霊域の集落
たどり着いた場所は建物が多い割に人気が少なく、映画等で良く見られるゴーストタウンの様だった。
「そこの者止まれです!!」
「止まらねば実力行使にて排除するです!!」
集落の入り口と思われる場所に足を踏み入れると門番らしき者が出て来たのだが、その姿は人ではなく天使の翼をもつ……白熊?
「貴様ら何者だ!!」
「何処から来た!!」
デフォルメされた白熊のぬいぐるみに、天使の翼が有るそれは、非常に持って帰りたくなる様な姿だが、重要なのはそこではない。
「これはゴーレムでしょうか? それも発語している所を見ると、かなり高いレベルの技術が使われている様ですね? 私も図鑑では見たこと無い型ですね」
「随分と可愛い門番ですね、ルーク様?」
「持って帰るなら主人に許可を貰わねば、書き換えは難しかろう」
「だよねぇ……ルークと言います。ティアさんかアーカムさんに、この名前の子供が来たと伝えて下さい」
ノルドと渚はこの門番に興味を示し、俺はカミナから予測された様で、このぬいぐるみに、俺の名を伝えてもらう様に頼んでみた。
2体の白熊ゴーレム?は、ティアさんの名前を聞いた途端に動きが変わった。
「「ティア様!!」」
ティアさんの名前を叫びながら、まるで子供の様に走り回る姿を見て、少し和んだ。
「貴方達、門番の仕事をしていたのでは有りませんでしたか?」
「「ティア様!!」」
「やはり躾る必要がありますねぇ。それはそうと、お久しぶりですルーク君」
「お久しぶりです。ティアさん」
白いロングの髪の毛を軽く束ね、前回見た女教師っぽい服ではなく、ラフな服装をしていたが、この集落を纏める人がそこに居た。
「まぁ良いです、皆様どうぞ着いて来て下さい私の館にご案内します。あぁ、エルザちゃんも居ますから安心してくださいな」
ティアさんは、そう言いながら先導して歩きだす。俺達もその後に続いて歩くが、やはり人気は無いようだ。
「この集落は大半が、この世に産まれ存在を否定されたり忌み嫌われた者達が住んでいます。例えば私やファナンの様な天使や堕天使が前者で、闇聖霊を崇拝する種族が後者ですね」
「つまりシャドウとかバグベア等の闇聖霊の加護に属する人達?」
「そうですね、それとゴーレムではないですよ。この子達は騒ぐ霊です」
「へー、そうだとすれば、闇聖霊の加護を得た人とかも居るのではないですか?」
「そちらは、アーカムの住む集落『フラクタル』に居ます。一応は元が人ですからね、軋轢とかは無いですけど、普通の人が住むには少し魔素が濃すぎますから不便でしょうね。魔力不全を発症する可能性が高いですよ」
何となく魔力の回復が速いと思えば、魔素が濃すぎるのが原因だった。なんか調子が良いと思ったのはこういう理由だったのね。
そう思っていると、ティアさんは店に入って行った。
「あら、今日は何か御求めで?」
「今日はエルザちゃんのお迎えが来たの。そうね、オークのお肉とブランケットをもらおうかしら?」
「ありがとうございました」
ティアさんはお金ではなく、透明度の高い青の魔石を1つ出し、オークの肉とブランケットをアラクネ族の女性と交換していた。
「ここではお金ではなく、魔石を直接交換することにしているの。外には狩りか素材集めに出るくらいだからね」
「かなり質の高い魔石でしたけど?」
「そうね、でもあれくらいの魔石なら魔力の高い者なら造れるから」
確かに造れるが、透明度の高い物程、中心に集めた魔力が外に溢れない様にしているので、逆に難しい。ティアさんの出した魔石は、俺が造っても半分もいかない程の高い透明度の物だった。
店から出た直後、ノルドに向かって一人の女性が近づいて来たのだが、俺はその声に覚えがあり、そのままノルドの反応を見る事にする。
「あ~っ!!ティアっち発見~、おりょ? 隊長じゃなくて、ノルちん居るじゃん。おひさ~」
「何でしょうか? 久々に頭が痛くなる話し方をする人ですが、私にこんな天使の知り合いは居ませんよ」
「えぇ~、そりゃまぁ、ナイスバデーになったけど酷くね?」
「ベリトから聞きましたが、本当にファナン貴女なのですね? では遠慮無く、昔に貸したお金の請求をしましょうかねぇ!!」
どうやら、ファナンさんは生前のノルドから研究費のお金を借りていた様だが、返していなかったらしい。
そのまま逃げるように離れて行くが、恐らく捕まるのも時間の問題だと思うので、そのまま放置しよう。
そうこうしていると、一件の白く可愛らしい邸宅にたどり着いた。
「ただいま戻りましたよ」
「お帰りなさい、ティアさ……ルーク君!?」
「迎えに来たよ、エルザ」
扉を開けて、出迎えてくれたのはボーイッシュな服装とエプロン姿のエルザだった。
「えっと……その…ルーク君はちょっと待ってて」
エルザはそう言い残すと、部屋に向かったのか出てこなかった。
「エルザちゃんは本当に良い娘ですね、集落に出ても可愛がられていますし」
「そうですね、彼女は思いやりの出来る娘ですからね、将来、今みたいな格好で迎えられたいものです」
「確かに、可愛らしいお嫁さんみたいでしたものね」
「ティアさんも、綺麗な女性ですし、けっこ」
「それ以上は言わないでくださいね。私は中に入りますから」
余計なことを言いかけたようだ。魔力の重圧を感じて全身に冷や汗を滲ませながら、これ以上のことを言う前に言葉を飲み込み、エルザが出てくるのを待った。
数十分程経過した所で扉が開き、エルザが服を着替えてそこに居た。
「さっきの服装も似合っていたけど、そのスカートも良く似合っているね。さっきのアラクネ族のお店の物かな?」
「━━うぅぅっ!!」
先程の服装も似合っていたので、一緒に褒めてみたが、そっぽを向かれてしまった。対応を間違えたのだろうか?




