ノヴォルスクでの依頼は?
トトルは、魔獣の卵の周囲を飛び回り、そのまま卵の中に入ってしまった。
慌ててトトルの触媒と、刻印を刻んだ魔石を確認するが、魔石は魔力を失った空魔石になっており、触媒の方はトトルの魂が消えていた。
卵を確認すると、白い卵から、徐々に黒い色に変色していく。
カイゼルさん達も見たことがない光景らしく、そのまま見ていると、5分程で完全な黒い卵に変貌し終え、心なしか棘が更に鋭さを増していた。
俺は卵を魔力で覆い、持ち上げるとそのまま異空間収納に入れず、普通の袋に入れ確認する。
卵は徐々に魔力を取り込み、やはり棘が増えていた。
そのままでは、持ち運びも出来そうに無いため、異空間収納に入れてから持ち帰る事にした。
そのままお説教中の三人を放って食事をしているマルバスさんに、別れを告げてから、俺達は依頼書が貼り出されるボードに向かった。
【雪豹の毛皮納品 金貨4枚】
【隠者兎の捕獲 金貨6枚と大銀貨2枚】
【氷竜の洞窟 蒼氷竜の各部位納品 大金貨6枚~】
といったB~Aランク内容が、所狭しと貼られていた。
「(左下に隠れている依頼を取れ)」
俺達が、依頼を見ているとカミナは影の中から一言だけ告げる。
左下に一枚の依頼書があったが、俺の身長では少し届かない。
『アポート』を使い取り寄せると、書いてあった内容は、【砕氷の古代湖11階までの採掘員護衛 大銀貨7枚】とあり、受付期限が明日までの依頼だった。
内容と、金額があまりにも釣り合わない内容だったので、俺は戻そうとするのだが、ふと目に入った名前にその手が止まる。
ビクター・フォルティスと、ジン・フォルティスの名前が、その依頼書には【影狼】に指名と記載されていた。
俺はその依頼を受付に通した。
すると奥から、長身の赤毛を後ろで結んだ老人男性が出てきた。
「お前がルークか?俺は、このギルドの長をしている。ワジャンと言う」
「はい、俺がルークです。どうかしましたか?」
「なら、この依頼を請け負えたら、ランクを昇格出来るから、頑張れよ。依頼主はダンジョン前の酒場『氷結樹』に居るらしいから、詳しくはそこで内容を聞いてくれ」
そう言って奥に戻って行った。
そのまま依頼人の待つ酒場に向かうと、建物に人の気配が無く中に誰も居ない。
上の階に二人居るみたいで、どうやら依頼主の二人だと思われる。
「そのまま話を聞いてもらう。ルーク・フォン・ラーゼリア殿」
中に入ると突如、低い男の声が店内に響き渡る。
「貴方達は、何の目的があって、指名をしたんだ?」
「このままでは、フォルティス家の……いや、この地を任せて下さった、バルバドス伯爵やレシアス陛下にもご迷惑が掛かる事になる」
「俺も一応、無人の領地持ち男爵なんだけど? 助けを乞うなら、姿を見せるのが筋ってものじゃないの?」
「そうですね……では、醜い姿では御座いますが、お許し下さい」
階段から、二人分の足音が聞こえ俺の方に近づいている。
一人は髭が整えられているが、伸びきったシャツに白衣の様な物を纏う男と、同じ髪と瞳の色をした、恰幅の良い商人の様な見た目の男が居た。
「私が怠惰と呼ばれているビクター・フォルティスです」
「浪費家のジン・フォルティスです」
二人の男は、そう挨拶を行い椅子に座ると、俺とメアの姿を見て、何かを確認し頷いた。
「護衛の最中に、我等の愚兄を始末する。ルーク男爵には、そこまでの護衛をしてほしい」
「あれは畜生だ。魔物の方がまだ知性がある。これはこの先の未来の為に行う依頼だ。あの愚兄をこのまま生かす事は、領地の民や国の損害にしか成らん」
この二人、やはり噂とは違う様だった。
「お話を聞いていると、何故あの様な呼び名で呼ばれているのかわからないのですが?」
「愚兄は悪知恵が働く、俺達の成果を己の功績として掠め取っているのさ。そして、ミスは俺らの責任にしてな。だから私は錬金術のビクターとして商品を作って売っては、得た金をジンに渡して、収益の少ない地方の村や宿場町に金を落としてもらい、俺達の情報を更に悪口で広め、動きやすくする為の隠れ蓑を作る事にしたんだ」
「だから、地方も宿場町も俺達の悪口が広まればその分、愚兄の話が広まるのもな…だが、愚兄はやはり愚兄であった。広まるほどに開き直り、更に好き勝手し始めた。そして最悪な事件が起きた。……それは親父が『極寒の坩堝』の調査で、倒れた1月前の事だ。そちらの女の子は聞かない方が良い。出来ればまだ子供のルーク男爵にも聞かせたくはないのだが……」
「いえ、大体の内容は把握しています。今の話の中にも、一部書類に書いていない貴方達からの情報がありましたが、グレゴリーの罪はかなりの物でしょう?証拠を掴めれば、関係している商人や貴族がわかりますからね」
俺の返答に納得してジンは、苦々しい顔をしながら話してくれた内容は、吐き気を催す程の事だった。
俺達の出くわした人拐いは、あくまで一部の出来事である様だ。
男女の見境無く、6歳位から10歳前後の子供を拐い、己の欲望を叶える道具としてしか見ていない行動。
その他に、子供を魔獣に喰わせるショーとして他の貴族達を集め、監禁している子供を使った儲けをしていると言う情報は有ったが、確証も無く処罰に持っていくことが出来なかった。
証拠の名簿を見ると、子爵以下の名前が並んでいた。
更には、正規の一般奴隷を非正規に売っている奴隷商人(メアと俺に絡んできた奴ら以外の)情報も載っていた。
「ルーク男爵には、御父様であるグランツ伯爵に、この情報を渡して頂きたい」
「バルバドス伯爵に渡さないのですか?」
「今回の件は、バルバドス伯爵の耳には入っています。但し、バルバドス伯爵からは、『フォルティス家自らの腐敗ならば、フォルティス家の人間で解決してみせよ。出来ぬ時はそれまでの事だ、新たな子爵と入れ換えれば話は済む。但し、陛下に害が及ぶのならば、このバルバドスが直に手を出そう』と」
つまり、レシアス陛下に害が及びそうなら伯爵自ら全てを終わらせるから、そうなる前に始末しろといった所の様だな?
「依頼を受けていただけますか?」
「冒険者としての依頼は受けますが、貴族としての依頼は受けません。と言う事で良いですか?」
「ありがとうございます!! 子供と侮っていましたが、杞憂でした。明日の昼に、砕氷の古代湖の受付に来て下さい」
俺は受け取った書類を袋に入れ、そのまま酒場から出た。




