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鑑定スキルを極めたら、受付嬢が魔王だった件  作者: キミマロ
第二章 家を取り戻せ!
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第三話 魔王さまのニガテ

「次は、隣の村で羊の毛刈りのお手伝いです!」


 パン屋さんの手伝いを始めて三日。

 街に帰っていたアルトさんは、パーティに戻るとすぐに次の仕事を告げた。

 羊の毛刈り……ねえ。

 農作業、パン屋の手伝いに続いてまたもや冒険者とはあまり関係のない仕事だ。

 魔物の枯渇で、依頼が減少してしまっているのはよくわかるが……。

 さすがにちょっとひどくないか?


「アルトさん、もうちょっと他にないんですか?」

「そうやで、さすがにちょっとなぁ」

「そうか? 私は別に構わんが」

「農家は黙っとき」

「農家!?」


 リーツさんの言葉に、大いにショックを受けるサーシャさん。

 けど、確かにここ数日のサーシャさんは農家だよな。

 パン屋さんでも、小麦粉に語り掛けてたし。

 Sランク冒険者の面影は、あまりない。


「ぐぬぬ、あまり否定できんのがつらい……!」

「まあとにかくや。ほかに何かないんか? スローライフもええんやけど、シティ派としては街が恋しいんや」

「シティ派って、そんなに都会じゃないですけどね」


 断っておくが、俺たちの街はどちらかというと辺境の田舎である。

 これでシティ派とか言ってたら、王都の人に笑われてしまうだろう。


「ううーん……いま街に行かれると……」

「何かまずいん?」

「あっ!」


 ハッとした顔で、口元を抑えるアルトさん。

 彼女にとって、何か不都合なことがあるのだろう。

 実にわかりやすい反応であった。

 仮にも魔王だというのに、嘘はあまり得意ではないらしい。


「何があるんですか? 理由ぐらい説明してくださいよ」

「えーっと、その……」

「大丈夫やって、怒らへんから」

「実はですね、依頼あるんです。割のいい依頼が」


 アルトさんがそういうと、リーツさんとサーシャさんは揃って動きを止めた。

 やがて二人の身体が、がくがくと震え始まる。

 頬が見る見るうちに赤く染まり、額にピシッと青筋が浮いた。

 あ、これは……。


「それはどういうことだ、アルト!」

「そうやで! ことと次第によったら、許さへんで!」

「怒らないって、言ったじゃないですかぁ!」

「ま、まあまあ。ちゃんと話を聞いてからにしましょ? ね?」


 三人の間に割って入り、どうにかこうにか騒ぎを落ち着かせる。

 ここでアルトさんを怒ったところで、お金が増えるわけでもなし。

 それに彼女の性格から考えて、何かしっかりとした理由があるはずだ。


「おほん。では、話を続けますね。その割のいい依頼なんですけど、依頼主が問題でして。その……教会なんですよ!」

「……別にいいんじゃないか?」

「そうやね。教会なら、間違いなく依頼料も払ってくれるやろうし」

「ダメですよ! だって、私は……!」


 そこまで言われて、理解する。

 アルトさんはこれでも魔王、勇者を輩出する教会とは犬猿の仲なのだろう。

 俺たちを教会に関わらせたくないという気持ちも、何となく理解できる。

 下手をすれば、先祖が教会の勇者にれてるわけだしなぁ……


「あー……そら確かにな」

「すまん、アルトの立場をすっかり忘れていた」

「本当ですよ! 私がらしくないからって! 一応言っておきますが、それっぽい言葉遣いとかもできますからね? 疲れるから普段はやりませんけど」

「あ。たまにやるあれって別に素とかじゃなかったんですね」

「そりゃそうですよ。私、まだ若い女の子ですし」


 ん?

 確か、ステータスで見るとアルトさんの年齢は百歳を軽く超えていたはずだが……。

 魔族的には、あれでもまだ若者なのか。

 ちょっと突っ込みたくなったが、何やら危ない気配がしたので避けた。

 一瞬だけど、寒気を感じたのは嘘じゃないと思う。


「あれ? でもそう言えば……アルトさん、聖剣とは仲良くなってましたよね。売ろうって言った時に、全力で抵抗してましたし」

「はい!! マブダチですよ!」

「じゃあなんで、教会はダメなんですか?」

「それはもちろん、彼らがひどいことするからですよ! こちらが財政難で苦しんでるのに、毎回毎回豪華装備を見せびらかしてきて……!!」


 ……あれ? 

 何だか、話の雲行きが怪しくなってきたぞ。

 てっきり、勇者に先代魔王が倒されたとかそういう話だと思ってたんだけど……。

 俺たち三人が首を傾げている間にも、アルトさんの愚痴は加速していく。


「魔王のことをお金持ちだって思ってる人いますけど、実際はガチで貧乏なんですよ! だって、魔界の住民はほとんど税金なんて払いませんからね! ホントにみんな勝手気ままで……」

「え、えーっと……」


 なんて声を掛けたらいいのやら。

 俺が悩んでいると、さらにアルトさんは続ける。


「ただでさえお金がないのに、お父様ときたら『勇者を迎え撃つため』とか言って、城を動くように改造したんですよ! そんな機能あったところで、ほとんど使わないのに! みんなどう思いますか!?」

「まあ、良くない……ですね」

「ですよね! おかげであの時は、毎日お芋生活で……。魔界の芋ってぜんっぜんおいしくないんですよ! 人間界に来て、まず感動したのはお芋の甘さでした!」

「……わかった、よくわかったぞ!!」


 これ以上、言わせて置いたら止まらなくなると判断したのだろう。

 サーシャさんが、きっぱりとアルトさんの話を止めた。

 そして――。


「教会の依頼、すぐに受けよう」

「えええっ!?」


 ごくごくまっとうな結論を導き出すのだった――。


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