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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-8 無名の地
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毒の沼地を抜けて

【霊域の集落 ティアの館】


「たっだいまぁ~!! 良い仕事をしてきたよ~」

「あら、以外と早く帰って来たのね。調査は終わったのかしら?」

「ん~と、原因と対象の調査は終わったけど、もう必要ないかなぁ?」

「それはどういう事かしら?」


 ファナンはメモした内容を、ティアに報告しながら書類に纏めていた。


 書き上げた書類を片手に間違いが無いか確認をしながら、ティアは納得した様に頷く。


「そう、予想よりもかなり早い到着ね。エルザちゃんの為かしら?」


 ティアはそう言って、エルザの方に顔を向ける。


「私がどうかしましたか?」

「貴女の王子様が直ぐそこまでお迎えに来てるのよ」

「とは言っても~、まだ距離が有るから到着まで何日か必要だろうし~、姉さんの霧をどう抜けるかも考え物だろうね~」


(どうか無事であります様に……)

 心の中でエルザは祈るのだった。


 ━━━━━━━━━━

「やっぱりこの霧が厄介だな」

「魔力が散るのに加えて、方向感覚を狂わせる魔術も付与されていますね。渚も一瞬だけ方角が分からなくなりました」

「狼の鼻も、この中では役に立たない程だからな」


 俺達は、沼地を抜けてひたすら真っ直ぐ歩く。

 何故か沼地から先の上空は渚が単体で飛行する事は出来ても、俺と一緒の場合になると魔力障壁が張られ、周辺に近づいた途端に拒まれる為、内部に入る事が出来なかった。

 どうやら不正防止の意味合いも有るんだろう。


「この辺からはウルフ系統より虫系統とオークやゴブリン系統の魔物が多くなってきたか?」

「おかげでお肉には困りませんが、栄養が偏りますので、渚としては勘弁願いたいです……ね!!」


 会話をしながらも、渚は巨大な蛆虫と蚯蚓を合わせたような腐肉喰らい蟲(ネクロファジーワーム)をゼノさんから貰った(天鱗)で斬り伏せて居た。


 渚と二人で、霧の攻略を試しているが、非迷の鈴(マヨワズのスズ)を用いてもかなり危うい。


「私はその状態に耐性が有るからな、ルークの修行に丁度良い」


 カミナは俺の影でノンビリとしているようで、出てくる様子も無いようだ。


「あぁ、魔力の出し難い状態と言うのは面倒でございますね」

「かなりの制限を受けると、こうまで体が重いんだな」


 互いに話ながら霧を進むと、開けた場所にたどり着く。

 そこには、この霧によって導かれた者の末路。そして、その末路に似合わない姿をした者が居た。

 腐肉すら無く空洞と化した眼窩から草が生えたかの様に伸び、大地を踏み鳴らしたと思われる竜種の足は、面影すら無いほどに()()()()()た跡がある。

 至る所に朽ちた武器と黒色の魔結晶を実らせた巨大な屍と人の物と思われる骨達。

 その中心に━━奴等は居た。


「魔術無しではキツイか?」

「相手にはしたくないですねぇ」


 ブヨブヨとしたゴム質に近い体皮を蠢かせながら、腐臭を撒き散らしてズルズルと進む群れ。

 耳障りな音を纏わせて、その大きさとは違い素早く飛び回るもの。

 そこに居たのは、巨大な蛆虫と金属光沢のある灰色の蠅型魔物だった。


「あれは、『腐肉蠅(カーリィアンフライ)』でございますね。」

「確か、腐肉を餌にして成長する蠅だったっけ?」

「嫌、他にも自身よりも小さな個体を餌として捕食する性質も持っている。渚とルークの大きさなら、餌と思われても……おかしくはないな」


 ざっと見た所で、地上の蛆虫はどれだけの数が居るのかすら分からない上、飛行しているのは、目に見えているのでも数十匹。

 魔力が霧散する為、ほぼ身体強化する位しか出来ない状態で、この群れを相手にするのは得策ではない。


「━━ルーク様、来ます!!」

「仕方無い、『招来、黒曜』」


 札に血で印を刻み黒曜を呼び出した。

 この場にいる中ではそれなりの大きさになる魔蟲が、手頃な蛆虫を捕食していく様は圧巻であったが、1つ違和感があった。

 それは、額の両側から二本の巻き角が生えていた事。

 ブラッドタウロスの角と同じ物の様にも感じる。


「やぁぁぁぁ!!」


 黒曜が蛆虫を捕食している間、渚も天鱗を構え蠅や蛆虫を裂いて居た。

 俺は、魔力を体内に集中させながら近寄る蠅や蛆虫を神刀で斬り伏せていく━━━。


「そろそろ終わりだと嬉しいんだけどね?」

「流石にこれ以上は、来ないですかね」


 蛆虫と蠅の群れを相手に、どれ程の時間が過ぎたのだろう。夕日の色が、霧を染める頃に戦いは終わりを迎えつつあった。

 魔蟲と言えども、逃げる本能は有るのだろう。

 蛆虫が全滅した際に蠅の群れは居らず、蟲は黒曜しか残らなかった。その黒曜も巨大な竜の骨を喰らい、俺の持つ魔石を与えている所だ。


「取り敢えず、結界石を使って野営の準備だな」

「それでは渚は、調理を行いますね」

「仕方無い、天幕は私がしておく。ルークは結界石を仕掛けて来い」


 それぞれ役目を決めて、野営の準備を始めたのだが、ここで予期せぬ事態が起きた。

 俺が戻ると、黒曜の居た場所に金属光沢の有る紫色の巨大な繭が形成されて居たのだ。

 どうやら、最後に与えて居た竜種の骨か、荊花女王の魔核が原因で、蛹になったらしい。


「かなりのデカさが有るが、何が出てくる事やら」

「さぁ?」

「銃よりも、蠱毒の法を行った方が質が悪い様だな。ある種の合成魔獣(キメラ)と呼んだ方が良いか? が出来たが、この魔力の質は何だ?」


 少なくとも、荊花女王の魔核と竜種の骨と付着していた魔結晶はランクSSSの物だった。

 他の魔石や魔核と知らずに与えた物も大半はSSクラスの物しか与えて居ない。

 繭の鑑定と解析の結果は【黒曜の繭】と羽化まで6時間と判明しただけだった。


「取り敢えず、今日はここで寝て、繭が孵化してから出発しよう」


 そうして、霧の深まる森の広場で一夜を明かすのだが、翌朝の羽化が始まった際に、俺も含めて驚くのはもう少し先の話である。


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