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鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第一章 魔王さま、現る!!
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第九話 いざ樹海へ

 森の中の小道を、馬車がガタゴトと進んでいく。

 空は晴れ渡り、木々の間を吹き抜ける風は爽やか。

 周囲に魔物の気配はなく、静かそのものである。

 午後特有の気だるさも相まって、うっかりすれば寝入ってしまいそうなほどだ。

 それは魔王も同じだったらしく――眠たげに目を細めている。


『こうやって見ると、魔王も意外にかわいいもんやね』


 魔王の顔を覗き込み、いたずらっぽい笑みを浮かべるリーツさん。

 するとそれに同調するように、サーシャさんが念を飛ばしてくる。


『そうだな、この姿を見ていると……。なぁリュカ、アルトが魔王だというのは間違いないのか?』

『そりゃあもう。俺、殺すぞって脅されたんですからね』

『うーん、人は見た目によらんもんやねぇ。まあ、人やあらへんけど』


 改めて魔王の様子を見ながら、リーツさんは残念そうな顔をした。

 俺だって、未だにちょっと疑っているくらいである。

 溌剌とした印象の整った顔立ち。

 小柄で華奢ながらも、女性らしい丸みを帯びた肢体。

 どこからどう見たって、人間の美少女にしか見えない。


『魔族の中でも、人に近い外見をしているものがいると聞いたことがある。魔王もそういう種族なのかもしれんな』

『意外とわからへんで。この子、いま人化しとるんやろ? もしかしたら、真の姿は巨大な化け物やったりしてな』

「いっ!?」


 魔王が変身する姿を想像した俺は、たまらず変な声を出してしまった。

 するとリーツさんは、申し訳なさそうに笑う。


『ははは、冗談や。堪忍してや』

『こんな時に、笑えないですよ』

『安心せえや。外に出とる魔力の感じからすると、そんなに大きな変身魔法は使っとらんはずやで』

「ふぅ……ん?」


 変な声を出したり、ため息をついたりしたからだろうか。

 半分眠ったようになっていた魔王の目が、おもむろに開いた。

 彼女はそのまま目をごしごしとこすると、グーッと大きく背筋を伸ばす。


「……うっかり寝ちゃいました。道中、大丈夫でした?」

「特には。この様子だと、しばらくは何もないだろう。まだ寝ていても大丈夫だ」

「いえ、それではいざというときに対応できませんし。何かあってからでは遅いので」


 あんたが起きてることが、既にその「何か」だよ!

 俺たちは揃ってツッコミを入れたくなったが、どうにか堪えた。

 できることなら、ずーーっと寝ていてくれるとありがたいんだけどな。

 その方が間違いなく世界が平和だ。


「…………」

「…………」

「…………」

「……あの、皆さん何でそんなに無口なんです?」

『あんたがいるからだよ!!』


 皆の心の声が揃った。

 けれど、まさかそれを本人に伝えるわけにもいかない。

 そんなことしたら惨劇の始まりだ。


「依頼の前に緊張しているのだ。今回討伐するダークインフィニティスペシャルドラゴンは凄まじく強いからな」


 ダークインフィニティスペシャルドラゴンというのは、サーシャさんが適当に考えた魔物の名である。

 今回、樹海に来るにあたって架空の討伐依頼をでっちあげたのだが、その時に使った名だ。

 ……もうちょっと当たり障りのない感じで良かっただろうに、どうしてこうなったのか。

 なんかこう、残念な子どもが考えたようなセンスだよなぁ……。


『残念な子どもで悪かったな、残念な子どもで!』

『のわっ!? 聞かれてた!』

『さっき言ったやろ? 心通丸の効果で、お互いの考えは筒抜けやって』


 やれやれと腕組みをするリーツさん。

 いけないいけない、最初にぶん殴られたというのにすっかり忘れていた。

 

『しかし、どうする? さっきから、魔王の視線を強く感じるのだが』

『これはあれやね。話しかけたいけど、自分からは何言っていいのか分からんって感じやね』

『うわぁ、めんどくさいやつだ!』

『無視するか?』

『あかんあかん、相手は魔王やで。寂しさのあまり何かしでかしたら、どないするん?』


 そうは言っても、相手は魔王だしなぁ……。

 俺たちの側から話しかけるのなんて、なおさら難しい。

 そもそも、魔王と人間で共通の話題なんてものあるのか?


『よし、ここは私が行こう』

『大丈夫なん? サーシャ、友達少ないやろ?』

『むやみやたらに作らないだけだ。で、できないわけではない!』

『本当ですか?』


 俺たちが疑いの目を向けると、サーシャさんは大丈夫だとばかりにうなずいた。

 そして――。


「アルト。暇ならば私と、この国の政治について語らないか?」

「……は、はあ」


 なんでそこに飛び込んだ!?

 一切迷うことなく、ダメなポイントの中心をぶち抜いたぞ!!

 魔王もめっちゃ戸惑ってるし!


『アカン!! 何でいきなり政治の話なんや!』

『ダ、ダメなのか!? 私の尊敬する女騎士メイリオは、夜な夜な友たちと国の行く末について侃々諤々とした議論を交わしたというぞ!?』

『時と場合っちゅうもんを考えい!』


 そうやって心の中で叫ぶと、リーツさんはサーシャさんの頭をポカンと叩いた。

 彼女はそのまま苦笑すると、魔王に語り掛ける。


「いやぁ、この子はほんまに脳筋でなぁ……。緊張すると変なこと言いだすんよ」

「そ、そうなんですね」

「政治の話なんて、してもつまらんやろ。それより面白いものがあるんや」


 そう言うと、リーツさんは手にしていたポーチを漁り始めた。

 いったい何を取り出すのだろう?

 魔王の目は、既に興味津々と言った様子だ。

 さすがは賢者、実にうまい展開だ。

 ここで何か気の利いたものでも出せれば、一気に雰囲気が和むな。


「ほいっと。これ、なんやと思う?」

「瓶詰の液体……ポーションですか?」

「惜しい! これは美容液や。これを毎朝ペタペタってするだけで、お肌つるつるになるんやで!」

「おおお!!」

「すごいやろ? 私はこの素晴らしい美容液を、みんなに広めたいって思っとる。でな、付いてはアルトもこれの販売に協力してくれへんか? 今なら知り合い十人に売るだけで、月収百万ゴールドも――」

「何に誘ってんだ!!」


 俺とサーシャさんは、揃ってリーツさんに鉄拳を食らわせた。

 よりにもよって、悪の総本山みたいなやつを相手にすることじゃないだろ!!

 まったく、油断も隙もあったものじゃない。

 俺は思い切りため息をつくと、両手をやれやれと持ち上げた。

 この二人には、やっぱり任せてはおけないな。

 ここはひとつ、モテ男の俺がお手本を見せてやるとしよう。


「おほん! えー、アルトさん――」

「あ、フシノ山が見えました! そろそろ樹海ですよ!」

「なら、今日はこのあたりで野営だな。リーツ、馬を止めてくれ」

「はいな。あの木に繋げとけばええね?」

「ああ、そうしてくれ。留めたらすぐにテントを設営するから、二人とも手伝ってくれ」


 てきぱきと野営の準備を進め始める三人。

 先ほどまでのぎくしゃくとした雰囲気がウソのように、見事な連係プレーだ。

 あ、あれ……?


「お、俺の話を……聞いて?」


 こうして、聖剣探索初日。

 俺たちと魔王は、無事に樹海の入り口へとたどり着くのだった――。


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