セレーナ伯爵とベルヴェーラ子爵
放置していた家具を異空間収納に仕舞い、セレーナ伯爵邸の応接間に入った所で、フォロンさん以外の全員が揃った。
色々と知っていそうなセレーナ様に今回の事を聞こうと思った矢先、彼女は突然語り始めた。
「先ずはいない彼の事から語りましょうか。彼はとても面白い子だったのよ。ダークエルフの中でも古き者の血筋に産まれた者だったけど、その体内には異質な魔力を宿していたらしくてね、そのせいで一族から『厄災の呪い児』と言われ追放されたらしいわ。私が会ったのは学院だったけど、新入生として入ってきた時は、既にラファールを従魔にしていたわね、とはいってもその時の様子といったら、どちらが主人か分からなかったっけ」
━━━それは、どこか懐かしむような優しい声で。
「アルマも変わった娘でね、彼女は没落貴族の娘で元々は男爵家の産まれだったけど、父親の急逝で潰えた御家再興を目指していたのよ。でも学院の野外合宿でフォロン達と何かあってからは、在学中から卒業後もストーカーをしていたのよね~。まぁ大体の予想は出来るけどさ、結局の所あれが鈍すぎるから、雌狐が来るまでは店員の形で仲は納まってたんだけどね」
━━━時に彼女に対して姉のような優しさと、鈍すぎる居ない彼に対する呆れの表情を浮かべ。
「ラヴィニアは、環境に恵まれなかったのよね。姉がなまじ才能の塊を持った上で、更に努力を怠らない性格だったのも原因ちゃ原因だけど、非才の娘の間違いを正せなかった環境だったのは間違い無いわね。努力をしても評価されず、出来なければ比べられる。貴族の世界じゃ良くあることだけど、前提条件が違い過ぎて、私なら家を棄ててでも逃げ出すわね」
━━━複雑な表情をしながらも、何処か同情をしているような、それでいて境遇の所では少し苛立っているような口調で語る。
いきなりの行動に、俺は驚きつつも本題に入る為に口を開いた。
「セレーナ伯爵様、それはどういった経緯で話しているのですか? 後は今回の事を何処までご存知なのですか?」
「ルーク君、私が知っている事は、二人とも昔の後輩で、ラヴィニアに関しては追放された事とそれに至る迄の経緯だけよ。後の事は予測出来る中で、一番可能性が高い物事と、一番可能性が低い物事に対して動いただけ。結果としては低い方が当たったけどね」
そう言うと、セレーナ様は一枚の手紙を懐から取り出したのだが、その手紙を見た途端、ラヴィニアさんのみ反応を示した。
「それは、お姉様の……」
「そうよ、ベルヴェーラからの手紙。内容は『今回の騒動の犯人の斬首と首の引渡し』商都に対しての詫び状ね。今回の犯人はラヴィニア・フォン・メリーズという事になっているわ……表向きはね」
そう言い終えると、応接間の扉が開かれる。
そして、ラヴィニアさんよりも薄い桃色の髪を靡かせながら、一人の女性が入って来た。
「この度は、我が家の愚妹が御迷惑を御掛けしました。ここからは私がお話しますセレーナ伯爵」
「あら、ベルヴェーラいらっしゃい。以外と速く着いたわね?」
「流石に伯爵様からの呼び出しされて動かない訳にはいかないでしょう?」
お互いに笑みを浮かべているが、瞳の奥は笑っていないのは、誰の目からしても明らかだった。
「ラヴィのしでかした事で出ていった領民の素性を調べたら案の定ね……全く、私の事を恐ろしいだの何だの言ってるけど、私からすれば貴女の方が恐ろしいわ」
「あら、どうしてかしら?」
「今回の魔物達が増えた原因、彼らだったのでしょう? 麻薬の密売人を含めた犯罪者組織の上層部。あそこまで精密な偽の身分証が使われているとは思わなかったわ」
当主同士は理解が出来ている様だが、情報が少な過ぎて全く理解できない。
「つまり、メリーズ領で善良な市民を偽った犯罪者集団が、運悪くラヴィニアの横暴で被害を受けたものだから潜伏場所を変えざるを得ない状態になったの。それに乗じて、大きな仕事が廻ってきた同じ集団の別チームが、商都でラヴィニアの姿をして騒ぎを起こしたのが今回の騒動の内容なのよ。ルーク君」
「あぁ、成る程。ありがとうございますセレーナ様」
セレーナ様が説明してくれたお陰で、漸く理解が出来た。
「結果としては、ラヴィニアが犯罪者組織を見つけ出して、集団を追放した形がとれる筈だったのよ、本来ならね」
「そこら辺が今回の騒動で、一番頭が痛い所なのよ。この商都で騒ぎを起こしたのが、ラヴィニア本人になっているし、何処から持ってきたのか子爵家の家紋まで用意してあったものだから、今回の組織のトップがラヴィになってしまったの。結果としてメリーズ領主としてラヴィニアの斬首を迫られてしまったのだけど、あの顔を見たら納得せざるを得ないわ」
その言葉を聞いて、思い出したのは捕まった男達の事だった。
確かに一人ラヴィニアさんと瓜二つの人がいた。『鑑定』と『解析』をしたら元〝男〟だったけど。
「だから私が呼んだんでしょ? ベルヴェーラの手で罪人を斬首した。その首を持って今回の騒動の幕を引く為に」
「そうでしたわね、ラヴィ。貴女が追放をされた事を知っているのは、近隣の貴族が大半ですが、理由まで知っているのはセレーナ伯爵様だけです。そして今回の騒動の犯人で無い事も」
「……はい、お姉様」
「貴女には辛い家だったと思います。でもこれからは、貴女の幸せの為に生きなさい。これは妹を庇いきれなかった姉が出来る最後のお節介です。ラヴィ、ゴメンね……」
俺達は姉妹としての最後の別れを行う様に抱きしめ合う二人を残し、他の人達と一緒に応接間から出て行く。
「暫くはこのままにして、私達は刑の準備を行います。ルークく…男爵達は客室を用意してますから、そちらで寛いでください」
セレーナ様は伯爵として、これからの行動を話していた。
「セレーナ伯爵様、ありがとうございます」
俺もその意図に従う事にしてメイドの人と一緒に客室へと移動を行う。
一時間近く経った頃に、屋敷内から三人分の反応が消え、そこから更に二時間程して俺達の居る客室にセレーナ伯爵とベルヴェーラ子爵の二人が新しいドレスに身を包み言葉を紡いだ。
「これから少しだけお話をしたいの、ルーク君にも協力してほしいんだけど、良いかな?」
「…………良いだろうか?」




