荊花女王
魔核、その名の通り魔力の核であり魔石の塊だ。
以前扱った魔竜の心核の様な高密度の魔結晶とは違い、魔物や魔獣の体内で長い時間を経て生成される物で人が持つことが有るが、その場合は魔力疾患と呼ばれる病気の為、治療が必要になる。
上位個体の魔物や魔獣の場合は1つ、大型の魔物等が2つか大きな塊を1つ持つ程度、竜種で3つ持つ事が確認されている。
つまり、この荊花女王に関しては、竜種を相手するのと変わらないと云うことになる訳だ。
実際の所、魔素を含んだ魔炎が蔓を燃やし尽くせ無かった辺りで、魔剣の強化能力無しで荊花女王の討伐が難しいと感じていた。
「(ルーク、私の出番は未だか? もう遊んでも良いだろう? なぁ?)」
カミナも足首を捕らえられた辺りから、女王の討伐をさせろと言ってきているが、まだ待ってもらっている。
「(……兄様、困ってる? 雪が助ける)」
「(しょうがないなぁ、お兄ぃ。僕達を喚んでよ!! 力の使い方なら完璧に出来るようになったんだよっ!!)」
そこに新たな念話が割り込んできた。
度々カミナの討伐した対象の魔石の魔力を喰らいながら適応作業に移っていた雪と焔が、漸く現状の成長した能力の完全掌握を終えた様だ。
「(燃やし尽くしたり花弁の中まで凍らせたら駄目だけど、出来る?)」
「(……大丈夫)」
「(僕も出来るよ!!……たぶん)」
「(カミナ?)」
「(仕方無い、小娘達に譲ってやろう。但し無理なら私が出るからな?)」
焔の答えは少し怪しかったが、二人を信じてみるかと思い、カミナも了承してくれた。
「『招来、雪、焔』」
現れた姿にそこまで変わり無いが、少し背が伸びている様だ。
「お兄ぃ、お待たせ!!」
「…兄様、んっ」
そのまま抱きついて来たので、受け止め改めて確認して見ると、カミナの渡していた魔石がランクの高い物だと良く分かった。
「妖狐化したら行くよ二人共」
魔剣を鞘に戻し、異空間から魔導銃を構えてカートリッジを装填する。
魔電磁加速砲を使用すると、花蜜が消し飛ぶ可能性が高いので、威力を抑えた魔術射撃で対応する事を選んだ。
あれから色々な方法を試行錯誤した結果、魔術石を弾として射出するのではなく、マガジンを改良し実弾と魔力カートリッジを追加変更し、空の魔術石に属性の魔術式を直接加える方法を取る事で実弾射撃、魔術射撃の切り替えと上位魔術や混合魔術の射出をする事が出来る様に改造を行っていた。
「(まずは奴に穴を開けるから、雪はその穴を凍らせて、焔は飛んでくる蔓や根を任せるよ)」
「「(任せて!!)」」
念話で作戦を伝え、近づいて行くと蔓を伸ばして攻撃してくるが、ギリギリで躱す━━まだ距離が遠い。
更に近づくと、荊の密度が上がりドーム状に辺りを取り囲みながら範囲を狭めてくるが、焔の炎で弾き可能な限り速度を落とさない様にして進む━━まだまだ速く飛ぶ様に駆け抜ける。
無数の荊が飛び交い、根が下から突き上げて来るが躱す隙間も狭くなり、多少のかすり傷を負いつつも花弁の根元ギリギリの場所までやって来た━━あと少し。
……眼前には奴が養分を取り込む為の肉食の魔物等と同じ様な口が広がっており、その奥には花蜜が生成される蜜腺が透明な壺の様に存在していた。
魔導銃を構え捕食口の口角を狙い、木属性の魔術『魔樹の杭』放つ。
口角の位置に突き刺さる杭は、開いた口を塞げなくする役割だけで無く次の一手の為にある。
「━━『雹狐』……行って」
雪の作り出した雹狐、氷の狐達が荊花女王の体内に入り、外と中から杭や口を凍らせていく。
当然女王は暴れているが、既に俺達も口内に入っているので、最早外からではどうすることも出来ない筈だ。
蜜腺には大量の蜜が貯まっている。
俺はレヴィアシェルを抜き、天井と周辺の壁を雪と共に凍らせていく。
そのまま蜜腺を切り取り花蜜を回収していったのだが、最後の1つを回収した際に異様な魔力反応を感知した。
「(ルーク、どうやら内部の防衛行動が働いた様だぞ?)」
「(やっぱりか)」
恐らく何かの防衛行動が在るだろうとは思っていたが、果たして何が起こるのやら。そう思って居るところで、凍らせていた天井に突如嫌な臭いと共に穴が開く。
「━━ア゛ァァァァァァ」
腐臭を纏わせて現れたのは、小さな荊花女王らしき物。
「まっかせて!!「待てっ!!」 『炎狐』燃やしちゃえ!!」
焔に静止を伝えたが、術は止まることなく対象を襲う。しかしそれが狙いだったのだろう、荊花女王の小さいやつは、自ら飛び込んで弾けた。
弾けた後に残ったのは、幾重にも重なった紐に見える管だが、嫌な予感がする。
そう思っていると管の先に、赤黒く丸い塊が落ちてきた。
ズルズルと滑る様に落ちた。それは種のようにも見えたが、そうではなかった。
「(不味い、逃げるよ!!喋るなよ!!)」
「(!?)」
毒沼を発生させると同時に、自身の縄張りを主張するため、荊花女王は分泌液と種を水底に落とす。
毒沼は種の外殻の成分と、先に分泌される液体が混ざり初めて毒沼になると云われていた。
つまり、この種自体にも毒素が含まれている可能性が高いのと、水底に入って行く可能性が高いということだ。
慌て固定した入り口に戻るが、既に沼の水が入って来そうな状態で、ここから抜け出すにはいささか厳しい。
「仕方無い、花蜜は採ったしそろそろ片付けるか『招来、カミナ』」
「漸く出番か? まぁ良い…で、どうするつもりだ?」
「外は硬いから、中から外に向けて破ろうかなと思うんだけど?」
「無理だな、あの種みたいな物をどうにかせん限り、魔術を吸われるぞ?」
「やっぱりそういう系か」
「魔力の通った物は悉くを取り込むのであろう、元は奴の魔核の1つだろうな元からこやつには魔術が効きにくいのも、そのせいだろう」
「成る程ね、魔剣の炎も効果が薄い訳だ」
「ふむ、硬さもそれなりに在るようだが斬るのは面倒だな」
カミナは自身の妖刀の鞘で種をつついて調べ始めていた。
「よし、異空間収納に入れてしまえ」
「は?」
「恐らくだが、このまま置いていても魔力を無駄に吸わせるだけに成りかねん。ならば魔力回路をこやつから離してやれば、問題はあるまい」
カミナはそう言って、種の周辺を吹き飛ばしてから種を抱えて運び出したのだった。




