【ケチャップ】 初めての料理は?【マヨネーズ】
肉屋で、ビックカウとクックバードの肉を購入したルークは、市場で野菜や小麦粉を買った後、貴族宿に備え付けてあるキッチンで、(お抱えの料理人を使う事もあるため)塩を錬金術で精製しながら、調理方法を考えていた。
ベルフォートでは、砂糖や塩と言った調味料は、高価な為市場に出回る事が少なく、出ても粗悪品や酷いときには砂を混ぜた物だったりする。
錬金術で使う塩などは、不純物が多く食用に向かない(ヒ素などの重金属やベルフォート特有の元素が多く含まれる)為、岩塩自体は安く手に入るが、直接、精製塩を造ろうとしても、塩辛い物が出来るが、天日干しの塩より劣る為、今や誰も行おうとはしていなかった。
(岩塩を溶かして精製すると、硫化水素と混じり別物なったり、他の成分と化合してナトリウム自体が使えなくなる為)
ルークは、分解と精製の順番を変えて、鑑定を使いながら、鉄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化ナトリウムのみを調整しながら残して、ヒ素などの重金属や硫化水素を、個別形成した結晶に錬金し直した。
「よし、塩はこんなもんで良いだろう、次は野菜だな」
「まぁた、阿呆な事をしよるなぁ、早く飯を作らんか」
「カミナ、調味料を使った方が美味しいの知ってるでしょ?」
「判らんでも無いが、私は早く食べたいんだよ」
「ったく……はい、バードとカウの塩焼き、これを食べて待ってて」
ルークは、バードとカウを塩ダレに浸したものを焼き、カミナに渡した。
「では、久方ぶりに人の姿になるとするか。獣形態よりは、腹持ちが良くなるからな」
と言い、カミナは人の姿に変化を始めた。
獣形態の身体が、黒く鈍い光に包まれると、徐々に人の姿に変わり、肩まで伸びた黒髪、スラリと手足が伸び、10代後半から20歳前後の女性の輪郭を描く。
黒を基調とした、白と金色の花びらが刺繍された着物の纏い、整った顔、引き締まった腰から流れるヒップライン、肩からはだけた着物が豊満な胸を隠し、艶やかで怪しい色香を漂わす。
されど、けして下品なものではなく、一つの芸術とも言える程の美しさを合わせ持っていた。
「さて、これで良かろうルーク、あまり待たせるでないぞ」
皿とフォークを持って、カミナはテーブルに向かった。
今居る部屋は、俺とカミナが使う部屋で、右隣がダリウス、対面の部屋がカイン兄様とルシアン兄さん、左隣がお母様と父様の部屋になっている。
内装は、イギリスのバロック様式に近い、落ち着いた物で、サービスも貴族宿の中では上位に入る程、充実していた。
基本的に貴族は料理人に料理を作らせる為、キッチンには立たないが、トリアナは元々貴族では無いため、家でも時々お菓子作り等をしていた。
ルークはその際に、手伝いをしていた為、料理を出来る様になっていったと思われている。
実際には、前世の料理をこちらの世界の物で、作るだけなのである程度の料理は最初から作れただけだが、『言わぬが花』と言った所である。
「先ずは、オニールをみじん切りにして炒めて色がついたら取り出して粗熱を取る、リーブスの油を少しいれたして、炒めたオニールをカウとバードの合挽き肉に入れる、カウミルクと卵を入れてパン粉、を入れて塩に砂糖を少し、あとは混ぜて楕円形に形成して真ん中凹ませて準備は終了」
「ハンバーグか、久方ぶりのハンバーグだな!」
気がつけばカミナは、物凄い速さで尻尾を振っている。
「これは非常食用のハンバーグだから、カミナに出すのは一つだけね」
「むぅ……仕方ない、早く食べさせろ、目玉焼き付けてな」
「はいはい」
「はい、は一回で良い」
ルークはフライパンに火を付け、油が馴染んだ所でハンバーグのタネを入れる。
肉汁がジュウジュウと音を出していると、片面を確認し火が通ったら反対は蒸し焼きにして焼いていく。
10分くらいして、竹串をハンバーグに差し込み肉汁の色が透明になっているのを確認し取り出す。
皿にブロルキャロルの塩茹でとハンバーグを乗せ、最後の工程に移る。
ハンバーグを焼いたフライパンに、錬金術で
トマの実と塩、砂糖、酢を使い、ようやく作れた『ケチャップ』っぽい物と、調理棚に入っていたワインでソースを作り完成。
カミナ用に目玉焼きを乗せるのは忘れない。
そうこうしている内に、転生初のハンバーグが、こうして完成したのであった。
カミナ曰く、「ハンバーグではあったが、向こうに比べると味が落ちる」と綺麗に食べ終わっての一言だったりする。
カウとバードはミンチ・ブロック・各部位の切り落としに卵で収納した。
異空間収納は、時間停止状態の為、物が腐らないので、長期ほったらかしにしても安全に食べられるのが、ありがたかった。
この日最後に、ルークは『マヨネーズ』を作成する。
バード卵はラーゼリア領内で手に入ると、値段が高くなるため(保存の魔法薬を使う為)子供には、手が出せない金額だったが、(一つ大銀貨1枚)バードを飼育しているカンテボの街では、(一つ大銅貨1枚)と格安で手に入り、バードを金貨で買うと、20個くらい一緒に手に入るとダリウスから教えてもらっていた為、マヨネーズを作る事が決定してた。
調理と錬金術でのマヨネーズ作成を終えたルークは、洗い物を片付けて、夕食を食べた後、長い1日を終わらせるのだった。
作ったケチャップとマヨネーズが、一騒動になることを、この時のルークはまだ知らない。
補足説明
この世界の岩塩は、採取場所が同じでも、魔素の影響で成分が安定する事はありません。
理由としては、地面が生物を分解する際に魔素を吸収する為、地中の成分に侵食をする為、極端にナトリウムが高いものや、粗悪品に関しては、殆ど含まれていない物まで。
(この世界の特有の元素の一つ他にはミスリル等がある)
また、吸収した魔素の量が多いほど、触媒としての性能が高いが、食用の塩には向かず金額は安い反面、魔素自体が自然現象と変わらない為、錬金術を用いても分離や抽出がしにくく、時間と消費魔力がかかりすぎる為、そこまでして錬金術用の岩塩で塩を作る人が居ない事。
海水から作る場合、一定量を作る事が出来るが、作ることが出来る場所が限られる為、内陸部に近くなる程塩は高くなっています。
そして、食用の岩塩は魔素が少なく、錬金術の触媒にしても効果が薄いのだが、その分採掘地点も深いところでしか採取出来ない為、値段自体が錬金術用の岩塩より高い。
崩落の危険もある事等が要因の一つで塩が高騰する結果になっています。
ルークは魔力量が高いので、半ば強制的に魔素を硫化水素等と同じように結晶化しています。




