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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-7不思議な細工師
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細工師フォロンの工房で

 俺達は馬車に乗り、セレーナ伯爵の屋敷に到着する。

 庭園は噴水を中心にした左右対称の広い物となっており、その庭木に関しても彫刻の様に細工が施され、凹凸による模様が浮かび上がっていた。


「素晴らしいでしょ? これもフォロンの作品の一つよ」


 誇らしげにセレーナ伯爵は庭園についての話をしてくれたが、俺は庭園の細工をしたダークエルフのフォロンさんがどういう人なのか気になった。


 ガレーさんから聞いた話では、ダークエルフ族の中でも変わり者でドワーフと同じ様な職人気質であるが、同時にお人好しだと聞いている。


「セレーナ様、フォロンさんと会ってみたいのですが、大丈夫ですか?」

「なら丁度良かったわ。あそこで木材を運んでいるのがフォロンよ」


 指を指した先にある広場に、木材が積み上げられた場所があり、一人木材を担いで立っている姿があった。


 浅黒い肌に銀髪の髪を後ろで束ねた姿は、モデルや吟遊詩人にも見える為、とても力仕事をしている様な人には見えない。


「フォロン、調子はどうかしら?」

「……あぁ、セレーナ様。悪くはないかなぁ」

「貴方にお客さんが来てるわ」

「お客様? 誰ですか?」


 会話内容を聞いて思ったのは、確かに変わり者であるといった点だ。


 なんというか、ソフィアと同じくらいおっとりとした動作をしている。


「え~と、どうも? 僕はフォロン。フォロン・ドナートと言います」

「はじめまして、ガレーさんから紹介を受けて家具を頼んだルークです」

「――――!?もうしわけございません。この度は家具を頼まれたのにも関わらず期限にお渡し出来ませんでした」


 俺の名前を聞いた途端に、先程とはうってかわって物凄い速さで土下座をする彼の姿と口調は、周りの人間全てが驚きの表情を浮かべる程の速さでだった。


「今回の件についてですが、品物自体は全て完成していたのですよね?」

「それは勿論でございます。渡された設計図を基に、家具を組み立てた上で彫刻を施させて頂きました。素材も拘り、近郊の冒険者に依頼を出して、ルーントレント・タイラントの木材にしました!!」

「ルーントレント・タイラントですか?」

「はい、御存じ無いですか? 別名【魔樹木の暴君】と呼ばれる闇属性を吸収する樹木系統の魔物ですよ。加工すると闇の魔力に反応して、淡い光を放ちますので魔除けとして貴族の方に人気な素材になっています!!……壊れちゃいましたけどね……ははは…はぁ……」


 素材の事で興奮しながら説明を行うフォロンさんだったが、品物の状態を思い出したのか大きなため息をつき落ち込んでしまった。


「彼、普段はのんびりしてるけれど、仕事は間違いなく出来る人でね、今回の事に関しては持てる技術を出し切ったと話していたくらいだから……壊れてしまったのは残念だわ。私も見てみたかったのだけど」


 正直なところ屋敷に戻ってから回帰(リカージョン)の魔術を使い壊れた家具を元に戻すつもりでいたのだが、二人の落ち込む姿を見てこの場で直す事にした。


 店の方は、他に無事な物が無いかフォロンさんに確認してみないと下手に店に掛けると無事な物が素材に戻りかねない為、先に彼を元気づける事を優先する。


「セレーナ様、この広場を少し貸して頂きたいのですが、良いですか?」

「構いませんわ。何をするのですか?」

「フォロンさんの作品を元に戻すんです。壊れた家具を纏めて持ってきますね」

「でしたら、家の者を向かわせますわ」

「いえ、私が向かう方が早いので大丈夫です」

「えっ!?」


 セレーナ様に伝えると俺はそのままフォロンさんの店に転移を行い、廃材と化した家具の回収を開始した。


「全くとんでもない事をするもんだなぁ」


 残骸を拾い上げながら異次元収納に入れていき、他の商品も無事な物を纏めて収納していく。


 ある程度回収をし終えて周辺を確認すると、資材置き場だろうと思われる扉が開いていた。

 もし店全体を『回帰(リカージョン)』で戻すのならば、一応確認しておいた方が良さそうだと思い、中を覗き込んだ。


 中に置いてあったのは、どれも中から高品質の『トレントウッドの枝』『マジックトレントの幹』といった細工に向かない素材や、ただの枝木だらけだった。


 そして素材の周囲の床には、つい最近の物と思われる()()()()()が何回も往復しているのを見つけた。


 靴の溝に付着していたと思われる土を拾い上げると、微かに湿っている。

 恐らくまだそんなに時間は経っていないのだろう。


「残骸が有りませんね……誰か居ますの? ……まさか泥棒ですの!?」


 店の入り口付近から声が聞こえてきたが、知らない女性の声だ。


 相手の姿を確認する為、物陰に入り込み息を潜める。


 そこに居たのは、冒険者の様な格好をした何処か違和感のある女性だった。


 見た目は冒険者の様にも見えるが、足の運びや視線の動かし方に何処か隙がある。


 何というか、この間の婚約者達と雰囲気が似ている。実戦に馴れていない貴族の子供の様な雰囲気だ。


 濃い青色の短髪とつり目が特徴的な、冒険者風の女性。


「誰も居ませんわね……今の内に終わらせましょう。フォロンも居ないようですね何処かしら?」


 彼女はそう言いながら、腰の袋を開き中身を床にトレントの幹や、ただの枝木と金属音のする袋を取り出していった。


「こんなことをしても、店が元に戻る事は無いでしょうが……せめて私を庇ってくれた貴方にもう一度会いたかったです。ごめんなさいフォロン」


 涙を流しながら、謝罪を呟く姿は何処か悲しげでもあり、覚悟を決めた人の様にも見えた。


『本当にトラブルに巻き込まれやすい体質なのは変わらないなぁ』と内心思いながらも、ただのとばっちりだけでは済まなさそうだったので、ゼファーとネーヴェを呼び出し彼女の足取りを追わせ、俺はセレーナ様の屋敷に転移した。


 この後、誰もが予想だにしなかった結末を迎えるとは神すらも予測出来たか分からない。

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