悪知恵者な奇術猫
「この姿はどうかしら、ルーク?」
「凄く綺麗だけど、メア下ろしてくれないかな?流石に恥ずかしいんだけど……」
「ご褒美、あと交換条件でしょ?」
俺は大人の姿をしたメアに、抱き上げられたまま移動をしていた。
何故抱き上げられているのかと言えば、ボス猿を倒した際に獲得したドロップアイテムとの交換条件とご褒美らしい。
ボス猿は氷堆丘猿のボス以外に、このフロアー内のボスモンスター扱いになっていたらしく、ボス猿の初期位置に宝箱と階段が出現していた。
とは言え、討伐した者でないと宝箱に関しては開かない様なので、フロアー内の正規に存在する階段ではなく、出現した階段を使うものが多くいた。
この階段は、宝箱とは違い誰でも使える様だ。
降りた先は当然、正規の場所とは違う所に出るのだが、同じ階層の何処に出るかはランダムになっているそうだ。
人によっては、そのまま帰ってこない事もあるらしいので、開いた俺達は閉じる意味でも出現した階段を使用しなくてはならなかった。
「━━━♪」
メアは鼻歌を歌いながら普段とは少し違う様子だが本人曰く、
「吸血鬼の血が強くなっているだけよ、でも夜の時間で成長した訳では無いから長くは保てないわ」
と俺を抱き締めながら抱えて、言っていた。
暫く歩くと階段や宝箱が見えてきた。メアは俺を抱えたまま宝箱に近づいて、右手を蓋に掛けるとそのまま開いた。
中に入っていたのは、【氷堆丘大猿の毛皮×3】【魔氷×5】【帰還石×1】【Bランク魔石×2】
といった内容だが、魔氷に帰還石という当たりが2つ入っていた。
魔氷は、錬金術の際に使う溶けない氷、正確に言えば氷属性の魔力塊だ。
そして、帰還石はそのダンジョン限定ではあるが、転移陣を使用せずにダンジョンの外に出る事が出来る魔術石の1つになる。
俺達は、そのまま階段を降りていくと、広い部屋に着いたのだが、降りてきたと思われる天井が塞がっていた。
「どういう仕組みなのか分かんないけど、面白いなダンジョンって」
「見ておらんと、先を急ぐぞメア、ルーク」
カミナは先導するように、通路に向かう。
俺はメアに抱き上げられたまま移動していると、徐々に目線が下がっていく。
足が地面に着くと、メアは何時もの姿に戻っていた。
「……うぅっ、わ、忘れて」
恥ずかしそうに頬を染めながら、服の裾を握って俺の耳元で小さな声を出し呟くのだった。
先程の少し強気なメアも良いが、こちらのメアも俺は可愛らしく感じて好きだ。
俺は手を繋ぎ、カミナに着いていく様にして、移動を始めた。
少し歩くと、カミナが止まり警戒をしていた。
「ルーク、この先はメアを後ろにしてお前が出ろ。ワタシが言っていた相手がこの階に居るようだ」
「何を相手にさせるつもりなのさ?」
「悪知恵者を相手にさせようかなと思うてな?」
「悪知恵者?」
「まぁ楽しみにしておけ」
カミナは少し面白がりながら目的の場所を目指して行った。
そこに居たのは、帽子を被った様々な毛並みと色をした猫が群れを成していた。
【悪知恵者な奇術を使う猫】と呼ばれる猫型の魔獣だった。
この魔獣は、人に懐き難いのだが、懐けばリンクしている者のスキルや魔術をある程度だが、使う事が出来る為、テイム出来ればかなりレベルの高いテイマーとして見られる事になる。
「(貴様等なに用だ)」
モフリたい気持ちを我慢していると、一匹の黒いラガマフィンの様なモフモフした猫が念話を飛ばしてきた。
「(モフらせて下さい)」
「(何じゃお主、いきなり何を言うておる。どうせモフらせるなら、そっちの女の子か隣のセクシーな姉ちゃんにモフられたいわ!!)」
我慢できず、つい本音が出てしまった。
そして、この猫はどうやら雄猫の様だ。
「にゃー、にゃー?」
「メアは静かにしておれ、今ルークがあの黒猫と話している様だからな」
後ろに居るメアが、猫の手を作りにゃーにゃー言っている姿は、とても良い物でした。
今度猫パーカーでも全員分作ろうかと本気で思う位にはグッと来るものがあった。
「(この中に居るのに、君達は意識があるんだね)」
「(そりゃそうじゃ、儂等は外からこの中に入ったクチじゃからな産み出された者と違い理性もあるわ)」
「(餌とかはどうしてるの?)」
「(基本この中なら高濃度の魔力があるからな、基本喰わなくても問題は無い)」
「(他にも君達の仲間が居るみたいだけど、その子達もここの子なのですか?)」
「(いや、基本的にこのダンジョンが儂等の毛やらを吸収して作り出しておる偽者じゃ……本当、お主等はどうしてここに来たのじゃ?)」
「(いやぁ、隠し階段で降りたらここに)」
「(ほぅ、それはまた…階段ならこの先にあるぞ、行くのならとっとと行け。儂等の生活を脅かすなよ)」
「(誰か契約してくれる子はいないですか?)」
「(お主からは悪い気配がないしのぅ……そうじゃ、皆の中で聞いて行きたいものが居れば契約でもするが良い。長老が言っていたと言えば大半の者は話を聞いてくれる筈だ)」
そう言って長老猫はそのまま歩いて行った。
俺は片っ端から声を掛けるが、流石に懐き難いと言われるだけある。
話は聞いてくれるがそれだけで、興味がなければ他の所へ行ってしまうことの繰り返しだった。
そろそろ諦めて、次のフロアに移動しようと考えていると、長老猫がやって来る。
「(誰も来てくれそうに無いから、そろそろ次の階に行きますね)」
「(……すまんのだが、暫し待たれよ。頼みがある)」
長老猫は、何か暗い声で念話を返して来るのだった。




