ダムシアンへの転移
「まぁ良いワ。頼まれた品物と、魔力増幅する時に効果を上げる為の魔導具は無いケド、魔力切れの時に上がる魔力量を増やし易くする薬草が有ったから、粉末にしているワ。味が無いから、何かに混ぜて飲んだ方が良いわヨ。粉だけじゃ噎せるカラ」
二回手を叩くと、部屋に木箱が二つ置かれる。
魔力量を増やす粉末は、カイン兄様とルシアン兄さんの飲み物に混ぜるとして、ルーチェの事をどうするかだな。
「『招来』渚!!」
「どうかされましたか、ルーク様? ここはサンバリュー様の商会ですね?」
「渚にお願いがあるんだ。この娘のメイド教育をお願いしたい。沙耶と一緒に軽いお洒落とかもね」
ルーチェを見た途端、渚は何も言わずに微笑む。
その笑顔に安堵した瞬間、俺の耳の側で鈍い音が鳴り、確認すると渚の尻尾がスルスルと戻って行った。
「犯罪奴隷を買った事に、渚は何も言いませんが、相談をする位はして欲しいです」
「ゴメン」
「まぁ良いです。きちんと反応をして護りに入りましたからね、ただし、他の婚約者である5人にはご自身で説明してクダサイマセ?」
「……ハイ」
目が龍の瞳に変わっていた……大分怒ってる様だ。やっぱり相談しなかったのがマズかったな。
メアとエリーゼは渚以外にメイドを増やした方が渚にとっても良い。と言っていたから問題ないとして、エルザとソフィア、リーフィアの三人には説明をしておかないと、カミナの時みたいになっても困る。
手紙を取り、新しい使用人で護衛を雇った事を簡素に記してゼファーに託した。
「任せたよゼファー。帰りはラーゼリア領に戻ってくれ」
「(肯定、ラーゼリアに向かうよ)」
ゼファーも念話で話せる様になってからは、随分と他の娘達と過ごす事が多くなっている。
ネーヴェ曰く、「基本の性格が大人しいから、他の鳥型と違い警戒しなくて済む」と言うお墨付きも出ているほどだ。
「ラーゼリア領に戻るのかね?」
そうこうしている内に、荷物を収納し終えたのだが、ダムシアンから館に戻る筈だったのだが、ラーゼリアに帰る事をソドム様に尋ねられ、「儂も御忍びで行く」と言うので、ダムシアンからラーゼリアに転移する流れになりそうだった。
他の式達には念話で伝えたので、カミナ以外は現地に喚ぶ形で話がついたのだが、どうやらカミナは途中で狩りをして来るらしい。
「それでは行くぞ? 〝我が道は軌跡、其の歩みは奇跡、狭間を越え揺蕩うは我と汝が出合いし布石『転移の門』〟」
詠唱をするソドム様の姿は新鮮だが、他の二人も詠唱をするのだろうか?
「儂としては、詠唱破棄か無詠唱をしたい所なんじゃが、空間魔術とは相性が悪くてなぁ。レイの様に戦闘技術に昇華出来なんだわ」
少し気恥ずかしそうな顔で、鼻頭を掻いていた。
転移先の様子を見ると、そこは書斎の様な場所が映り込んでいる。
俺とソドム様は、門をくぐり抜けダムシアンへと到着した。
「ようこそ、獣公国ダムシアンへ。歓迎するよルーク・ラーズ・アマルガム。若き王よ」
「まだ早いですよ、獣公国ダムシアン大公ソドム様?」
「カカカッ、それもそうじゃのぅ」
ソドム様の高笑いが、部屋に響き渡る。そこに控えめなノックが聞こえ、扉が開いた。
「失礼します、御父さ……えっ!?」
「やぁ、リーフィア。お邪魔してるよ?」
そこに現れたのはリーフィアだが、部屋着なのだろうか?
何時もの服よりも暖かそうな、モコモコのセーターを着ていた。
「おや、リーフィア。未だ着替えて無かったのか、仕方無いのぅ」
「ルーク様一度失礼します。御父様、御母様が御呼びですわ。随分と機嫌が良かったので、きっとお話が捗ると思いますわ」
リーフィアは、そのまま部屋に向かったのだろう。俺はソドム様を見て、話しかけるのを止めた。
その瞳には、この先に待ち受ける者が何をするのか予測が出来ているのだろう。
「ルーク君、儂はここまでの様じゃ。今回のラーゼリア領には行けそうに無い。スマンがリーフィアとソフィア嬢とエルザ嬢の三人で行っとくれ」
「あの……ソドム様は、何をなさったのですか?」
「昔に結婚祝いで作ったネックレスの手入れを間違ってな。宝石は無事じゃったが土台の爪が割れてしもうて、商会に在った同じ職人の品を手直ししてもらったんじゃが、遅かった様じゃ」
リーフィアが出て行った扉が再び開くと、そこには、セラス様の姿があった。
「あら? あらあら? ルーク君じゃないの? リーフィアちゃんには会った? 今日はね、ソフィアちゃんが来てるから、遅くまで起きてたみたいでね可愛いモコモコを着て過ごしてたのよ」
その顔は、可愛い物を愛でる気満々の表情で、ソドム様の事が、眼中に無いとも言える状態だ。
「セラスよ、ネックレスなんじゃが……」
「貴方、ごめんなさい。あのネックレスね、前にチェーンに引っ掻けて爪が歪んでいたの。リーフィアに言われて思い出したわ。本当にごめんなさい」
「……そうか、そうじゃったか。まぁ形あるものは何時かは壊れる物じゃ。セラスの首元には、この宝石が良く似合うからの、これを身に付けてはくれまいか?」
ソドム様は、ネックレスをセラス様の首元に持っていき手を回したと思えば、そのまま着けた。
「あら? 前のより宝石の数、増えてませんか?」
「ウム、オーダーメイドでは無くなったが、同じ職人の作った物を見つけてな、宝石をそのまま増やす形で、調整を頼んだ。結婚祝いの品を手直ししたようで、少し……その…な……」
「あなた……」
二人の顔が朱に染まり、艶を帯びた声色に変わっていく。
その顔は、とても子供に見せれる物ではない為、俺は部屋を抜け出る様に退室した。
もしかしたら、来年にはもう1人産まれるのでは? そう思いながら歩いていると、温室がありソドム様と同じ狐人族の男性が、薬草の手入れをしている様だ。
「ルーク様、此所で何をしてますの?」
辺りを見回していると、リーフィアとソフィアがやって来た。リーフィアは先程の服と違い、少しだけソドム様が来ている民族衣装の様な服と似た物を着ていた。




