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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-6 日常篇
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婚約者達とのデート エルザ篇

【ウンディーネの月 1月6日】


 婚約者三人とのデートの日がやって来た。


 今までは、お忍びで俺の家やラーゼリア領でのデートはしていたが、今回は他の領地、それも伯爵の領地にあるダンジョン都市でのデートだ。


 顔バレする可能性は、フォルティス家の騒動で滞在しているバルバドス伯爵と、騒動の中心であるフォルティス子爵もしくは、それ以外の王家に関係する人にさえ見つからなければ問題ない筈。


 そう思ってデートに向かう事になったのだが、ソフィアが、朝食を食べ終えると


「今日のデートは、待ち合わせる事にしましたので、ルーク君はこのお店に行ってて下さいねぇ~♪」


 御機嫌なソフィアから鼻唄混じりに言われメモを渡された。


 標された場所は、貴族の服屋兼宝飾品を扱う店で、メアのペンダントを買った店の裏手だった。


 護衛役として、ベリト達を付けようかと話したが、「デートに不要」と三人から言われた為、彼女達の行動に関しては、〝地上の護衛〟は無い。


 その代わり空には、太陽の光に隠れる様、白い鳥に擬態をしたゼファーを飛ばしている。


 俺は周囲を注意しながら、店の前に置いてあるベンチに腰掛けた。


 目の前には、市場や馬車乗り場があり、その中心には、大きな時計が時を刻んでいた。


 馬車乗り場にある時計を見ると、約束の時間まで、後20分は余裕がある。


 今日のデートプランは、今日1日しか時間が無い三人が、各々(それぞれ)1つずつしたいことを出して纏めたらしい。


 とはいえ、この世界には映画も無いし、水族館や動物園の様な物は存在するのだが、ここからだと場所が遠すぎる事に加えて、動物園はダムシアン獣公国側、水族館は聖教会がある帝国領の更に北側だ。


 エルザやリーフィアとのデートは、お忍びでの買い物や、ラーゼリアの領地にある湖でのピクニックなどが大半であり、ソフィアとのデートになると、図書館や俺の部屋でのんびり過ごす事が多い。


 エリーゼとメアに関しては、後日改めてデートをする事になって居るが、どうなるかは検討がつかない所だ。


 周囲の店が開店の準備を終えた頃、1人の少女が俺に近いて来た事を、ゼファーからの合図で知った俺は、その方向へ振り返る。


「えへへ……待った?」


 エルザは、はにかんだ笑顔で、定番の一言を言う。


 活発な彼女が好む動きやすい普段の外出着より、少しだけ落ち着いた印象を与えるレースの付いたお洒落なコートと、暖かそうなマフラーであった。


「いや、時間よりも少し早いからそうでもないさ。今日のエルザは、何時もよりお洒落だね?」


「うん、今日の服はリー姉様から選んで貰ったの」


 その場でクルリと回り、リーフィアが選んだ服を見せてくれた。


「他の二人は?」


「今日は、時間を分けてのデートだから、私の後にリー姉様。最後がソフィア姉様だよ」


「そうか、じゃあ時間をここで減らすのは勿体無いね、行こうか?」


 話しかけながらエルザの左手を取り、馬車の通る側に俺が歩くよう心掛ける。


「そうだね、私の行きたいお店はこっちの方だよ」


 待ち合わせの場所から、少し離れた目的の店にエルザの案内でたどり着いた。


【スノークラウンのガラス工房】


 店の看板には、小さな雪だるまと、もみの木と思われる物が一緒に描かれている。


「……いらっしゃい、何にするんだ?」


 恐らく店主と思われる中年の男が、俺とエルザを見て話しかけてきた。並んでいるガラス細工を見ると、芸の細かい洗練された技術を持つ職人である事が窺い知る事が出来るのだが、妙な既視感があった。


 エルザは、棚の近くに置いてあったスノードームを手に取り、カウンターに向かうと


「このスノードームの加工をお願いします」


 そう言って店主にドームを渡した。


「……ふぅ、……母ちゃん! 仕事だ!!」


「父ちゃん、五月蝿いわ……お客さんがビックリするやろう……えぇと、スノークラウンにようこそ、私はゾーラ、こっちは旦那のスノーヴァです。……このドームの加工ですね? こっちの紙に希望する加工内容を書いて下さい」


 母ちゃんと呼ばれた店主と同じくらいの女性、ゾーラさんがエルザに加工内容を書くを出して、説明をしていた。


 暫くして、書き終わったと思われる用紙を、ゾーラさんがスノーヴァさんに手渡した。


「このくらいの作業なら、1時間もあれば終わりますから、暫くしてからお越し下さい。代金はその時で大丈夫ですよ。エルザ様とルーク様」


「「えっ?」」


「私ら、王宮や貴族の方々の仕事もありまして、お二人のお顔は知ってますので、……あぁ大丈夫ですよ、この店では『貴族様でもただの客』として接する様にしても良いと暗黙の了解がありますので、流石に王女殿下が来るとは思いませんでしたが……」


 朗らかに笑みを浮かべたその顔は、有無を言わさぬ凄みがあった。


 つまり、ただの客だから誰が来ても話さないと言うことだろうか?


「ここは、スノークラウン。王冠(crown)であり、道化師(clown)だ。入って来た者は、皆、道化師そこに身分の差など無い。そしてこの店の王様は、母ちゃんのご先祖様だ。ユキムラテルアキって言う名前だったか?」


「創世期の英雄の1人、水属性の回復魔術と氷結魔術を使うとされた伝説の拳闘家が残した工房が此処さ。とは言えアタシのご先祖様が残した手記に書いてあった通りの品を、魔術で練りながら形作りをしただけさね。凄いのはご先祖様であって、アタシじゃない」


 そう言ってゾーラさんは、魔術で魔水を練って作業に戻っている。


 それと同時に、既視感の正体にも気がついた。


 この場所にあるガラス細工は、江戸切子やラミネート加工されたグラスなどの、前世でも見た事がある物ばかりだったのだ。


「ルーク君、どうかしたの?」


「いや、何でもない。次の所に行こうか?」


 エルザの予定は此所だけとは限らないと思い、移動の提案をする。


 少しだけエルザは考えた後、メアのペンダントを買った店に行きたいということになり、その場まで向かった。


「おや、小さなお客さん。今日は違う娘だね」


 店先には、メアのペンダントを買った時のお姉さんが、ニヤニヤしながら座って居るのだった。

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