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鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第二章 家を取り戻せ!
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第五話 聖騎士ジン

「本当に……屋敷を?」


 サーシャさんが声を震わせながら聞き返す。

 いくらこの街が田舎で、土地がさほど高くないとはいえ……。

 屋敷と呼ばれる規模の邸宅なら、百万ゴールドぐらいはするはずだ。

 魔族絡みの依頼とはいえ、気楽に渡せるような代物ではない。


「ええ」

「本当の本当なんやね?」

「はい。仮にも聖職者ですから、嘘は申しません」


 そういうと、穏やかに微笑む司教様。

 とても嘘を言っているようには見えないが……話がちょっと上手すぎるよな。

 

「そのお屋敷、見せてもらうことは可能か?」

「もちろんですよ」

「サーシャさん!」


 がっつくサーシャさんを、焦った様子でアルトさんが止めた。

 彼女は皆の肩をガシッとつかむと、半ば強制的に部屋の隅っこへと移動させる。

 そして、神父さんに聞こえないように小声で語りだした。


「ダメですよ。事件の真相を語るわけにもいかないですし、だいたい魔族の討伐ってどうするんですか? まさか、私を倒すんですか?」


 それなら受けて立ちますよ、ガッツポーズをするアルトさん。

 美少女が腕まくりをするその姿は、とても可愛い。

 可愛いのだが……背後から、抑えきれない何かが立ち上っていた。

 司教様の手前、出来る限り制御しているのだろうけど……。

 ゴゴゴゴゴゴ!的な見えてはいけない何かが見える。


「そんなわけないって。な? サーシャ、リュカ?」

「ええ、もちろん! だって、アルトさん仲間じゃないですか!」

「そ、そうだぞ。寝込みを三人がかりでやればぎりぎり何とかなるかもとか思ってないぞ!」

「やっぱり思ってるんじゃないですか!」

「い、一瞬考えただけだ! ほんのちょっと! 先っちょだけ!」


 親指と人差し指で、狭い隙間を作って「少しだけ!」とアピールするサーシャさん。

 先っちょとか、そういう問題じゃないと思うのだけど……。

 案の定、アルトさんの怒りは和らぐことなくどんどんとヒートアップしていく。

 しかしここで――。


「あの、先ほどから皆様どうなされました?」

「あ、いえ! お構いなく!」

「そうですか? いま、悲鳴が聞こえたような……」

「大丈夫ですよ! すぐ戻ります!」


 そういうと、アルトさんはすぐさま司教様の前のソファへと戻っていった。

 あ、あぶねえ……!!

 危うく魔王が目覚めるところだった!!

 いつも大人しいから勘違いしてしまうけれど、アルトさんはあれでも魔王。

 やっぱ怒らせたらヤバいんだな。


「それで、見学の方はどうなさいますか? されるというのであれば、今からでも可能ですが」

「あー、そうですね……。一応、見せてもらいましょうか」

「わかりました。おーい、ジン! 来てくれないか!」


 パンパンと手を叩く司教様。

 それに応じて、すぐさま一人の聖騎士が姿を現した。

 彼は長い金髪をファサっと手でかき上げながら、やたらと気取った感じの笑みを浮かべる。


「初めまして! ナンバーワン聖騎士のジンです!」

「ええっと、こちらこそ初めまして」


 やたらキラキラとしたオーラを出す聖騎士に戸惑いつつも、握手を交わす。

 ナンバーワン聖騎士って、いったい何がナンバーワンなのだろう?

 やっぱり、剣術の強さか?

 いや、今の教会だと聖水の売上とかも普通にあり得そうだよな。

 この人、ものすごく口がうまそうだし。


「ジンよ。この前、寄付された屋敷があっただろう? この冒険者さんたちを、あそこへ案内してやってはくれないか?」

「かしこまりました、喜んで! さあお嬢様方、どうぞこちらへ!」


 サッと手をかざし、サーシャさんたちのエスコートを始める聖騎士ジン。

 お嬢様方って。

 一応、男の俺もいるんだけどな。

 ランクが低いとはいえ、さりげなく失礼な奴だ。


「屋敷は教会から徒歩十五分ほどの場所にございます。さあ、付いて来てください」


 こうして、ジンさんについて歩くことしばらく。

 俺たち五人は、貴族や豪商たちの屋敷が立ち並ぶ一角へと差し掛かった。

 どうやら問題のお屋敷というのは、この地区にあるらしい。

 こりゃ、思ってたよりもすごい建物かもしれないぞ……。

 俺が少し緊張していると、前を歩くジンさんの足が止まる。


「ここです」

「おおおっ!!」

「こらぁ、大したもんやないの!」

「すっごいのですよ!?」


 聳えたつ大邸宅。

 長方形の母屋の端に、尖塔が一つくっついたような形をしている。

 鉄格子に囲まれた庭は大きく、咲き乱れる花々の中心には噴水まで備えられていた。

 こりゃ、百万ゴールド程度の騒ぎじゃない。

 一千万ゴールドだって言われても信じるぞ俺は……!!


「依頼を達成すれば……この屋敷が!?」

「その通りです」

「ほへー……剛毅な話やなぁ。というか、こんな屋敷を寄付する人がおったんかいな」

「はい。さる富商の奥方様ですが、それはもう気前よくお譲りくださいました」


 白い歯を見せて、にこやかに笑うジンさん。

 しかしなぜだろう……その顔からは、何か胡散臭いものを感じた。

 サーシャさんたちも同じだったようで、少し訝しげな顔をしている。

 するとここで――。


「違うわよ! その男はねぇ、奥様をだまして屋敷を奪ったのよ!!」


 どこからともなく現れたおばさんが、声高に叫ぶのだった――!!


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