第一章おまけ テコ入れ作戦会議
「えー、今回の話はメタ要素たっぷりでお届けするで。そういうの苦手な人は、ここでバックすることを強く勧めるわ。あくまでおまけやから、読んでも読まなくても次の話に影響ないし!」
そう言って前置きを済ませると、リーツさんは改めて俺たち三人の方を見やった。
その顔はやけに真剣で、眉間に深いしわが寄っている。
これから何の話が始まるのか、緊張感が高まる。
「みんなに集まってもらったのは他でもない。これから始まる第二章の路線を、どうしていくかや!」
どこからか出現した黒板。
リーツさんは、それにでかでかと『第二章』と書き込んだ。
いや、そもそもこれ俺たちが話し合うことなのか……?
俺は首を傾げたが、構うことなく話は続いていく。
「路線って、今まで通りでいいのではないか? 幸いなことにそれなりに評価も得られている。このまま続けていくべきだろう」
「その認識が甘いんや」
「というと?」
聞き返したアルトさんに、リーツさんはやれやれとため息をついた。
彼女は再び黒板の方を向くと、そこへ大きな放物線を描きだす。
これは……何かのグラフだろうか?
「確かに、この作品はおかげさまで出足順調や。読者の皆様には本当に感謝せなあかん。ただな……この作品、ピークを既に過ぎてしまっておるんよ」
そういうと、リーツさんはグラフの頂点を指さした。
そしてそこから、下に向かって落ち込んでいくラインをなぞる。
「基本的に、人気のウェブ作品というのはランキングに乗るとある程度のところまで勢いが上がり続ける。そのピークが、このグラフで言うところの山のてっぺんやな。で、そこから先は大きく落ちていってしまうんよ。この作品の場合やな、既にその落ち込むフェーズに入りつつある」
「な、なるほど……」
「少しずつでも伸びていくならいいんじゃありませんか? 今の読者さんを大切にしながら、ちょっとずつ上を目指しましょうよ!」
アルトさんがそういうと、リーツさんはまたもやため息をついた。
彼女はどこからか取り出したチョークをくるくるっと回すと、黒板に『魔獣ブクマ外し』と書き出す。
「わずかでも伸びていくならまだええんや。けどな、現実にはそうもいかなくてな。魔獣ブクマ外しっていうのが現れてしまうんよ」
「な、なんなのだ? その見るだけで本能的に恐怖を感じる字面は……!!」
「そ、そうですね。何だかすごくヤバいものの気配がします……!」
「これはやね。作品を更新するたびにブクマを減らしてしまう恐るべき魔獣なんや。作品の勢いがピークを過ぎた頃に出現して、作者のみんなを恐怖に陥れる存在なんやで!」
そういうと、黒板をババンッと叩くリーツさん。
彼女は拳を振り上げると、そこから熱弁を振るいだす。
「つまりや。現状で満足してしまうと、かならず成長が止まって頭打ちになる! 今後もこの作品を育てていくためには、キリの良いここらでテコ入れあるのみ!!」
「ほ、ほう……! だがしかし、テコ入れと言っても何をするのだ?」
「そうですよ! 急に言われても」
「そこは安心しいや。私にいい案がある」
そういうと、リーツさんはこちらへと振り向いた。
そして俺の顔を指さすと、大きな声で宣言する。
「まずはリュカ! 第二章からは職業『賢者』になるんや!」
「賢者!? なんで!?」
「わからんか? 賢者ってのはな、ウェブ小説において最大の人気職なんや。世はまさに、大賢者時代なんやで! とりあえずなっとけばPV倍は堅い!」
やたらと熱量高く語るリーツさん。
言われてみれば、賢者は多い気がする……!!
一家に一人は大げさだけど、一世界に一人ぐらいは必ずいるような……。
「でも急に賢者って、俺そんな能力ありませんよ!」
「だいじょぶだいじょぶ、別に資格が必要なわけやないから。占い師とかと一緒でな、名乗ったもん勝ちやで」
「そうなんですか?」
「せやせや。賢者なんてもんはその程度やで」
うわぁ……!
この人、自分自身が賢者なのに何かすげえこと言いだしたぞ!!
つか、己の存在価値否定してないか?
「は、はぁ……。でも、俺が賢者になったらリーツさんはどうするんです?」
「そこはあれやな、リュカのチートっぷりに驚く一般賢者って役どころに収まるわ。そういうのが一人はおらんと、主人公の凄さがわかりにくいやろ」
あっけらかんとした口調で語るリーツさん。
凄い割り切りというかなんというか……!
あまりのことに、サーシャさんたちは揃って呆れた顔をする。
「……お前にはプライドというものがないのか?」
「そうですよ! リーツさん、賢者としては一流なのに! ヨイショだけだなんて!」
「ふっ、そんなもの野望の前には塵も同じや」
「野望って、何です? まさか、人気作品になったらこっそり主役になるとか……!?」
「小さい小さい。私の野望はそんなもんやないで!」
そういうと、リーツさんがいきなり二人に増えた。
いや、これは……人形か?
パッと見ただけでは、本人と区別がつかないほど精巧な人形。
それがいつの間にか、リーツさんの隣に並んでいた。
「この作品が大人気になった暁には! この等身大リーツちゃん人形(税抜百万)を売って売って売りまくるんや! でな、儲けた金でカジノ王に私はなる!」
「なれるか! せいぜい借金王だ!」
「そんなことないで! ちゃんと、サーシャたちのキャラ改良プランまで用意してあるんよ? サーシャはリュカに負けて忠誠を誓う女騎士、アルトはリュカの強さに戦わずして服従する魔王。二人ともリュカに……」
つらつらと自分で考えたらしい設定を読み上げていくリーツさん。
その内容に、たちまちサーシャさんとアルトさんの顔が真っ赤に染まっていった。
そして――。
「そんなのやれるかあああぁ!!」
「ひでばっ!?」
炸裂する二人の拳。
哀れ、リーツさんは空の彼方へと吹っ飛んでいった。
まあ、とにもかくにも――。
「今後ともよろしくお願いします!」
俺たち三人、声を揃えて頭を下げるのだった――。
※リーツの言っていることはほぼすべてでたらめです!