猫も手を借りたい
長老猫の暫し待てと言う言葉に従い待って居ると、一匹の白い短毛を持つブルーとイエローグリーンのオッドアイをした、カオマニーの様な猫がやって来た。
「(貴方が、契約を望んで居ると聞いて来ました。私はどうですか?)」
「(君の名は何て言うんだい?俺はルークだよ)」
「(長老以外に呼び名はありません、強いて言うなら厄介者でしょうか)」
その子はずいぶんと卑屈に自己紹介をしていた。
すると、長老猫が話し出した。
「(この娘は右側、青い目の方の耳が聞こえて居ないのじゃが、外の世界を知らぬが故、昔から出ていきたいと言っていたのでな、お主どう思う?)」
「(どう思うって?)」
「(この娘を連れていく事に対してだ)」
片方の耳が聞こえないくらいなら、なんとかなりそうではあるが、何故、厄介者と呼ばれて居るのかがわからない。
「(お主の知り合いに『復元』を使えるものが居るのなら、耳を治せるかも知れんのでな)」
「(生まれつき聞こえないのなら、『復元』では無理ですよ、それこそ病気とか歳によるものでないと)」
「(お主使えるのか?この娘の耳は徐々に聞こえなくなったのじゃ、おそらく病気じゃと思うのじゃが……)」
まぁ『復元』を使って治せるのならやってみるか、そう思い『復元』を発動する。
魔術を受けながら、白い猫は耳をピクピク動かし、やがて呟いた。
「(……微かに聞こえましたけど、おそらくこれ以上の回復は見込めないですね。やはり厄介者にはお似合いの結末なのですね)」
「(どうして、厄介者何て言うんだい?)」
「(この娘の父親は、外に居る紛い物、魔力の塊なのじゃ。儂の娘が産んだ子なのじゃが、混血故に持つ魔力が高くなり過ぎて、身体の方が耐えられなくなってのぉ、聴力に影響が出ている様なのじゃ)」
ダンジョンで産み出された魔物や魔獣も子供を作る事が出来るのかと、知らなかった事実に驚いていた。
「(この耳も今は微かに聞こえますけど、また何時聞こえなくなるのか、わかりません。どうか私を連れていく事は出来ませんか?)」
「(なら契約を結ぶか?)」
「(良いのですか!!この娘を連れていく事にしても?人間は欠損した魔物や魔獣は捨てていくと聞いていたのじゃが?)」
「(あー、俺はちょっとだけ違うスキルを持っているんだよね、死んでも契約に縛られるからその辺は大丈夫?)」
「(契約するとどうなりますか?)」
「(君が死んだ時に触媒となる依り代を魂と身体の一部を使って作り、死後に式神となるんだ。俺の命が無くなるか、もしくは何か特殊な例が無い限りは、俺との契約が続くんだよね)」
「(私にメリットはありますの?)」
「(魔力とかステータスの底上げがされるから、もしかしたら耳も少しはマシになるかも)」
「(では契約をします。私に名前を下さいマスター)」
白い猫、オッドアイ、さて何と名付けようかと考えていると、メアの姿が目に入る。
黒に対する白、安直だが悪くはないと思うのだが、雪を表すネーヴェと言うのも捨てがたい。
メアに尋ねると、ネーヴェが良いと言ったので白猫に伝えた。
「(ネーヴェですね、分かりました。それではよろしくお願いします。マスター)」
そう言って、ネーヴェは俺の肩に乗ると額を擦りつけてきた。
とりあえず、依り代のを先に作る方が、先なので爪の一部と毛、少しの血を貰い、材料として依り代を作成した。
後はネーヴェが死んだ時に、魔石を取り出して依り代に合わせれば、式神としての二度目の生を得ることになる。
その辺の説明を再度行い、魂の契約を結ぶ事を確認して、ネーヴェは俺の従魔として仲間になった。
色々な事が知れて、思ったよりも勉強になるダンジョンアタックになっていたが、気になるのは卵の事だろう。
長老猫と別れて、階段を降りて現在の階層はおそらく9階相当だと思われる。
隠し階段側のルートは、敵のレベルが高いようで、先程の出現していた魔物が、この都市では主に食用肉とされる長角猪と言う猪型の魔物だった。
これは元来このダンジョンで正規の階層の9階から出現する為、おそらく次の階層はボスフロアになるだろうとカミナが言っていた。
明日は依頼の日になるので、次の階を攻略して転移陣が出なければ、俺の『転移』で脱出する事になっている。
「やはりこの先にボスフロアが有るようだ。先に潜った者から話が聞けたぞ」
カミナが戻って来るなりそう言った。
「やたらとデカイ氷結亀だそうだ。周りには普通の亀も居るらしい」
「倒せて無いんだ?」
「武器が弾かれて壊れるか、魔術も余り効いていないらしいがな」
「へぇ~そうなんだ」
それは素材もドロップアイテムも期待ができそうだと思いながら、軽食を取り出し皆で食べる。
先ほど倒した長角猪の肉を、軽く塩胡椒で焼いた物だ。昔食べた猪よりも臭みはなく、むしろ旨かった。
食べ終わると、そのまま俺達は階段を降りていく。
そこには折れた剣等が散乱しており、その中心にデカイ氷山かと思える程の、氷結亀が構えており、その周囲には通常個体の氷結亀が群れを成していた。
「こやつを倒さねば、先には進めぬぞルーク?」
「分かってるよ、カミナは周囲の亀をお願い。メアは後方支援と、ネーヴェは防御出来る様に魔術を使って」
「うん」「(了解しましたマスター)」
三人に指示は出した。後は倒すだけだが、中々デカイその大きさは、おそらく頂点含め3mはあると思われる。
通常個体ならば、腹部や首回りが弱点になるがこのデカさだと、攻撃が届きそうにない。
どうしたものかと考えていると、向こうも攻撃準備をしているようだ。
亀と言えども、魔獣に変わり無く魔術を使う者も当然居る。
氷結亀はそもそも魔術を使う亀型の魔獣だ。
立て続けに攻撃されていれば、即座に反撃出来る様にするのも当然だろう。
すぐさま防御用の結界を纏い、動きを観察する。
典型的な『氷槍』を放ってきたが、同時に『息吹き』で周りの雪を吹き飛ばす。
周囲の確認をしてみると、メアとネーヴェは問題無さそうだ、カミナは氷結亀をどんどん裏返して放置している。
まともに相手するよりも、弱点を突いた方が倒すのは容易だが、問題はどうやって弱点を突くかだった。




