第六話 集まった仲間たち
その日の夜。
例の受付嬢がいない時間を見計らって、俺たち三人はギルドを訪れた。
目的は、三人でのパーティ登録。
これから一緒に動くにあたって、パーティを組んでおくといろいろと便利なのだ。
「マジっすか……? あ、失礼!」
サーシャさんが書類を提出すると、担当の受付嬢はひどく驚いた顔をした。
彼女は眼鏡をくいっと持ち上げると、焦った様子でもう一度書類の内容を確認する。
どうやら、サーシャさんがパーティを組むということがよほど意外だったらしい。
「いやぁ……とうとう組まれるんですね、パーティ!」
「まあな」
「ほんと助かりますよ! これで、運動がはかどります!」
そう言うと、受付嬢さんは壁の張り紙を見た。
そこには『パーティ結成のススメ! みんなで楽しく安全に冒険しよう!』と書かれている。
そう言えば、そんなキャンペーンもあったなぁ……。
パーティの方がソロよりも安全度が高く、また依頼の成功率も高い。
そのためギルドでは、ここ数年にわたってパーティ結成を推奨する運動をしていたのだ。
もっとも、肝心のソロ冒険者たちからは「んなことはわかってんだよ! ボッチ舐めんな!」ととても不評だったけれども。
「しかし、何でまた急に? 何度いい人をおススメしても『私はソロを貫く!』って聞かなかったのに」
「それは……たまたま一緒になって、仲良くなったのだ! うむ!」
ヘタッピ!
下手だよサーシャさん、嘘のつき方が……!!
これりゃだめだ、俺はたまらず額を手で押さえた。
絶対に怪しまれたよな、これ……。
そう思っていると、すかさずリーツさんが語りだす。
「そうそう。たまたまレストランで、隣同士になってな。しかも、注文した料理が同じだったんよ。せやから『それ好きなん?』って話しかけたら、えらい気が合うて。で、サーシャとリュカはお互いに冒険者。うちもギルドに籍はあるから、ほんなら三人でパーティでも組もうかと。やっぱ食べ物の趣味が合うとええね」
よくもまぁ、これだけつらつらと出てきたものだ。
さすがは賢者、実に口がうまい。
普通、とっさにここまでは語れないよな。
ギャンブル好きなのはともかく、知識とか能力はやはり本物か。
「へえ、すごい偶然だったんですねぇ。失礼しました、変なことを聞いてしまって」
「別に、気にしなくても構わん」
「では、こちらで登録させていただきますね! 皆様、これから頑張ってください!」
にっこりと笑う受付嬢さん。
やれやれ、どうにか乗り切ったな。
ほっとした俺たちは、ひとまずその場を後にした。
あまり長いことギルドにいると、もしかしたら例の受付嬢に会うかもしれないからな。
「ふぅ……無事にパーティ結成できましたね!」
「せやな、誰かさんのせいで一時はヤバかったけど」
「し、仕方なかろう。私はああいうは苦手だ。だいたい、お前の口の上手さはあれこれ誤魔化すために磨いたものだろうが!」
恥ずかしかったのか、ちょっとばかりムキになったサーシャさん。
ああ、やっぱりそう言うことだったのか。
たまにいるよな、やたらと言い訳がうまいおっさん。
「それより、これからどうします? いったん、解散にします?」
「そうだな、明日に備えねばならんしな」
明日、さっそく俺たちは聖剣を探してフシノ樹海に旅立つ予定だ。
今日は早いうちに寝て、体力をしっかりと回復しておきたいところである。
だがここで、リーツさんが申し訳なさそうな顔をして言う。
「あー……せやったら、サーシャのところで泊めてくれへん? いま家を追い出されててな、馬小屋生活なんよ」
「お前、また家賃滞納したのか?」
「いやぁ、儲けたらまとめて払うつもりやったんやけど……あかんかったわ」
「……仕方ない、部屋を貸そう」
「ありがとう! やっぱり、持つべきものは仲間やなぁ!!」
サーシャさんの手を握ると、大げさな仕草で頭を下げるリーツさん。
やれやれ、ほんとに調子のいい人だな。
人は見た目によらないって、まさにこの人のためにある言葉のような気がする。
「そうだ。リュカもうちに来るか?」
「えっ?」
突然のことに、俺は完全に不意を突かれた格好となった。
何で、俺を家に誘うんだ……?
まさか、この短い間に俺の魅力に気付いたとでもいうのか?
いや、でもおうちへ行くにはまだちょっと早いぞ。
サーシャさんのことは嫌いじゃないけれど、こういうのは段階を経てから――。
「お前、何で顔を赤くしてるんだ?」
「や、だって……」
「この状況で一人は心細いだろうと思ってのことだぞ? お前、魔王に狙われているんだからな」
「あ、なるほど」
そりゃそうだよな……うん。
特に仲が深まるようなこともしていないし。
「まったく、何を考えていたのだが……」
「まあまあ、少しぐらいはええやないの。仲間になったことなんやし、仲良くな!」
そう言うと、リーツさんは俺とサーシャさんの間に割って入ってきた。
そして二人の背中に手を回すと、その距離を強引に縮めようとしてくる。
「おっとと! まあ、こうなったからには仕方ない。仲間として共に頑張ろう!」
「はい! 俺は正直、二人に比べると弱いですけど……よろしくお願いします!」
「私もよろしゅうな!」
改めて挨拶をした俺たち三人。
最後に、サーシャさんが夜空を指さしてバシッと決める。
「では、まずは明日からの初仕事を成功させよう! 私たちの戦いはこれからだ!!」
「おおーー!!」
こうして俺たち三人は、聖剣の探索に向けて気合を入れた。
だがその数十分後――。
「この家、武器庫か何かですか?」
「片づけられない女って、怖いわぁ……」
「違う、武器が多すぎるだけだ! 片づけていないわけではない!」
そこら中に武器が置かれたサーシャさんの家。
俺たちの初仕事は、そこのお片付けとなるのであった――。




