表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第一章 魔王さま、現る!!
8/33

第八話 魔王といっしょ!

「……どうしてこうなった」


 ギルドへと向かう道中。

 サーシャさんが、眉間を抑えながら小声でつぶやいた。

 その険しい眼差しの先には、にこにこと笑う受付嬢こと魔王がいる。

 結局、俺たちは彼女のパーティ加入を断ることができなかった。

 というのも――。


「まさか、Aランクの冒険者だったとはなぁ。知らへんかったわ」

「体よく追い出そうと思ったら、予想外でしたよね……」


 パーティに入ろうとした魔王を、リーツさんは実力不足だと断ろうとした。

 表向きはギルドの受付嬢である彼女が、高ランクの冒険者だとは思われなかったからだ。

 ところがどっこい、魔王はAランクだった。

 Aランクと言えば、実質的なギルドの最高ランク。

 実力があればと言ってしまった手前、加入を断ることが出来なくなったというわけだ。


「これからどうする?」

「ひとまず、このままパーティ登録はするべきやね。これ以上渋ると怪しまれるで」

「では、問題はその後だな。まさか、魔王を連れて聖剣探索にはいけまい」

「せやなぁ……」


 腕組みをして、唸り始めるリーツさん。

 こうなってしまっては、この賢者様の知恵だけが頼みの綱だ。

 俺とサーシャさんが揃って彼女を見守っていると、不意に後ろから声をかけられる。

 

「あの!」

「ぬわっ! い、いきなりなんだ!?」

「いえ、皆さんが真剣な顔で何かを話しているので、どうされたのかと」


 まさか、バレた!?

 俺たちの背筋がたちまち凍り付いた。

 やっぱり、彼女を放置して話し込んだのはマズかったか……!


「ええっと……ゆ、夕飯の話をしてたんよ! そしたら肉派と魚派で意見が割れてもうてな、議論が白熱してたっちゅーわけや!」


 うまい、さすがは賢者!

 とっさに考えたにしては、なかなか良い切り返しだ!


「あー、なるほど。そう言うときってありますもんねー」

「せやろ? ちなみに、アルトはどっちにする? 今日のお夕飯」

「んーと、私は……お野菜の気分ですかね」

「んっ!?」


 魔王が野菜食べたいって、そんなことあるのかよ。

 思わぬ発言に、俺はたまらず噴き出しそうになってしまった。

 だがそこで、尻に激痛が走って笑うどころではなくなる。

 手を伸ばしてみれば、サーシャさんの手が俺の尻をつまみ上げているようだった。

 笑いそうになったのを察して、とっさに尻をつまんだらしい。

 ありがたい、けど……すっげー痛い!!

 サーシャさん、明らかに加減間違ってるよ!!

 俺、アンタの五分の一ぐらいしか防御のステータスないんだからな!!


「あれ? 涙が……」

「め、目にゴミが入っちゃって」

「あらら。あとで目を洗った方がいいですね」

「ええ、ギルドに着いたら洗います……」


 そうやっているうちに、ギルドの建物が見えてきた。

 ふう……ようやくここまで来たか。

 わずか十五分ほどの道中だったというのに、めちゃくちゃ疲れたな。


「アルト、登録してきてくれないか? 慣れてるだろう?」

「はい、任せてください!」

 

 サーシャさんの依頼を快く引き受けた魔王。

 彼女はそのまま受付の方へと歩いて行った。

 幸いなことに、カウンターには順番待ちの冒険者がすでに何人か並んでいる。

 この分だと、しばらくは戻ってこないだろう。


「ふぅ……疲れたわぁ」

「ひと段落ですね」

「ああ」


 そう言うと、サーシャさんは額に浮いていた汗を拭いた。

 歴戦の冒険者と言えど、やはり魔王を前にしては緊張するらしい。


「というかサーシャさん、思いっきり尻をつねりすぎです」

「すまなかったな。私も緊張していたのだ」

「だからって、俺の尻をちぎる気ですか? 本気すぎですって」

「まあまあ、今はそれどころではないやろ」


 俺とサーシャさんの間に、割って入るリーツさん。

 確かに今はそれどころではない。

 魔王への対処を誤れば、尻が千切れるどころか全身の肉が千切れかねないからな。


「……それもそうか。で、何か妙案は思いついたか?」

「んと、妙案って程ではないんやけど……とりあえずの対処法は」

「おお、さすがはリーツさん! どうするんです?」

「ひとまず、フシノ樹海行きは続行。名目は適当な魔獣退治とかでええやろ。で、聖剣の近くまで行ったら迷ったふりして解散、魔王を置き去りにして聖剣を確保って寸法や」


 なるほど、悪くない作戦だ。

 フシノ樹海は非常に視界が悪い場所なので、迷ったふりをして解散というのはうまく行きそうだ。

 実際、ここで討伐をしている途中でパーティの一人がはぐれたなんて話はよく耳にする。


「いいんじゃないですか? 他に案もないですし」

「ああ。だがそれをやると、本当に遭難してしまわないか? あそこの遭難率はシャレにならんぞ」

「それについてはええもんがある。これや」


 懐の瓶から、リーツさんは赤い飴玉のようなものを取り出した。

 何かの薬だろうか?

 ほんのりとだが、草を煎じた時のような独特の香りがした。


「これは心通丸って言うてな。これを飲んだもの同士は、離れていても会話ができるっていう優れモノや」

「ほう……そんなものが」

「これがあれば、解散した後でも連絡が取れるから安全やで。それに、思っただけで相手に伝わるから魔王がいる前でも安心して会話ができる」

「そりゃ便利ですね!」

「せやろ? 結構貴重なもんやさかい、感謝して飲みや」

「はーい!」


 こうして俺たち三人は、心通丸を飲み干した。

 かなり苦かったが……まあ、耐えられなくはない味だったな。

 もう一度飲めと言われたら、遠慮したいところだけど。

 サーシャさんたちも同じ感想だったようで、揃って渋い顔をしている。


『これは……後でうがいをしないとな……』

『お、聞こえてきたで! 心の声が!』

『ほんとだ!』


 頭の中に直接、二人の声が響いてきた。

 へえ、こりゃ確かに凄い!

 これならば、魔王の前でも安心して話をすることが出来るな!


『こいつの効果は五日間。ま、十分やろ』

『ありがとう、リーツさん!』

『いやいや、私自身のためでもあるから。けど、一つ注意やで』

『なんだ?』

『これから五日間は、何でも考えやイメージが相手に筒抜けってことや。変なこと思ったらあかんよ』


 あー、なるほど!

 もしこの状態で相手の悪口とか考えたら、ぜんぶ伝わっちゃうってことか。

 そりゃ、迂闊なことはできないな。

 いや待てよ、そうなると……。

 これから五日間は、強制的にオ――。


「この変態がああああっ!!」

「信じられへん! うちらのこと、そういう目で見とったんかいっ!!」


 炸裂、ダブルパンチ!

 俺の身体が、再び宙を舞った――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ