先を越された……」
「ルシアン兄さん……?」
「ルーク、済まないが、ルシアンは少しだな……」
カイン兄様は気まずそうな顔をしている為、ルシアン兄さんが何故こうなったのか予測が出来た。
「全く、ルシアンはそんなだから、振られるんですよ。カインやルーク君みたいに落ち着きなさいな?」
「アメリア義姉様」
「ルーク君お久しぶりね? 最後に会ったのが2年前くらいかしら?」
現れたアメリア義姉様は、ルシアン兄さんにトドメを刺しカイン兄様の隣に立つ。
「そうだった。これをどうぞ、お土産です」
丁度良いタイミングだったので、三人にそれぞれの贈り物を渡しておくことにした。
「これは?」
「魔力を増加しやすくする薬草を溶かしたジュースです。後は対魔力を高める装飾品で、お兄様と義姉様には、お揃いのペンダント」
「有り難う、ルーク君。ルシアンもこういった気遣いをした方が、モテるわよ?」
お土産を渡した所で、渚が部屋にやって来た。
「ご主人様、両伯爵様がお呼びです。広間に移動をお願い致します」
「分かった。渚、それじゃ行ってくるよ」
「後で俺達からも、お土産が有るからな!」
「分かった!!」
カイン兄様のお土産が気に成るが、バルバドス伯爵とセレーナ伯爵の待つ広間に向かう。
【広間】
「やぁ、ルーク君待っていたわ」
「……ルーク子爵、来たか」
ほぼ同時に、二人から声をかけられたが、どうも様子がおかしい?
「バルバドス伯爵様、セレーナ伯爵様。遅くなり申し訳ありません。何か御用でしょうか?」
「だから、公式以外ではセレーナお姉ちゃんで良いんだってばぁ」
「相変わらず、子供相手になると威厳の欠片もない」
「可愛い子供に、威厳とか無いわぁ、愛でるもので、怯えさせるものじゃないもの」
なんと言うか、お二方の相性は正反対過ぎて、悪過ぎる気がするのは、気のせいだろうか?
「話が進まんな……ルーク子爵、この度は無名の地を管理についての後見人として、バルバドス伯爵家とセレーナ伯爵家の両家が、補佐に着く事に成った。が、普通の開拓とは違い、軍ですら匙を投げた場所の開拓ともなれば、話が変わる」
「だからさぁ、バルバドス伯は顔が恐すぎですよ? ただでさえ厳つい顔立ちなんですから」
「フン、ショタコン伯には言われたく無いわ!!」
確かに、バルバドス伯爵の顔は厳ついが、訓練中の父様やダリウスよりは幾分マシな方だと思う。
カイン兄様に対して行っていた本気のシゴキは、鬼の形相が生温く感じるほどだったからね。
「恐い恐い、……開拓に関して、ジークリッド陛下から頼まれたのは、物資の支援とルーク君の成果を確認するのみと伝えられたわ」
「ウム、本来ならば、技術者や人の派遣等も後見人が、ある程度手伝う事になるのだがな? 恐らくそこまでの段階に無いものだから、と考えていたのだが」
「エルザ様の件で、ある程度の前提が崩れたのよね」
エルザが行方不明となった際に、森の中にいた訳でもないので、綺麗なまま戻ってきた。
勘の鋭い人間ならば魔術でどうにかしたのか、集落が存在する事に気付いてもおかしくはない。
「まぁ、集落が幾つか有ると考えて、問題はそこに住む者が友好的なのか、そうでないのか? って所と、都市化することに対してどう考えているのかって所なのよね」
「陛下は、ルーク子爵に任せれば、上手く行くとしか言われんのでな? ならば本人に聞いてみようではないかと言った次第だ」
「私はお土産を持ってきたわよ? ルーク君の為に、ベルヴェーラ子爵と役に立つ魔獣を捕まえてきたの!」
「土産物を用意して無いとは言っておらん」
一抱えする大きさの魔法鞄を従者から受け取るバルバドス伯爵と、ベルヴェーラ子爵から鍵を受け取り広間のテーブルに置くセレーナ伯爵。
「私の領内で採れる魔鉱石の塊だ」
「これは、捕まえた魔獣の檻の鍵よ。檻は庭先に雷獣達が運んできているわ」
そう言い終えると中庭から、大きな物音が響き、2m程の高さの檻が雷獣に囲まれて置かれていた。




