第七話 奥様登場
「なんでその名前が……」
頭を抱えた俺たち三人。
どうやら、サーシャさんたちも聖少女十字団のことだと気付いたらしい。
名前、微妙に間違ってるけどモロだもんな。
一方、教団について一人だけ知らないアルトさんはきょとんとした顔をしている。
「あの、皆さんもしかして知ってるんですか?」
小首をかしげるアルトさん。
……うん、知っている。
というか、自分じゃ知らないけどアンタが一番深く関係してるよ。
毎日毎日、地下の大聖堂で崇められているのだもの。
「まあ、知っているといえば知ってるわな……恐ろしい奴らやで」
「うむ。あまり多くを語りたくはない団体だ……。あれはそう、欲望を剥き出しにしたオークどものような……」
青ざめた顔で語るリーツさんとサーシャさん。
いや、アンタたちそんなに詳しくないだろ?
というかサーシャさん、それはいくら何でも言いすぎだ。
魔神事件の後、あの人たちこっそりあれこれ根回ししくれたみたいだからな。
魔王を信仰しているとはいえ、なんだかんだで結構お世話になっている。
「そんなにヤバいんですか!?」
「ああ、危ない」
「関わらないように気をつけます……!」
猛烈な勢いでうなずくアルトさん。
まさか、こんなところで信仰対象から嫌われてしまうとは。
あのおっさんたちもついてないものである。
まあ、関わらない方がいいのは確かだけどもなぁ。
「それで、依頼についてはどうでしょう? 引き受けてくださいますか?」
「ううーーん……」
司教様の問いかけに、即答できない俺。
ジンに案内されていったお屋敷は、それはもう素晴らしいものだった。
俺たちが頑張ったところで、あれだけのものを購入するには何年かかることやら。
サーシャさんやアルトさんの実力を加味しても、相当な苦労が必要だろう。
というか、お金が貯まる前にリーツさんが無駄遣いしそうだしな。
それを考えると、無茶してでも嘘ついてでも手に入れたいところではあるのだが……。
「その話を聞いてしまうとな」
「せやな。ちょっと心情的に引っかかるものがあるで」
「そうですねぇ……。貰ったとして、気持ちよくは住めませんよね」
サーシャさんたちの意見に、俺も同意してうなずく。
人からだまし取られたものだと聞くと、どうしてもなぁ。
そこへ堂々と住みつけるほど、俺の神経は太くない。
「残念ですけど、お断りさせてください」
「わかりました。ですがもし、気が変わられたらおっしゃってください。正直、これだけの仕事をこなせる冒険者となるとこの地域にはあなた方しかいないでしょう」
そういうと、司教様はサーシャさんとリーツさん、そしてアルトさんの顔を見やった。
……明らかに今、俺をスルーしたのは気のせいだろうか?
まぁ、戦力的に一段下なのは否定しないけどさ。
俺だって、鑑定スキルでちまちま頑張ってるんだぞ?
「まあ、そういうわけなので。失礼します」
「はい。あなた方に神のご加護があらんことを」
こうして俺たちは、ひとまず教会を後にするのであった――。
――〇●〇――
「しかし、あの屋敷は残念やったわ。売ること前提でもらっても良かったかもしれへん。あれ、間違いなく三百万ゴールドにはなったで」
教会からの帰り道。
深いため息をついたリーツさんは、後悔を口にした。
その目はギラギラとしていて、完全にお金のことしか考えてなさそうな雰囲気だ。
「だいたい、あれが誕生日プレゼントってなんやねん! あのジンとかいう聖騎士、他にもごっつ貢がせとるに違いないで! ああ羨ましい、それだけ金があれば毎日カジノいけるで……!」
「結局お前はカジノなのか」
「当たり前やん! 職業ギャンブラーなんやから!」
とうとう言っちゃったよ、職業って。
リーツさん的には、もはや賢者であることよりもギャンブラーであることの方が重要なようだ。
「まあ、ギャンブルはほどほどにしましょ。ギャンブルで身を滅ぼして、魔族に頼ったりする人って結構いますからね」
「……魔王が言うと説得力がすごいな」
「私もそれで呼び出されたりしましたから、ええ。カジノで負けたから世界を滅ぼしてくれ!とか」
「そんな理由で魔王を呼び出したのか……」
魔王を呼び出すとなると、かなり高度な術式が必要になるはずなんだけどな。
カッとなってやったにしては、すごい規模である。
ギャンブラーの技術力は恐ろしいというか、すさまじい執念というか。
けど、そんな理由で世界が滅ぼされたらたまんねえよ!
「とにかく、真面目に働くのが一番ですよ。しばらく頑張れば、魔物も戻ってくるでしょうし」
「そうだな。魔物さえ戻れば、バッタバッタ切り倒して稼げる!」
「でもなぁ、それでもあの家はやっぱり惜しい――」
「あら!」
不意に、後ろから驚いたような声が聞こえた。
振り向けば、そこには先ほど屋敷の前で出会ったおばさんがいた。
なかなか珍しい偶然もあったものである。
「こんなところで会うなんて! あんたたち、悪いことは言わないからあの家は――」
「それなら知ってますよ。司教様から事情は聞きました」
「そうなの。でもどうせ、買っちゃうんでしょ? そこの三人、イケメンに弱そうだもの! 男にモテなさそうな顔してるわ!」
サーシャさんたちを見ながら、やだやだと手を振るおばさん。
途端に、場の空気が凍り付いた。
彼女たちの身体から、ただならぬオーラが漂い始める。
中身はそれぞれ残念なものだが……外見はともに美少女である三人。
それが中年太りしたおばさんにモテないと言われては、黙ってはいられないようだ。
「おばさん、その脂がしたたり落ちそうな顔で何言っとるん?」
「そうですよ。そのお腹、四段腹は超えてますよね!」
「その胸、補正下着で盛りまくりだろうが! 形で分かるぞ!」
おばさんの容姿に対して、文句をつける三人。
一部、本人のコンプレックスが滅茶苦茶反映されているのは気のせいか。
「なによ! ちょっと若くてかわいいからって生言っちゃって! あんたたちぐらいの子なんてね、うちの奥様と比べれば月とスライムよ!」
「ス、スライム!?」
「そうよ! ……あっ! ちょうどいいところに!!」
そういうと、盛大に手を振り始めるおばさん。
その視線の先を見やると、そこには――。
「うわぁ……!!」
輝くほどの妙齢な美女が、優雅に日傘を手に立っていた――。




