契約と結末と
「中々迎えに来ないので、心配しましたわ」
「本当、びっくりしたよね魔力枯渇したんでしょ?」
「まったく、無理はしないで下さいと言ったのに……もぅ、しかたの無い人ですねぇルーク君は」
「確かに魔力枯渇は魔力総量を大きく上げるのに最も効率が高いけど、気を失う程にキツイ物だよ……ルーク君はマゾなのかな? それとも皆を心配させて喜ぶサドなのかな?」
夕方に目が覚め、未だに腕と腰に重怠い感覚がある状態なのだが、何とかソフィア達を迎えに行き、今は館の温泉に入っていた。
(当然別々に成るように仕切り造った露天風呂にだ)
どうやら怠さの原因は、魔導書を元に戻す際に、魔力総量超える魔力を枯渇と循環を、繰り返しながら使用していた事が原因らしく、カミナと沙耶の余剰魔力を完全に制御しきれていなかった為、身体に負荷をかけすぎたらしい。
ノヴォルスクでの騒動は、バルバドス伯爵から手紙が来ており、今回の件の結末と今後についての事が書いてあるようだ。
今回の被害者の内、他の領主や貴族が保護した子供が以外と多く、無事に戻る事ができる者が居る事。
魔物に喰われ戻る事の無い子供に関しては、子爵の賠償金の他に、伯爵領主として、希望者にはバルバドス伯爵の居る都市の移住と現在の仕事と同じ職の用意をしているらしい。
受けない人には、白金貨を2枚渡す上で、困り事があれば直ぐに伯爵家に連絡出来る窓口を用意したそうだ。
身体の力を抜き、脱力したまま湯に浮かぶ。
星空を眺め、今日最後の一仕事に取りかかる事にした。
『時の魔導書』の魔神との契約を結ぶ為、表紙を開く。
頁には、血の受け皿と記された穴と契約の言葉が記され、他の紙には何一つ記されていなかった。
俺は言われた通りに、人差し指に血を滲ませ、穴の中に指先を入れる。
「契約者ルークの名の下に、新な名と血を持って契約の証とす。時を司る魔神たる汝の名は、時を持って人の運命を編みし者『ノルン』」
「『ノルン』……なんとも可愛らしい名じゃな。前の契約者は安直に『クロノス』やら『クロ』と呼んでおったが、そやつらに比べれば悪くない」
契約の証に答える様な言葉を発して、俺の頭上に薄紅色の長髪をした魔導書と同じ、両手より少しだけ大きなサイズの少女が現れた。
「名前は気に入った?」
「まぁ、悪くないと言った。良いかはこれからだな。……お前との契約、『ノルン』として確かに結んだ」
一応の契約は完了した様だ。
「今後ともよろしく、面白そうなマスターよ」
「あぁ、いざという時には、頼らせてもらうよノルン」
こうして、新な仲間として、時の魔導書の魔神が加わった。
力の代償が大きい反面、使い方次第では恐らく様々な事が出来る魔神の力を得たのだが、契約を結んだと同時に、もう1つ得た物がある。
『時の魔導書』に有った白紙に文字が浮かび上がっていたのだ。
契約がトリガーになっているのだと思われるが、全ての時空間・異空間魔術が網羅されている様だ。
今までの使ってきた時空間・異空間魔術を更に深める事が出来る一冊は、魔力効率と発動速度を速めるだけでなく、新たな魔術を会得することが出来た。
時空間・異空間魔術は、基礎魔術と違い遺跡から発掘された、異世界の魔術の総称であり、一般に出回っている物ですら、解読に成功した一例でしかないのである。
この中には、個人で扱える物としては、異空間収納から、表に出せない禁術まで網羅してある禁書であった。
契約も終わり、俺はベッドに潜り込むと、そのまま微睡みに包まれて、眠りに落ちていった。
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【ウンディーネの月 1月5日】
「さて、この日がやって来ましたわ!!」
「リー姉様楽しみにしてたもんね♪」
「もう少し落ち着いてねぇ~。入学前に怪我したら、大変よ~」
「とりあえずは、ルーク君のエスコートで進むことになるだろうか?」
翌朝の婚約者達は、皆が動きやすい素材で作成した軽鎧と得意な得物を持っていた。
「皆、護衛役を務める様にしては居るけど、遊ばないようにね」
何があるのか分からないのが『ダンジョン』だから注意換気は行う。
「あっ! エリーゼちゃんは、私とお洒落の勉強ね」
沙耶が柱の影から飛び出したかと思いきや、エリーゼを抱えて、外に飛んでいった。
亀の生き血や、甲羅も手にはいったので、彼女達の訓練を開始する事をメインに、各々の得意な事を伸ばす方向の特訓をすることにした。
エルザとソフィアは、光や聖属性の魔術と杖を使った杖術をカミナが、リーフィアはベリトから剣術を、メアは桂花から魔力糸の扱い方を学ぶ事になっている。
エリーゼに関しては、沙耶がお洒落を覚えさせると言って拐われた。
俺は、メアとエリーゼの永遠の結婚指輪を作成する為、工房に残り作成に取りかかるのだった。




