メリーズ家とグラファス家
渚達がグラファスで起きた問題に巻き込まれ話を聞いているその時、一台の馬車が店の前に止まった。
扉が開き、中から降りてきたのは薄いオリーブ色の髪を後ろで束ねた女性だった。
「皆様ごきげんよう、あら、そちらの二人はどちら様?」
「これは領主様、こちらのお二人はフォロンの所に来たお客さんらしいです。本日はどうされました?」
「フォロンの所の被害を見に来たのです。あの雌狐がどこまでやったのかを把握しなければなりませんので……ふむ、成る程」
店の惨状を確認した後、渚と沙耶を見た領主は、何かを確認している様な動作を行い二人の前に立った。
「この度は、商都グラファスにお越し頂いたのにも関わらず、この様な事になり申し訳ありません。私はこの商都の領主をしておりますセレーナ・フォン・グラファスと申します爵位は伯爵を陛下より賜りましたが、爵位に関しては余り気にしないでくださいませ」
「これはご丁寧に、私は渚と申します。こちらは」
「沙耶と申します。今日はこのお店に注文した家具を引き取りに来ました」
「では貴女達はラーゼリア伯の三男ルーク男爵の使いの方ですね」
にこりと笑いながら、セレーナは受け答えを行う。
「貴女達には、少し聞きたいことがありましたので、丁度良かったですわ」
「「はい?」」
「メリーズ子爵家に対して、今回の件に関してラーゼリア伯爵家のご子息に対する嫌がらせと商都グラファスに対する被害届を書状として提出する事になりましたので、確認を取りたかったのです」
今回の品物を注文した際に彼は帳簿にラーゼリア伯爵家の三男と記載していたらしく、その品物を強奪されそうになった為、メリーズ子爵家の護衛に怪我をさせた。
しかし、あくまで伯爵家の品物を防衛する為に行った行動であり、伯爵家の三男と記載された帳簿を証拠にメリーズ子爵家を断罪する運びになったので、帳簿に記載されている品物の確認を行うためにルークを被害者として呼んで欲しい。
内容をまとめると、こういった物だった。
渚は早速今回の経緯を手紙にし、ルークに届ける為に沙耶は転移を行う準備を始める。
「それじゃご主人様を連れて戻るね、渚」
「お願いしますね」
手紙を受け取り、沙耶はルークの所に転移をしたのだった。
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日課の鍛練を終えて風呂に浸かっていると、空間に歪みが生じた。
「お兄ちゃん、大変なんだよ!! すぐに来て!!」
「はぁ!?」
突如現れた沙耶に湯船から連れ出され、俺はそのままの状態で脱衣場に連れ込まれる。
「何かあったのか?」
「このままだと、家具が無くなりそうなの!!」
沙耶はそう言って手紙を渡してきた。
書いたのは渚の様で、現状の詳しい内容を分かりやすく書いてあった。
「やっぱりトラブル体質なのかなぁ、俺」
「昔も今も余り変わらなくない?」
「だよなぁ……分かった。その前にラーゼリアに飛ぶぞ」
俺は急ぎ支度を整えると、沙耶の転移空間に干渉を行いラーゼリアの地を踏んだ。
「おや、ルーク。おかえりどうしたんだ?」
「父様、少しお名前をお借りする事になるかもしれません」
渚の手紙を見せて説明を行うと、グランツ父様は少し唸った。
「ルーク、少し待ちなさい。もしメリーズ子爵が相手なら、少しおかしい事になる」
「どうしてですか?」
「あそこの家は、貴族の中でも代々不正を許さない事で有名でな、軽い物でも罪人となれば家の者ですら追放する事に躊躇いが無い。下手な罪だと当主が首を跳ねる事もあると言う程だ」
グランツはどうにも話が合わないという顔をしていた。
「その性格上、貴族内でも敵が多く疎まれていると言う話も多く聞いているのでな」
「話の通りなら、本当にメリーズ子爵家か分からないですね」
「仕方がない、何かあったらラーゼリアの名をしっかり出しなさい」
グランツ父様からの許可を得て、弄った転移空間を戻しグラファスに再転移を行う。
そこには、おおよそ店として機能していない建物と、貴族であろうオリーブ色の髪を束ねた女性が渚と共に立っていた。
「この度は、商都グラファスのトラブルでご迷惑をおかけしました。私はセレーナ・フォン・グラファスと申します。ルーク様」
「いえ、こちらとしては、フォロンさんが無事で良かったと思っていますし、品物は駄目になっていましたが、素材として引き取りたいと思いますので構いません。それとセレーナ伯爵様も畏まらないで下さい。爵位は貴女様よりも下でございますから」
そう返答すると、セレーナ伯爵は目を丸くしていたが、すぐに表情をやわらげると側で屈み
「それでは、ルーク君と呼んでも良いかしら? 私、男兄弟が居ませんでしたので、昔から弟が居たらと思っていましたの!! そうだわ、セレーナお姉ちゃんと呼んでくださる?」
声色が何とも言えない位に高くなり、思わぬ言葉にかえって驚く事になったが、悪い人ではなさそうだ。
「セレーナ様と呼ばせていただきます。 それと、今回の件についてですが、本当にメリーズ子爵家が関与していると思いますか?」
俺は目を見ながらセレーナ伯爵に答えを求めた。
彼女の瞳は、こちらの瞳を覗き込む様に背ける事もなく、ひたすら真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「今回の件についてですが、間違うことなくメリーズ子爵家の者だと答えれます。正確には、元メリーズ子爵家の次女ラヴィニア・フォン・メリーズの仕業ですわね。私は雌狐と呼んでいますけれど」
その言葉には、毒が含まれていたが、嫌がっているというよりも、上手く読み取れなかったが別の感情と混ざり合っている様な印象を持った。
「彼女の姉、現当主のベルヴェーラとは同じ学院の出なので、今も繋がりがあるから聞いていたのですが、どうやら度重なる領民への横暴や、それに伴う領民の夜逃げに対しての責任で追放されたそうです」
「つまり、追放令嬢ですか?」
「そうなります。その時にフォロンに助けられた様なのですけど、何を思ったのか今度は彼に対して恩を仇で返してる様ですね」
軽く話を聞いて纏めるだけでもかなりの被害があるようで、資料として纏められているものを見せてもらえる事になり、一先ずセレーナ伯爵家にお邪魔することになったのだが、どうやら本当にとばっちりを受けただけの様だった。




