婚約者達とのデート エルザ篇 2
「ここがメアちゃんのペンダントを買ったお店なんだね」
エルザはショーケースの方に向かうと、中の品を見ながら目を輝かせていた。
「そっちは少しだけ値段が安くなってるから、なんなら着けてみる? お嬢ちゃん」
前回の時と同じで、トランクケースを出しそのまま開く。
中には同じデザインのアクセサリーが、見本の品よりも光を放っていた。
「これはペンダントなんだけど、ここを押すと開くのよ。写し絵やその他には、この中に解毒薬とか入れて飲んだり、魔術石を仕込んで投げつける人が多いわ」
「写し絵?」
「あら、知らないの? 今話題の写し絵、確か『キャメラ』とか言う箱で、人物と風景を一瞬で画くらしいわ。何でも、遺跡からドロップしたアイテムらしくて、アマツクニの技術者と錬成師で解析して先月の終わりに、複製が成功したそうよ」
お姉さんの話を聞いて、正直驚いた。
異世界の物がドロップする事があると話に聞いていたし、ハンドライトもこっちのやり方で再現したが、まさか写真が再現されているとは思わなかった。
「お姉さん、この辺でその写し絵が出来る所があるの?」
「確かこの店の裏通りの公園に、流れの写し屋が天幕を張っていた筈よ。明日の昼まで居る様なことを言ってたから」
明日の昼までなら、今日三人との写真を撮る事が出来そうだ。
「お姉さん、ありがとう」
「いいよ、たいした事は何も言ってないしね」
何の気なしにしていた会話も終わり、エルザも気になった品を持ってきたようだ。
それは、薄緑の水晶の他に青と朱色の水晶が使われた髪止めだった。
金額もそこそこな品物であったが、支払えない金額ではなかったので、大銀貨一枚を取り出し、先に渡した。
「ルーク君、これどうかなぁ?」
「よく似合うよ、三人の色が入っているんだね」
「うん!! だから、ソフィア姉様とリー姉様の分も欲しいなぁって思ったんだけど、これ1つだけなの……」
エルザは他の二人にも同じ物を贈ろうとしていたようで、品物がない事に少し残念そうな顔をしていた。
その様子を見たお姉さんは、後ろにあった棚から、髪止めに使われている物と同じ素材を取り出して魔力を込めていく。
数秒程で魔力の光が収まると、そこには同じデザインで、メインの色が違うの髪止めが2つ出来ていた。
「とりあえず、こんなもんかな」
数回振ってからお姉さんは、水晶の中を確認してから髪止めを渡してきた。
「とりあえず、話を聞いて赤がメインフレームになってるのと、緑がメインフレームになってるのを急造で拵えたから、そんなもんで良ければ、3つ纏めて大銀貨1枚で良いよ」
「それだと売り上げ赤字でしょ?」
「子供がそんな事気にしなくて良いっての、こっちがしたいからしたことだしね、この間のオマケだよ」
この間のチップ分を返したと言うのなら、それでも支払う金額的には少ないのだが、受け取る気は無いようだ。
「後で、もう二回ほど来ます」
そう小声で伝えると、お姉さんは親指をグッと立て、声無き返答をした。
時計を見ると、もうすぐ一時間が経つ所で、スノークラウンに戻ればスノードームが仕上がっている頃になっていた。
「エルザ、もう少しだけ大丈夫だから、写し絵してもらおうよ」
「えっ?」
「この店の裏通りに公園があって、そこで写し絵をしている人がいるんだってさ」
キョトンとしたエルザの顔を見て、お姉さんがしてくれた話をそのまま伝えると。
「行きたい!! 早く行こう。ルーク君!!」
とても嬉しそうな笑顔で、エルザは俺の手を引いて走り出した。
裏通りの公園に着くと天幕が張ってあり、人がそこそこ並んでいたが、前に進むのに然程時間を要する事もなかった。
入っても直ぐに出てくる人が多く、天幕の前に置いてある看板には、
『写し絵につきましては、仕上がりにお時間を頂きますので、1時間後に代金と交換の形を取らせて頂きます』と記載されていた。
どうやら、明日の昼までなら取り置きもしているそうだ。
中に入った俺が見たカメラは、俺も見たことがある昔のカメラだった。
「いらっしゃい、代金は現物を見て選んもらうからね、出来るだけ笑顔でお願いしますな」
やや小太り気味な白髪のお爺さんが、微笑みながらカメラを構えてシャッターを切る。
小気味良い音と同時に、ロールを巻き上げる音がした。
乾板を使ったカメラかと思って居たが、まさかのロールフィルム式のカメラだった。
そのまま何枚か撮った様で、お爺さんはフィルムを確認して、こちらを振り向いた。
「これで終わりだ。写し絵の完成は一時間位で出来るから、後でおいで」
そう言われた俺達二人は、お爺さんに見送られながら、天幕から出た。
少ししてエルザは、余程嬉しかったのかニヤニヤしながら、スノークラウンに向かうのだった。
スノークラウンに到着すると、入り口にゾーラさんが立って居た。
「おや、商品の受け渡しだね。こいつだよ」
ゾーラさんは、包みのタグを確認してからエルザに包みを入れた袋を渡した。
「代金は、本体代金と加工費含め金貨1枚だよ」
「これで良いですね」
エルザは、ポケットから小さな財布を取り出しゾーラさんに支払う。
この支払いだけは、エルザからは『私がするの』と念を押されていた。
袋を受け取ったエルザは、そのまま袋を持つと、そろそろ交代の時間が近いのが分かったのだろう、時計を見て少しだけ時計を睨んでいたが、直ぐにこちらを向いた。
「約束の時間が来たから、次はリー姉様の所だよ。ルーク君はこのメモの場所に向かってね」
そう言ったと同時に、覚えのある魔力が近づいて来ているのが分かった。
「さぁ、我が君、リーフィア様の所に向かって下さいませ。後はこのベリトとアエリナが付いて居ります故」
俺の護衛筆頭騎士であるベリトとその妻であるアエリナさんがそこに現れた。
「今日はデートしてるんじゃ無かったの!?」
「はい、ベリトとデートをしながら、ルーク様達の護衛もしてましたよ?」
「我が君には内緒との事でしたので、アエリナのスキルを使い、魔力を遮断して居りましたので……我が君、お急ぎ下さいませ。お時間が迫って居ます」
ベリトの言葉で時計を見ると、もう少しでリーフィアとの約束の時間が迫っていた。
エルザからメモを受け取り、頬にキスをしてから、
「今日は楽しかったよ、エルザ」
本心をそのまま伝えて、俺はリーフィアの居る場所に駆け出したのだった。




